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RELIS  作者: 孤独
災害編
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生存



どいつもこいつもであるが、生きている理由など各々がやってりゃいい。

自殺は良くない?

その通りだ。

その腐りきったテメェの心と体から溢れていく、人の鼻と眼を焼くような痛みある臭いが、また強く発する動けない死体となって外に転がってちゃ、ゴミ処理所も葬儀屋さんも、生きる俺達にも、金にも笑いにもならん面倒なんだ。

だから、自殺するなら太平洋を泳ぎきって死んだ方が良いとする。魚でも、鮫にでも、食われりゃいい。衰弱して溺れ、深海に沈めば良い。低体温となって凍えて死ねばいい。それでも、奇跡的に泳ぎ切って生きていれば、ちょっとは生きるのも悪くないと思うはずだ。まずありえないし、それもありえないこと。なぜなら、やる必要などないからだ。



そんなもんだ。



あ、言っておく。



「誰だって死ぬのである」



それは怖いかも。つーか、嫌だ。それを思えるってのが、生きたい理由に繫がる。

理由ねぇけど、好きな人ができるもんと、好きな事ができるもんと同じく。理由なく、生きている。



「それを忘れて、今は食べて、笑い、眠って欲しいのである」



死にたいのなら寝なければ良い。飯を食べなければ良い。笑わなければ良い。一人になればいい。


「生きているという人達は、そうしておられるのである」


このような事態、災害を直視しても。生きているという奴はきっと、そうしている。

食べて、笑って、眠ってやがる。

人の原点。生きているという、仕組み。

やりたい自分、なりたい自分も、見つめ直すには丁度良い時間。



生きている人達が手をとり、残る食べられる物を大切に調理する。もったいないくらい出して良いのだろうかって?

そんな不安もある。

人を多く失ったというのに、皿が人数もない。箸もフォークも、……。また、豪華にしては普通から遠ざかっているかもしれない。笑えない食事やろって。

下に下に、考えが暗くなっていくのも、気落ちも含めて、生きていることが陰っていることだろう。

言葉でどうと、



「いただきます」



なるというのであるか。

お腹空いたにしては、精神的なあらゆる拒否が肉体に染み付く。現実からの逃避が求められている証拠か。

それでも、ヒュールは食べるのである。


「冷めたら、美味しくないのである」


住民達を促す。食べること、声をかけられること。

まだその皿にある、食事の温かさから



パクッ



ゆっくりとであるが、静まりながらも口は動く、手は動く。


「ん、美味しい」

「ああ。そうだね」


舌が動き、歯も顎も噛み締め、喉が閏って言葉を作る声が出る。

明るき声が、少しはこの暗い現実に、光が灯っただろう。じわりと、食べ物からとれる元気をもらえる。

なにができるかなんて、小難しい事を考えている者はいなかった。そのはずだ。



「まずは食べてからにしようである。そして、話そうである」



こうして生きている者達が食べ、話せることを。

我々が生きている、その意味であること。



カタンッ



決して。


旨いカレーライスを食えることでも、イクラがたっぷり乗って醤油と山葵が利くご飯と一緒に食うことでも。お湯入れて3分程度待って出来上がる、カップラーメンでも。

それらを選り好みできようとも、だ。

人はそーした事で良かったと思っており、築きあげていくこと。0からだろうと、1からだろうと。少しずつ少しずつ、積み上げて昇り、届くこと。



舌が喜んだのはホントに一瞬だろう。少し、眠気も来ていた。

ヒュールは口を、手で拭う。歯ブラシも、爪楊枝もない。

贅沢なものかな?テーブル、ないし。椅子もない。でも、それらを造る、造った人が。ここにいる。



「……………」



でも、時間も場所も。希望すらないんだろう。

空を見上げて、綺麗な白い空がこの地に降りたら、終わること。


「どのように、これから生きていこうであるか?諸君」


受け入れる事を、伝える。それがとても残酷だけれど、現実を見つめるという点で必要なこと。

誰の願いでも叶えるランプでもねぇ。


「時間がない事を、知っているであろう」


訴えること。そして、私はこうでありたいと、訴える。それが上に立つということ。


「だから、私は最後まで、生き抜こうとはしないのである」


それが現状。

苦しくある。


「ならば、どのようなその最後を願うか。皆がこのように食べられ、このように笑い、このように話せ、穏やかに眠ることである」


所謂いわゆる


「幸せなまま、私達は亡くなろう」



死を受け入れる。

それは正しく、決して不幸ではなく。幸せであると抱き。

未来に残せるものを見て、死ぬか。そーじゃなくても、塵すら残らぬほど、そこに自分がいないほどであってもいいと。



ふざけるなと。



「じょ、冗談じゃない!!」

「死ねと言うのか!?」

「私達は助からないのですか!?」



それはある。また、


「立て直しましょう!!」

「また1から……いえ、0から!」

「子供の未来はどうなるというのですか!?」

「死んでどうするのですか!?」


彼の諦めを撤回させたいと、声を出す者達もいる。

ただ見守るロイと夜弧。人々の決断をこの目で見届ける。ヒュールは様々な声に、



「その言葉の数々。私は、私達が思う以上に人が強いのであろう」



決して、強い否定や諦めを説かなかった。ただただ、



「感謝である」


人の生きる。その強さは紛れもなく、一つの生物が吼えるだろう生存への執着だ。ヒュールにだってある。死にたくない。気持ちはおそらく同じだが、


「それを込めて、私達。人類はここを一つの終点とするべきである」


自分達は助からないと分かる。当たり前の頭脳があれば、分かるであろう絶望への理解。知識を持つ、感情を持つ。諦めをつける。区切りをつける。


「これが、私達のできることである」




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