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RELIS  作者: 孤独
人災編
576/634

勝利

「っつー……」



勝利とは、無傷ではない。

無傷の勝利の事を完勝と、表現される。


「色々、失ったかな?」


敗北から学ぶ事は多くある。それは分かりやすく、足りないからだ。故に敗北する。分かりやすいものだ。その分かりやすさでも、大抵の者は挫折感から自信の喪失をするという。

一方、勝利で得られるもの。喜び、幸福、精神的な安定。それを浴びた瞬間、自信の落ち着きに入るのなら、敗北でそう知れない学ぶ事だろう。



「住民への被害はかなり出た」


勝利から得られる反省点に着目できるのであれば、己を精進させる良い意志だ。


"SDQ"の大量出現。アンリマンユの出現。一時的な防衛には成功としたという勝利で得た報酬。一方で、避難の最中での転倒や破片との衝突、"SDQ"との接触。また、避難後に起きた体調の不良。

住民達の被害は抑えたという、程度のこと。




「休憩しましょう」

「……そうね」


人間という部分では、ライラの魔力の完全回復には程遠く。しばらくの間、活動できる状態になっていない。


「いぃぃっ……」

「広東さん!大丈夫ですか!?」

「っ、ちょっと、ドジっちゃった」



被害を受けた住民の中に広東の負傷。わずかな時間であるが、"SDQ"と接触してしまい、左腕の一部が腐り始めていく。ある程度の医療技術で治るものなのか、傷を見て不安に感じていた。



バフウウゥンッ




「おーーーっ!ビックリしたぞ!」

「雲のクッション!ふかふか!」

「お疲れ。ロイ、水羽」



アンリマンユの体内から飛び降りたロイと水羽は、ライラの雲をクッションに怪我を逃れる。

戦闘という意味では、長い時間行なっていた2人であるが、多少の体力が削れた程度であり、戦力としては十分。



ビギイイィィッ



「ふーーっ、はぁ」

「大分使ったか?」

「その、一から造ったわけではなく、対象物を利用したものですから、まだ余力はあります!」

「…………分かった。お前が言うなら、信じるぞ」



アンリマンユの巨大装甲を利用し、地上と空の中間に分厚い屋根を生み出し、それを支える大黒柱をいくつも生み出した。世界全体をドーム状に変えた春藍。"テラノス・リスダム"と"創意工夫"の連動と過剰な出力により、十分に動けるという状態になってはいない。

そしてなお、この状態を安定させるため、創造が続いている。

アンリマンユの巨大さが異常であり、ライラが吹っ飛ばした"SDQ"もいよいよ、降り始めようとしていた。

対して、アレクはアンリマンユを熔解してみせるも、余力は十分。とはいえ、彼にやらなければならない事がある。



『アレクー!今、何処におるのであるか!外にいるのは分かるのである!すぐに放送局に来てくれなのである!お互いの安否確認は重要であるのだ!』


ヒュールの放送は、指示にしては要求の気持ち。アレクは頭を抱えながら、タバコを取り出す。そっちよりもタバコを優先。すぐに済むことであるからだ。


「NM_H、謡歌」

「はい」

「なんでしょう!」


2人にヒュールへの使いを頼む。

アレクからも現在の状況を知れない。無事を確認しているのは、ライラ、ロイ、水羽の3名。


「クォルヴァと三矢に助けを求めろと、ヒュールに伝えてくれ」

「了解しました」

「アレクさんは?ヒュールさんは訊いてきますよ、必ず……」

「俺は研究に戻る。そのまま2人は俺とヒュールの、連絡係として活動しろ」



タイムマシンの改造はまだ途中。アレクが住民の安全にまで、気をつけられる状況ではない。



「春藍、お前もライラと合流しろ。消耗していても、あいつ等の力にはなれるだろう」

「え!?でも、僕はアレクさんの助手として」

「もう十分だ。あとは俺に任せろ。必ず、完成させてやる」


最後の美味しいところをもらいたいという性格のようなものか、


「ヒュールの事も頼む。お前の創造物のおかげでこの世界を保っているなら、みんなの傍にいてやった方が安心するだろう。怪我人もいるはずだ」


アレクの言っている事の方が正しい。春藍が住民側に寄り添えば、安心感が違うだろう。


「心配なのは今の間に、戦いがあった事実だ。お前も気付いてるだろ」

「!ええ」


"SDQ"とアンリマンユばかりに意識がいっているかに見えて、積み上げられた大勢の人間による山。住宅地や研究所などから離れ、現在は立ち入り危険区域で起きていたものをアレクと春藍は気付いていた。

ライラ達も同じく。



「その跡は消えちまった。終わったのは事実だが、どっちが勝ったか分からない。そもそも、相手が誰だか……」

「クォルヴァさんと藺兆紗だと思います。あんなところで戦える人は、クォルヴァさんだけです。あんな人の塊を出すのは藺兆紗の能力が妥当じゃないかなって」


春藍の即答に、自らの予想と一致していることにアレクは安心した。


「そこまで分かるならライラ達と纏まって行動して、藺兆紗の対策もしろ。お前等の方が知ってる分、そこらへんはやりやすいはずだ。俺に余計なもん、巻き込むな。いいな」

「はい!!ライラ達とみんなを護ります!」


アレクと別れ、春藍と謡歌、NM_Hの3人はヒュール達が待つ放送局に向かう。ライラ達もそこへ向かう。情報を発信、受信できる場所故に、誰だって向かう。



「信じてますよ、アレクさん。絶対です」

「お兄ちゃん。アレクさんの事を本当に信頼しているんですね」

「当然だよ。僕の師匠なんだもん。絶対にやってくれる!」


この言葉の意味合い。受け取り。

ただ知っている程度の2人と違って、春藍には別の意味の真実を受け取っていた。





◇     ◇



「ストック、大分使っちゃいましたか」


クォルヴァを撃破する大金星をした藺兆紗。

彼もまた無傷ではなく、勝利にしては厳しい傷を負った状態。

"黄金人海"の抱える人間達。今となっては無限の人間生産を可能とし、自らの力の源になる人間達であるが、失ったものを埋める人間達がいるわけがない。

ないものは、なく。



「げほぉっ、かはぁっ……」



バードレイを抱えたように、自らの肉体に掛かる奇妙な負担。血を吐き、筋肉の疲労に悲鳴を受ける。


「…………なんの、これくらい。しっかり休めれば、治ります。人間も生産しなきゃですが」


血を拭い。無人の建物の壁に寄りかかり、休憩する。

自分がとんでもなく人の目につく、戦い方をしているのも自覚している。しかし、空が大激変するほどの屋根が出現していれば、少しは対応に遅れを生じる。自分と違い、集合体の人間達であるという事を藺兆紗は看破している。

動かず



「かーっ………かーっ………」



窮地にして、敵陣の中にして、睡眠を始めるクソ度胸。失った魔力だけでも回復さえすれば遣り繰りできると、藺兆紗にはまだ揺ぎ無い自信がある。



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