爆弾
放送局にて、揃った者達。
「……もう、待ってもしょうがないかもね」
春藍、ライラ、ロイ、夜弧、水羽。
「むむっ。アレクと広東については分かったのであるが、あのクォルヴァ殿の姿どころか目撃情報もないとは……」
ヒュール、山佐、謡歌、ラフツー、三矢。
丁度、10人。切りの良い人数であるが、肝心要となるクォルヴァがいない事に、心配が出てくるのもしょうがない。
「おそらく、たぶん」
そーいう言葉を使って、春藍は言った。
「クォルヴァさんは負けた。死んだとは思えないけれど、ここに来られないという事はそれに近いこと」
その事は誰だって分かっていた事。でも、ここ一番で、口にして伝えたのは春藍。
悔しそうな顔か、辛いか。ライラは怒りの言葉とは違って
「藺兆紗が来ているのは事実だとしたら、私が殺す」
現状、それができない事に憤り。
「落ち着けや。クォルヴァはともかくよ。俺達でこれからをどうするか、だ」
三矢が代理として、この場を纏め上げる。
彼だけが全てではなく、この戦力と状況でどーいう割り振り、行動をしなければいけないか。
「単純に考えれば、住民達を護る戦力。藺兆紗を探し、倒す戦力の二手に別れるのがベターか。どれだけ護る戦力が必要だ?ヒュール」
「侵略者となれば集団で行動するのを基本としていますぞ。ライラさん達の中で、3,4人は残っていただきたいですぞ」
「ライラ、藺兆紗を探して倒すのにどれだけの戦力がいる?」
「相手を洗脳できたり、色んな人間を出したりする能力だから、ただ強いより厄介ね。でも、まともに戦えれば勝算は十分ある」
「んじゃあ、どうやって見つけるかがポイントになるな」
通常の状況なら専守防衛である。
しかし、春藍の屋根で空の景色は塞がれ、その上には"SDQ"がゆっくりと落ちてきている状況。時間の問題というものだ。侵入者という敵意を持つ相手がいるというだけ、不安があるのも事実。
ここにいる者達だって、そーいうものを考える。
「……俺なら、通常の人間と洗脳されちまった人間の区別がつく。"本音"で心理状態を読みきれるからな。洗脳は解けんがな」
三矢は藺兆紗対策の能力を持っている。試したことはないが、なんてことを言えば、意味がないが。ただ、多少のできる範囲を伝えておく。
「俺と水羽ちゃんはいつだっていけるぜ。戦うのが本職だからな。夜弧は?」
「私もいけます。ただ、私の"トレパネーション"なら、藺兆紗の洗脳を解除できると思います。これを護るか、戦うか。私には難しいです」
「……状況的にムズイな。そこらへんを決めることだし」
"本音"で悟れる三矢は、夜弧が藺兆紗との戦いを避けている事を聞き取れた。それが分かってしまう不安もだ。
ロイと水羽が藺兆紗の打倒に名乗り挙げる時点で、お互いの言い分には丁度良い配置か。
「春藍くんにも残って欲しい。この構造がどうできているか、住民のみんなはこの屋根が潰れないか、心配もある」
「大丈夫です。アレクさんにもその事を伝えられているので、僕は残るつもりでした」
敵はなんだかんだで、藺兆紗1人。戦闘員であるロイと水羽が、相手をするのは当然となる。
ただ索敵要因にさらに2人。
「夜弧が私に魔力を貸してくれれば、索敵くらいは余裕でいけるわ」
「確かにそうですね」
「それにクォルヴァと戦って、無傷で済んでるとは思えない。私の魔力が回復しないように、あいつだって大きく消耗しているはず。あーいう能力は早いとこ、潰さないとヤバイ」
ライラと夜弧を配置する。アレクが春藍を回してくれた事で戦力と人材が浮く。ライラの読み、自分自身の事も含めて、藺兆紗の状況と対策を完璧に言っていた。夜弧もその言葉で自分が、戦うべきであると決心。
「5人のうち、4人もですか。相手が脅威であるのは分かりますが、春藍くん1人で……」
「大丈夫です!僕にもやれます!」
「しかし、これだけの創造をした後だぞ。私達は君に負担をかけてしまう」
山佐が心配するのも当然か。春藍はきっと、無理をしているのが分かる。アレクの助手として研究に付き合い、自分達を護ること。
「水羽ちゃん、残ってくれるかな?」
「謡歌」
「お兄ちゃんばっかり、負担をかけちゃうから。水羽ちゃんが残っていれば、お兄ちゃんの代わりに私達を護ってくれるし。その方がお兄ちゃんも気負わなくても良いと思う」
謡歌の提案にみんなが少し考え、それが確かに。藺兆紗から護ることも、藺兆紗を倒すことにも良い配分か。
「一瞬、俺がハーレム化する展開だと思ったが、水羽ちゃんを謡歌ちゃんに取られたーーー!」
「そーいう展開ないし。でも、頼むわよ、ロイ」
「春藍様も気をつけてくださいね」
藺兆紗を索敵、討伐編成。
ライラ、ロイ、夜弧。
「夜弧もライラも無事に帰ってきてね」
「本当なら僕がぶっ飛ばしたいけど、ロイの拳に預けるよ」
「住民達は私達に任せてくれなのである」
住民達の保護、防衛、迎撃。
春藍、水羽、ヒュール、山佐、謡歌、ラフツー、三矢。
◇ ◇
「アルルエラさんは出なくて良かったの?」
「広東さんの治療でしたら、こちらが優先です。そもそも、私の戦力はロイ様達と比べたら、とても低いです」
アルルエラが広東の治療に付き合っていた。
一般人が"SDQ"に少しでも触れただけで、体を持ってかれる。それが本当に終わりを予感させていても、
「まだ終わりではないでしょう、最後まで頑張りましょう」
「……できるかな。でも、嬉しい」
左腕が完全に使いものにならず、それに慣れようとする。ちょっと前なら苦痛にも感じなかったが、悔しく、辛い広東だった。
「足引っ張っちゃうのに」
「腕がないんです」
「いや。……まぁ、そっか」
怪我をしても、助けられる人って、それが人だからなんだろうな。普段からそーしてれば人なんだろうって。広東は日頃の自分に、感謝をする。
助け合いとはこーいう、人と人で成立するもの。
チッ……チッ……チッ……
危機的な状況は変わらずも、それがどれだけ心を支えることか。2人や、それだけではなく。怪我した住民達も助ける住民達はそれを大切に強い力と思った。
しかし、それを上回って来ようとするのが、災害や人災。
突然、身に降りかかることに、これだけ恐怖ことはなかった。
ドガアアアアアアアアァァァァッッ
上空からというにはあまりにも低かった。ハッキリと見えていた者にとっては、春藍が造った屋根が突如として大爆発を起こしたと、安全とされていた物からのトラブル。
光線と火炎、風圧、破片、塵が下にいる住民達や建物に衝撃を与え、精神の動きを待たずにその命を多く刈り取る。
そして、それだけでも足らず。爆発によって生まれた大穴から、"SDQ"が降り始めていく。
ガラァンッ
アルルエラ、広東。死亡。
この謎の大爆発を直下で晒され、その体と命を奪われてしまう。




