傷跡
ヒューーーーッ
風の一つで粉は舞う。
でも、建物も人も、それで微動だにはしない。世界はそう、気にしていない。
だが、時代という次元であれば、今の彼等も、今の世界も、そう気にしてはいない。
その終わり近づこうとも、結局何も気には留まらない。
「!あー!」
「春藍様ー!ご無事でしたか!」
ライラ達が傷付きながらも、帰還。
「お兄ちゃん!」
「戻ったぞー!」
続いて、水羽と謡歌。さらには生き延びた住民達も、春藍達がいるところに辿り着いた。
「良かったー。ライラと夜弧が無事で!」
「し、心配してくれたのね……」
「ご心配をかけました」
春藍からもライラと夜弧の無事を知り、2人に頼み込む。
「僕、これからアレクさんの無事を確認してくるから。しばらく、ヒュールさん達の保護をお願い!」
「あんたはホント、こー……」
「ブレませんね!」
「え?」
なんで怒られるのかをよく分かっていない春藍。しかし、そんな疑問を後回しにするほど、アレクが心配であった。
あの場所でも戦闘があった事は予想しており、無事かどうかも確認できなかった。
「1人で大丈夫か?藺兆紗の奴が死んだかどうか、確認できてねぇーぞ」
ロイは付き添う気をまったく見せていないが、個人行動の危険性を指摘した。まぁ、アレク自身が個人行動をとっているのは気にしていない。
「あたしもいく。夜弧は戦えるんだから、ここに残りなさい。治療もできるんだし」
「いいの?ライラ」
「ずるくないですかー?」
せこい感じで、春藍とライラがアレクの様子を見に行く事に。
「俺達は休んでいようぜ。夜弧」
「……そうですね」
夜弧は少し不満気ではあるが、ロイと夜弧、水羽はこの中で残ることに。
「お兄ちゃん!またどこかに行くの?」
「アレクさんのところ、謡歌はここにいて。水羽ちゃんの傍にいた方が良いよ」
「そうだぞ!謡歌!こいつより、僕の方が強いぞ!」
「アレクの無事を確認したら戻るから平気よ。長い事、いるつもりはないから」
ライラの付き添いにはそれもあったんだろう。謡歌は彼女の言葉に納得し、兄の行動に、少し苦しんで見送った。
「アレクは改造に没頭するのであるか?」
「たぶん、そうかと。伝言があれば伝えますけど、ヒュールさん」
「…………」
まだ、休憩というのをとっていない彼の顔は、かなり疲れていて、
「追って、伝えたい事があると。それだけで良いのである」
アレクに伝えるよりも先に、生き残る者達に話さねばならない事がある。春藍にはそれで良いと思っていたが、ライラはそうはいかなかった。
「何よそれ?」
「……んー。そうであるな」
ヒュールの思いを受け入れてあげなかった。当然らしい事で、疑問に思うこと。
「翌日、皆に話すつもりである。アレクに伝わるのが遅れると思ってのことである。今日は少し頭も重いのである。みなも同じである」
「……それなら良いけど。でも、あたしだってアレクやクォルヴァがあなたを信頼しているから、よほどの事じゃなければ止めないわ」
「ありがとうである」
ライラにはヒュールのこれからの指標は、分からなかっただろう。
それよりも春藍と違う意味で、アレクの状況が気になっている。また、こちらの情報を報告する必要もある。
知る限り、"SDQ"の侵食は早まっている。
◇ ◇
同刻。別の場所。どこか分からない場所。
「……………?」
三矢は意識を取り戻す。しかし、それは眼が開いたとかではなく、今は塵芥に等しい自分の状況で分かるという奇跡。それでも生きているということ。
「……………」
声が出ない。
伸ばそうとする手もない。地面を歩く足すらない。というか、地面にいない?
死んでいるという状況と、生きている意識の矛盾。
転生でもしたみてぇな。
いや、同じ魂を使って、肉体だけを入れ替えて今まで生きているんだ。それにこの感覚はまだ自分の肉体も死んでない。むしろ、再生していくこと。
『まだ、時間は掛かる。あなたは、死ぬには早い』
この意識も、おそらく再生されているものと、三矢は気付く。
これをする者がいる。
『かろうじて、あなたが生きていた時に出会えた事が奇跡的だ。大事にするべきですよ。三矢さん』
まだまだ、の事であろう。しかし、語りかけられる。
"本音"がある事で真意は、ハッキリとする。聞くだけでも有益な情報を得られる。
『爆発に巻き込まれ、肉片となったあなたを私は発見した』
なにそれ、怖い。
『私の知る限りの、あなたの肉体を再生させます。先の事は任せますよ』
爆発……?俺は死に掛けていて、こいつに助けられている?
フラッシュダウンの連続で、記憶の接合ができない。むしろ、それが挟まってくること。それに違和感。
意識が回復させられるところで朧ながらも、一字一句、その声を確かに、"本音"なく受け取る。
【少しはカッコ良いとこを見せなさい】
「…………!」
声が、言葉が、今の自分に欲しい。
疑問がある。
その前に、俺には何かがある。手でも、足でも。今を尋ねれば分かる。言葉の呪符が解ける。
あんたが俺に頼むこと。
ギュゥッ
「!」
「…………」
戻った手で握ることを止めなかった。
離しはしなかった。話が終わるまでだ。
「まだ何かありますか?三矢さん」
口を、喉を、
「っ、かはっ」
顔から戻っていくと、痛覚をそのままに口にするから五月蝿い。それでも堪えて、尋ねる。表情から何かを見たと、確信した。
「お、俺を」
「はい」
「四散前までに戻せっ……」
彼が生きている事よりも、彼に助けられている事よりも。とても大事な事が三矢にあると、彼自身も理解した。それは何よりものこと。聞かれなくたって分かることなんだ。
「承知しました。しかし、話してくださいよ?あなたが見た者を」
「いいから。早く。いてぇし……。麻酔効果もないのか。お前の回復……」
「だから、顔からの再生はキツイですって。止めてあげたのに」