人間
ドババババババ
終わる世界に、人が集まっていく。空から落ちて行く。
荒れた土地のまま終わるのだろうか、それともゴミの山の如く。人の死体達が積み上げられて、終わるのだろうか。
「………ふっ……はっ……」
謡歌は見上げて、何を思っただろうか。
「人って、凄いなぁ……」
胸に来る。不安の濃さを、積み上げられる動かぬ人々を見て感じる。
呼吸をしている事がとても幸せに思えるほど、張り詰める状況。
こうされているのはその、大勢という人間が作り出したことであると。
「よ、謡歌さん……」
「この人達は……」
謡歌が保護した住民の数は17人。そこには怪我人もいるし、子供は9人もいた。
皆が藺兆紗の暴走に戸惑い、不安に駆られる。
「大丈夫。うん!元気出そう!」
根拠はない。
でも、謡歌の笑顔は潰えても、ひっついてもおらず。満面の、花のように笑っていた。
この狂っている中。歩いている自分達がいること。
一つの答えが確かであると、実感がある。これが生きている人間なんだ。
踏み越える足ではなく、謡歌の歩んでいく足が。
「……行こう」
「どこに?」
「分からないけれど、とりあえず」
住民達の足を止め、不安の増長をも止めた。どこに行こうか分からないが、今。無事に歩いている事が生きている。それだけが事実で、あとで探そうと思う。
色々しなければいけないこと、色々とだ。人は忙しい。
「謡歌に付いて行こう」
足が、進む。
住民達の動く足は謡歌に向かって動き出す。
この災害時。ジッと、救助を待つのが懸命なんだろうか。しかし、もう。全てが終わったかのような光景を前に、何かが起こるという期待は、謡歌自身にも、生き残った住民達もないと判断している。
積まれて倒れている人々の多くが、死んでいるのだから。
「気味が悪い……」
「先ほどの白い光も、一体なんなのか」
こんな光景で生きている人を探すのは、不可能と言って良い。
誰もそうを思わない。
しかし、何を思うだろうか。
「シャワー、浴びたいなー」
「はい?」
「パンでも良いし、ドレッシングをたーっぷり使ったサラダも良いなー。コーヒー付きの朝食……」
「それはいいですけど」
「なんで今?」
唐突にも程がある。謡歌がこぼした願い。それがとても、かつての在り来たりであったこと。
お腹が減ることも、臭う体と衣類からその2つがやりたいというのはあながち間違ってはいないが。
「度重なって来ても、幾度も立ち上がった」
おそらく、そー言った事をしたいという、一時的な事ではなく。
謡歌はそんな生活が自分達の身の丈に合う、落ち着いていて平和な部分。
「また、再建しよう。生活を取り戻すためにさ」
生き残ったにしては少なすぎるほどの、人々の前に発した勇気と希望。
今、死んだ者が転がり過ぎるこの場で、この言葉に少しは胸をスッとさせただろうか。それでも今の絶望の前ではすぐに消える。
「ここからですか?」
「どーやって?」
それは当然のことか。
「分からないね」
ガックシ。
それが現れる、謡歌のアッサリとしていて、仕方のない発言。
でも、彼女は思っている事を伝えていく。
「私達がおばあちゃんになったり、死んじゃったりもするよ。もう見れないし、食べられないかもね。でも、人は生きているよ」
「人が生きている?」
「これから先のこと。諦めずに生きてさ、人がそうして暮らせるようにする」
または、
「私達がまた再建したように、未来の子達が災害を乗り越える勇気を届けるのが、今の私達なのかなって……ちょっと変な事かな?」
自分がそうして思える事で、少しだけ人として強くなったと思う。
「まずは今を、私達が生きていかなきゃいけないのにね」
そうしていくのが、人間なのだろうか。人間の繁栄、本能、意味というものか。
いくつもあった気がする。技術や知識、力を得られて、教えることができて。良かったなぁ。自分が一粒でもいて、未来にいる事に何も不思議はないんだろう。
「具体的になにか……」
「お兄ちゃんと水羽ちゃんの2人と合流しよう。ヒュールさんとラフツーさんはどうかな?」
「放送局、潰れてますしね。ここから見えなくなっちゃった」
「合流して何が、できるんでしょうか?」
謡歌の明るさ。前向きさを持っても、それについてこられない人がいて当然。
子供達は恐怖し、大人の服を掴んで歩んでいくのも無理はない。
「んー」
考えるにしては、稚拙で。自分で疑問符つけるほど、やぶれかぶれ。
「お布団やベット。あと、食料と水とか探す?"ザクロ水"が残っていれば、水とお風呂には困らないかな?」
「ようは安全地帯って事ですか」
「うん!探すことには協力できるよ。私達の小さな力でもできなくない」
「でも、その。死体が動いてきて、襲い掛かって来たら。先ほどの暴動の件も」
「その時はその時。頑張って逃げようよ。でも、それは大丈夫かな?なんとなく」
目的が雲隠れ。それを流すよう、謡歌はチンケな提案と何もない対策を口にする。
そんな時だった
「謡歌-----!!」
水羽の声が空から響いた。それに気付き、顔を上げたのは自分に助けが来たことだけではないだろう。
「水羽ちゃん!」
「!良かった!」
それはもう、物凄いスピードで謡歌に飛び込んで、抱きしめてしまうほどだ。
どっちが探していて、どっちが心配していたのだろうか。水羽の顔と声に、
「良かったよぉぉっ!謡歌が生きていて!すぐに来れなくて、不安で……心配で……」
「……よしよし。ありがとうね、水羽ちゃん」
「ぐすぅっ」
「水羽ちゃん、怪我はない?」
「ないよ!謡歌は?怪我しちゃった!?」
「大丈夫。たまたま、助かったの。これから水羽ちゃんとお兄ちゃんに合流しようって、みんなと決めたところなの」
「!うん!案内するよ!春藍も同じこと言ってたし!きっと、ライラ達も来る!」
「こんな事になっているものね」