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RELIS  作者: 孤独
人災編
589/634

満足


今の2人に圧倒的な強さはない。

藺兆紗に洗脳されている中、アレクと戦っている中の抵抗は洗脳に対してのものか。

これが命令なんてなく、自分の意志で



「この男と、戦い、たい」



メギイィッ



朱里咲の顔面はアレクの炎で焼かれ、拳ももらうおまけ付き。

これがもし一対一のガチであったら、体が焼き尽くされるまでの問題。朱里咲とダーリヤは、2人同時にいるという状況が幸いし、辛うじでアレクと戦っている事になっていた。



「ぐふっ」



吹っ飛ばされ、地に落ちる自分。



ドガアアァァッ



アレクは朱里咲ばかりを警戒できない。視線を合わせずに、彼女の地点を発火させる。だが、それに手応えを感じない。彼の持つ感覚だけがそれを説明できる。



バギイイィッッ


「っっと!」


ダーリヤの蹴りをバズーカで受け、その衝撃を吸収しながら2人との距離をとる。身のこなし良く、追撃の隙を与えない。



ウオオォォッ



身体能力という面では2人に劣り、2人を同時に相手どっているのだ。確かに、藺兆紗に勝機はない。

アレクがこのまま戦ってしまうのであればの話し。一撃で引っくり返せる技をダーリヤと朱里咲は持つ。


「っ」


空振りの風圧でこれか。体勢が崩れるほどだ。

ダメージを与えても、攻撃とスピードに衰えはねぇ。こいつ等の弱体化はあくまで、精神的部位。注意を怠れば持ってかれる。だから、手は抜かねぇし。抜けねぇよ。丁度いいだなんて、思わねぇ。お前等2人。

本気の俺に葬られる事を喜べ。



ドオオォォォッ



"紅蓮燃-℃"から放たれる炎龍は、朱里咲にも、ダーリヤにも向かってはいない。

巨体の炎龍は彼等の戦闘範囲とされる周りを唸って旋回し、牽制を図る。

"超人"を2人同時に、となると。バズーカの"紅蓮燃-℃"は使用が難しい、接近戦に向いていないからだ。激しく暴れているが、タイムマシンもこの中にある状況だ。

注意を散漫とさせるやり方であり、場所を変える。




ブワアアァァッ



彼等にとっては突破可能であろうが。

タイムマシンの周りに炎の壁を張り、朱里咲とダーリヤのありそうでない優先順位をずらす。

研究所の周囲をぶち壊し、そこはもう。立派な闘技場になろうとしていた。荒れた地。

アレクからも広い範囲で戦闘ができ、タイムマシンから距離を置き、注意を向けられる事ができる。いくつもある課題をこなしながら、今の全力。ダーリヤと朱里咲の相手を務める。


「!」


その時、ダーリヤが地を踏む込んだ。それがアレクに向けられて使われる、技。



ドガアアアァァッッ



踏みつける衝撃が地中に伝わり、揺り動かされ、開かれる地割れ。直撃はしないが辛くも中心から逃れ、残る足場に行くアレク。そこに向かっていくのは、朱里咲。単調ではあるが、手数は向こうが上。

握られた拳がアレクの肩を捉える。骨に響く感触。



防御せず、威力を殺さず。衝撃で間をとった。



アレクは吹っ飛びながら、バズーカの照準が朱里咲を狙っていた。その狙いをまた、朱里咲が見逃してはいない。



ドオオォォッ



放たれる炎への対応はできていた。また、アレクの受け身もキッチリとこなしていた。

その直後に来た、朱里咲とアレクへの攻撃。朱里咲には当然、アレクの炎だった。彼女に避けられたものの、その周囲に着弾。燃え上がる。続け様に牽制目的として放っていた、炎龍が朱里咲へと猛進。

一方、アレクにはダーリヤが。



ガジイイィッッ



「ぐっ」

「っ!」


受け身をとっている最中にダーリヤの追撃、雷撃が起こるほどの拳が、ガードするアレクの左腕に直撃する。

朱里咲以上の強打をモロに浴びるわけにはいかない。

そんなこと分かっていて、あろう事か。格闘戦に持ち込む。


「戻りが」


零れるライター。

痺れ、痛む、左手でダーリヤの右腕を掴んだ。


「おせぇっ!!」


バズーカで殴り様、


「!」


怯まずに来るダーリヤの反撃を、この程度は想定していると容易く読みきって、左手で掴んでいたダーリヤの右腕を揺さぶり、ていを崩させて避け、カウンターで前蹴りを叩きこんでふっ飛ばす。

肉体のハンデを、センスで補ってしまうこと。これで接近戦が不得手と言うんですか?


「くっ!」



ポーーーーンッ



軸足はしっかりと支え、ダーリヤを蹴った片足をまた活かす。

アレクが続け様に蹴ったのは、宙に零した自分のライター。ダーリヤの方へ。そして、アレクは自分の白衣から新たなライターを取り出す、たったそれだけの絶望感がある。用済みとして使わず、使い絞る。



「炎帝」



周囲を発火できる能力であるが、そのものを燃やすとしたら威力は絶大。



ドオオオオォォォォッッ



直撃の灼熱の炎と濃く立ち上る黒煙が、ダーリヤのダメージと動きを封じる。この時、わずかに2人の動きが止まる。ダメージの濃さと、視界を奪われ、アレクの姿を見失うという事実。

精神の不安定が2人の行動を見に絞ったのは、仕方ない事だろう。


炎と黒煙が消えた時、


「!?」

「い、な、い?」



アレクは彼等の視界から完全に消えていた。

代わりに襲い掛かってくるもの。



ゴゴゴゴゴゴゴゴ



その震動。上下にではなく、下から崩れる事でくるもの。朱里咲ではなく、ダーリヤの方が震源。

目をやったのはお互いに下だった。


「!」


俺が割った、地面の下に奴はいる。

しかし、それよりもこの下から来る怪物が、



ダーリヤが抱いたものは、これで最後である事の理解。

これが地面の全てを消し炭にし、自分の全てを葬ってくれるものと。



天夷火拿鳥あまのひなどり



ドオオオォォォッッ



地中を焼き払って昇る炎の鳥は、ダーリヤの理解通り。その屈強さと天賦を持つ才、汚染された精神も熔かしてくれる。宙に舞いながら消されていく事に


「お前で、良かった……」


自らの全てを、上回った者に殺されること。それが彼の死に様として報いられること。



パァァンッ



灰となり、それすらも残さずに、ダーリヤの体が散る。


「よっこいしょ」


疲れたみたいな声を出し、タバコを吸いながら、地上へと昇ってきたアレク。朱里咲のタイマンが、


「お前にとっては、これが良いだろう」

「!」

「俺がタバコを嗜むように、お前も俺との戦いを嗜め。それがお前だろ?」


勝負にはならないだろう。負けることは分かっているだろう。

それでもなんのため?生きてきたか。

問う者が、問われるべき事だ。朱里咲は懸命に



「ありがとう、アレク」



その言葉を吐き、


「満足だ」



ドオオォォッ


戦いにしては30秒もない事だった。そして、戦いにしては未熟なところ。

アレクの一方的な強さの違いの前に、体を焼かれ。動けぬところに拳と炎を浴び。彼女の一撃など容易く見切られ、あしらわれるほど。抵抗というその戦いだけが、彼女にできた事だった。



ドゴオオォォッ


ボロボロな体が僅かにでも動けば、戦っていた。しかし、それを終わらせたアレクの蹴りが朱里咲の腹部を襲った。

そこからは死ぬまでの40数秒だった。ホントに温かく、手厚く、加減のない炎に彼女は焼かれる。

身も心も、全てを戦いの炎で焼かれ。



「ふーーっ」



今吸っているタバコの煙よりも薄くなるほど、朱里咲の全てが消される。

それほどに一方的なことだった。



ポイッ



「…………」



もし、…………。



グシャッ



というものが、アレクにあっただろうか。


地面にあるタバコの一箱。それを彼が踏み潰していること。

彼女が最後に言った『満足』は、それでいいという意味なのだろうな。一方で、口に出さず。堪えて。心を揺らさずに戦ったこと。



「いいや」



もう、分からない事だ。もう、済んだ事だ。



パンッ



潰れたタバコの箱すら蹴った。

とうに吸えなくしたというのに。



慈朱里咲。ダーリヤ・レジリフト=アッガイマン。アレクに敗れ、死亡。



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