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RELIS  作者: 孤独
災害編
591/634

人間


ドババババババ



終わる世界に、人が集まっていく。空から落ちて行く。

荒れた土地のまま終わるのだろうか、それともゴミの山の如く。人の死体達が積み上げられて、終わるのだろうか。


「………ふっ……はっ……」



謡歌は見上げて、何を思っただろうか。



「人って、凄いなぁ……」


胸に来る。不安の濃さを、積み上げられる動かぬ人々を見て感じる。

呼吸をしている事がとても幸せに思えるほど、張り詰める状況。

こうされているのはその、大勢という人間が作り出したことであると。



「よ、謡歌さん……」

「この人達は……」


謡歌が保護した住民の数は17人。そこには怪我人もいるし、子供は9人もいた。

皆が藺兆紗の暴走に戸惑い、不安に駆られる。


「大丈夫。うん!元気出そう!」


根拠はない。


でも、謡歌の笑顔は潰えても、ひっついてもおらず。満面の、花のように笑っていた。

この狂っている中。歩いている自分達がいること。

一つの答えが確かであると、実感がある。これが生きている人間なんだ。


踏み越える足ではなく、謡歌の歩んでいく足が。


「……行こう」

「どこに?」

「分からないけれど、とりあえず」


住民達の足を止め、不安の増長をも止めた。どこに行こうか分からないが、今。無事に歩いている事が生きている。それだけが事実で、あとで探そうと思う。

色々しなければいけないこと、色々とだ。人は忙しい。


「謡歌に付いて行こう」


足が、進む。

住民達の動く足は謡歌に向かって動き出す。

この災害時。ジッと、救助を待つのが懸命なんだろうか。しかし、もう。全てが終わったかのような光景を前に、何かが起こるという期待は、謡歌自身にも、生き残った住民達もないと判断している。

積まれて倒れている人々の多くが、死んでいるのだから。


「気味が悪い……」

「先ほどの白い光も、一体なんなのか」


こんな光景で生きている人を探すのは、不可能と言って良い。

誰もそうを思わない。

しかし、何を思うだろうか。



「シャワー、浴びたいなー」

「はい?」

「パンでも良いし、ドレッシングをたーっぷり使ったサラダも良いなー。コーヒー付きの朝食……」

「それはいいですけど」

「なんで今?」


唐突にも程がある。謡歌がこぼした願い。それがとても、かつての在り来たりであったこと。

お腹が減ることも、臭う体と衣類からその2つがやりたいというのはあながち間違ってはいないが。


「度重なって来ても、幾度も立ち上がった」


おそらく、そー言った事をしたいという、一時的な事ではなく。

謡歌はそんな生活が自分達の身の丈に合う、落ち着いていて平和な部分。


「また、再建しよう。生活を取り戻すためにさ」


生き残ったにしては少なすぎるほどの、人々の前に発した勇気と希望。

今、死んだ者が転がり過ぎるこの場で、この言葉に少しは胸をスッとさせただろうか。それでも今の絶望の前ではすぐに消える。


「ここからですか?」

「どーやって?」


それは当然のことか。


「分からないね」


ガックシ。

それが現れる、謡歌のアッサリとしていて、仕方のない発言。

でも、彼女は思っている事を伝えていく。


「私達がおばあちゃんになったり、死んじゃったりもするよ。もう見れないし、食べられないかもね。でも、人は生きているよ」

「人が生きている?」

「これから先のこと。諦めずに生きてさ、人がそうして暮らせるようにする」


または、


「私達がまた再建したように、未来の子達が災害を乗り越える勇気を届けるのが、今の私達なのかなって……ちょっと変な事かな?」


自分がそうして思える事で、少しだけ人として強くなったと思う。


「まずは今を、私達が生きていかなきゃいけないのにね」


そうしていくのが、人間なのだろうか。人間の繁栄、本能、意味というものか。

いくつもあった気がする。技術や知識、力を得られて、教えることができて。良かったなぁ。自分が一粒でもいて、未来にいる事に何も不思議はないんだろう。


「具体的になにか……」

「お兄ちゃんと水羽ちゃんの2人と合流しよう。ヒュールさんとラフツーさんはどうかな?」

「放送局、潰れてますしね。ここから見えなくなっちゃった」

「合流して何が、できるんでしょうか?」


謡歌の明るさ。前向きさを持っても、それについてこられない人がいて当然。

子供達は恐怖し、大人の服を掴んで歩んでいくのも無理はない。


「んー」


考えるにしては、稚拙で。自分で疑問符つけるほど、やぶれかぶれ。



「お布団やベット。あと、食料と水とか探す?"ザクロ水"が残っていれば、水とお風呂には困らないかな?」

「ようは安全地帯って事ですか」

「うん!探すことには協力できるよ。私達の小さな力でもできなくない」

「でも、その。死体が動いてきて、襲い掛かって来たら。先ほどの暴動の件も」

「その時はその時。頑張って逃げようよ。でも、それは大丈夫かな?なんとなく」


目的が雲隠れ。それを流すよう、謡歌はチンケな提案と何もない対策を口にする。

そんな時だった


「謡歌-----!!」


水羽の声が空から響いた。それに気付き、顔を上げたのは自分に助けが来たことだけではないだろう。


「水羽ちゃん!」

「!良かった!」


それはもう、物凄いスピードで謡歌に飛び込んで、抱きしめてしまうほどだ。

どっちが探していて、どっちが心配していたのだろうか。水羽の顔と声に、


「良かったよぉぉっ!謡歌が生きていて!すぐに来れなくて、不安で……心配で……」

「……よしよし。ありがとうね、水羽ちゃん」

「ぐすぅっ」

「水羽ちゃん、怪我はない?」

「ないよ!謡歌は?怪我しちゃった!?」

「大丈夫。たまたま、助かったの。これから水羽ちゃんとお兄ちゃんに合流しようって、みんなと決めたところなの」

「!うん!案内するよ!春藍も同じこと言ってたし!きっと、ライラ達も来る!」

「こんな事になっているものね」




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