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RELIS  作者: 孤独
災害編
592/634

指標



ガラアァァッ



「まったく、最後の嫌がらせか?」



アレクは藺兆紗が零していった人間達の全てを焼き消し、再び、タイムマシンの改造に着手する。

派手に暴れ、研究所という体裁は完全になくなった。

あれだけやればそうかもしれない。これ以上の邪魔があっては、さすがに失敗しましたとは違うものになってくる。

元々、この配置が藺兆紗を殺すための事だ。

本体を完全に倒したかどうか。この人の山々には確認不能と言えよう。念のため、全員燃やすかとも思ったが、生き残った連中に不安を与えるだけか。



「ん?……!……ちっ、……ふぅー」


タバコの箱を潰した事を忘れて、エアタバコで気を紛らわせるアレク。正直、これはもう反射の域だった。

タイムマシンの改造が終わったら、自分でも意外なほどやりたい事を思いついた。



「死ぬわけには、ならねぇな」



とは言うも、藺兆紗以外の不安要素がある。"SDQ"の侵食だ。研究所は危険地帯ではなかったが、これだけ派手に暴れたら、やってきたかもしれない。

また、そいつの時間も早まっていると見て、間違いではないだろう。

焦っても仕方ないところもあるんだ。

でも、時間との勝負。




◇        ◇




シュウウゥッ


「これで大丈夫ですよ」

「…………私を治療して良かったのであるか?その力を使ってまで」

「アレクさんに頼まれたわけですから。きっと、アレクさんからも言われます。ヒュールさん」



倒壊によって負傷したヒュールは、春藍によって直された。

これからのやる事を、



「あなたに任せています」



春藍は委ねている。

まったく圧迫しない彼の眼が、己を呪う。ヒュールに明るさはない。



「いいのであるな?」

「ええ」


春藍達が助けた住民の数は57人。謡歌がこれから連れて来る者達を含めても、100人も満たない数になってしまった。あれだけにいた人々が、もう亡くなってしまった。命を奪われてしまった。

動揺も、不安も、恐怖も、感じている。


「……………」


少し考えているのだろう。

春藍もまた捜索を打ち切って、待機している。アレクが藺兆紗を倒したこと、ライラ達も生きていると信じてのこと。

水羽が謡歌を連れて戻ってくること。


信じて待つことも、また一つの手段。


「私達はどうすればいいんですか?」

「何をすれば、できることは?」


春藍は訊かれる。けれども、自分の役割は


「僕がそれに答える事はできないよ」


一貫して、立ち位置を一つの駒と捉える。指導者というのには向かない。資格もない。

春藍はヒュールに目をやって、生き残った者達への指標を求めた。ここで何をすればいい?


「……今は、待つのである」

「待つって……それだけ?」

「落ち着くのである」



するべき事は沢山あるよ。そんなことくらい、気持ちが落ち込んでいるヒュールにだって分かる。ただ


「何人生き残っているのか、確かめる必要があるのである」

「!」

「ヒュールさん……」

「堪えてくれなのである」


時間はちゃんと設けている。頭はしっかりと、立場を意識して前へと進んでいる。

春藍は汲み取って、ここだけは問う住民達に答えてくれた。


「ヒュールさんは今。必死に考えてくれています。僕達は生きている人々の帰還を待ちましょう」

「は、はい!」

「分かりました!」


そういって、人々はヒュールを頼って、ただ待つことを選べた。

1人やある程度のグループでは、生き残れない事が分かっている。今は落ち込んでいる彼には責任と資質があると、生きている者達には理解されている。

自分達の事だけを思っていたが、まだ生きている人のための事も思っている。



「……………」



大変だな。

しかし、預かり、残ったのが自分ということ。



「…………ふぅ」



今、考えると。

不安と恐怖に汚れた事ばかりだ。緊張感のせいで体が麻痺してきて、目にクマができるって瞬間を理解できるほどだ。

苦しむって事が生きている。それも一つの生か。

今の誰でもそうかな。きっと、春藍くんもアレクも。

でも、私達は苦しむために生きているわけじゃないだろう?



「春藍くん」

「はい」

「ベットと毛布。あと、シャワーであるかな?造ってくれんか?みんなが落ち着けるように」

「え?」

「住民達に、ささやかな安らぎを与えたいのである。君達も疲れているであろう?」



緊張を解くという、大胆な発想。

"SDQ"も、藺兆紗が本当に死んだのかも不明で、まだまだ危険因子は多い中でだ。

ヒュールは今の思考を諦めているかのようだった。


「大人は捜索と食糧庫に向かい、持ってくるように伝えて欲しいのである。ま、それは私が伝えれば良いであるか」

「はー……?」


春藍は目を丸くしてしまう。

それがこれから、ヒュールの選択をどーいうモノにするか。わずかに蔭って、根本こんぽんの心を曇らせていき、自分だけじゃないって分かっているから。

無理を言っている。ように見えて、必要なところだった。



「食べよう、寝よう、休もう」



当たり前だったか。



「それから考えるのである」



きっと考えているかだ。その答えは



「まずは、1人1人が生きている理由が必要である。この苦境で、生きてる理由が必要である」



人があまりにも亡くなり過ぎた。

また、その数だけでなく、大事な人まで失った事をヒュール自身がよく分かっている。

これからまた造り直せる建物や、人々の秩序を守る法も、いずれは作られても。今この時は作られることも戻ることもない。ただ、もし、…………。

今を失っては、その先で造られたはずも無くなってしまう。

それだけはないようにと、今を護る者達と死んでいった者達は、ヒュールに託すのだろう。託されているのだろう。



自分自身。見失いそうなところを、また取り戻すための休息。



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