あの僕達、死ぬんですか?
「みんな、準備は良い!!?」
「大丈夫だよ、ライラ」
いつになく元気だった、ライラ。
春藍達は昨日の夜に聞いた。この世界から"アーライア"に行く事はできないが、"マリンブルー"という世界を経由して、ようやく目的地である"アーライア"に行く事ができる。
あと、2回でこの旅も終わってしまうのかなって春藍は内心思うけれど、目的には必ず終わりがあるから、最期まで頑張ろうという心に言い聞かせた。
「忘れ物はないわよね!?」
「ない。すぐに行こう」
アレクはタバコを吸いながらライラに言った。
桂の屋敷で寝泊りしていたが、異世界に移動するための場所は別なんだとか。ライラは何度も足を運んだ事がある、桂の仕事場だ。歩いて7分ぐらいする場所だ。
「いってらっしゃい、ライラちゃん」
「頑張って世界を救ってこいよ!」
「春藍くん達も無事帰って来るんだぞー!」
街を通ると、出会う人達から暖かい送り出しの言葉をもらった春藍達。色んな世界を飛び出して来たが初めて言われると嬉しいと思う春藍とネセリア。
「アレクさん!また良いタバコを作るから寄って来てよ!!」
「迷惑を掛けるんじゃないぞ!ライラ!!」
アレクはこの世界で良いタバコを沢山もらえてかなり満足していた。タバコ農家のおじさんに手を振って、もらったタバコを見せ付けた。ライラは嬉しいようで恥ずかしい気分になった。
「さ、早くいきましょ」
「あ、挨拶はしないの?ライラ?」
「昨日の夜にほとんど済ませたから大丈夫よ。それよりも桂が待っているから……って」
「あ」
ライラはそれを見てしまった時、ホントに真っ赤な顔をした。春藍とネセリアは良い事だなーって思って見た。アレクはライラを見ながら気の毒かもしれんなって思った。
街の出入り口に掲げられた横断幕『ライラ、頑張ってきてね』というのが作られていた。
あんなのが前から作られたわけではない。きっと、ライラが挨拶をした後、みんなが急ピッチで作ったのだろう。よく見れば目にクマがある人達が数多く見受けられる。
「もーーーーーっ!!恥ずかしいから止めてよ!!」
「あははは……」
「ライラはそれだけみんなに期待されている事なんですよ」
「分かってるわよ、分かってるから」
ちょっと嬉し泣き。そして、街に向かってライラは叫んだ。
「みんなありがとう!また来るから!その時は、おかえりって言ってよね!!」
ライラの涙の出発。この世界ではライラ自身は気づかないほど相当、気に入られていたんだ。自分達のフォーワールドでは絶対にあり得ない事を見てしまった春藍達。
羨ましいの塊だなーってネセリアは思った。
歩きながらライラは誰に言いたいのか。感謝をどこにぶつければ良いのか分からない言葉をしばらく吐いていた
「ったく、みんな。……馬鹿でしょ……。仕事をしなさいよ。寝る時間まで削らなくてもいいのに」
「みんな、ライラの事が好きなんだよ」
「そんなわけないでしょ。アホでしょ。……心配しか掛けてないんだよ」
街を出て本当に少し歩いてある大きな施設。
ライラがいなくなってからはこの場所は封鎖されていたが、今日はもうその封鎖が解かれていた。先に桂が入って、アレクが使ったような"科学"を調整しているんだろう。ライラがこの屋敷の扉の鍵を開けて入ると、モームストとよく似た書類ばかりが綺麗に並べられた場所だった。
「ここにある書類は、あたしが書いたり整理してたのもあるの」
「へー」
「主に天候の調査のものよ。農作物がより多く収穫できるかは天気が一番重要だし、その対策もここに記載していたわ」
「そういえばライラは雲を操る魔術だもんね。天気を変えてたりしてたの」
「た、多少は。けど、本当はあんまり良くないけど」
ライラが案内するように進んでいき、桂がいるだろう3階へと上がった。そこには桂と……?扉があって。その先はおそらく普通の部屋だと思えるとこだ。
アレクは桂に単刀直入に尋ねた。
「その扉の向こうの部屋が、異世界に移動する科学か?」
「集団でやる場合はこっちの方が良いと思ってな。確かにこれが、アレク殿達が使った科学と同種の物だ」
「その奥の向こう側全てが"科学"なんですね」
春藍やネセリアは興味津々に見ていたが、ライラはそっちよりも。
「早く行きましょ。桂の気が変わらない内にね」
「そうだな。せっかく、管理人様が行っていいと許可したんだ」
「は、はい!」
「それじゃあ。一旦。お別れですね、桂さん」
ネセリアがお辞儀をしてから扉を開けて向こう側に入った。
「たぶん、あんたの事だ。また会うことにはなるだろうな」
アレクもテキトーに言葉を出して向こう側へ。
「桂。ありがと」
ライラは本当に感謝の声を出して入った。
「春藍くん」
「はい」
「ライラを頼むよ」
春藍も何かを言おうと思ったが、桂の方から先に声を掛けた。ネセリアと同じたタイミングで入ろうと思ったのに桂の視線が自分と合っていて中々入れなかった。
「ぼ、僕はライラに迷惑をかけてしまうと思うんですけど」
頼まれても困るし、それならばアレクさんに言うべきでは?っと春藍は思った。
「でも、ライラには苦労はさせないように心がけます」
「それを聞けて良かった」
春藍も入室。桂があとで扉を閉めた。四人がこれで中に入った。中はただの部屋。テーブルが一つ置かれ、その上にビニールに包まれた封筒が置いてあった。中はどうやら手紙のようだ。ライラがそれを拾っており、封筒には"マリンブルーの管理人に渡してくれ、桂より"……であった。
「渡せば良いのかしら?何も桂は言ってなかったけど」
「そうなんじゃないんですか?」
「………………」
ゴゴゴゴゴゴ
そして、外から音が聴こえると。突如、ただの部屋が回転しているかのように景色が変わり出した。背景が徐々に紺色のようになっていき、部屋が揺れるように見えるが。
「地震じゃないですよね」
「揺れてないわよ。景色が変わっているだけ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「なんだか凄く今までと違って安定した感じがありますね」
「管理人の"科学"だからな。使い方を知っていて当然だ」
紺色の景色に色々な光が入り込み、景色がドンドン変わる。視覚や聴覚では移動していると感じているが、それ以外の五感は停止していると認知していた。
「"遊園海底"マリンブルー。一体どんな世界なのかな?」
「それよりも着いた場所が気になるわ。チヨダみたいに山頂付近に辿り着いたら、最悪だわ」
「桂さんならちゃんとした場所にするんじゃないでしょうか」
「そうだろうな。さすがにそれはないだろう」
今までは異世界への移動中は喋る余裕はなかったけど、今はそれすらもできる。どんな世界か話す余力があって少し楽しい。
「良い世界だと良いですね」
「それが一番だけど……」
「マリンって"海"という意味に近いですよね。海辺ですかね」
「かもしれないな。すると砂浜か?」
「もしかしたら海のど真ん中に落ちたりするかもしれませんよ」
「や、止めてよ!そんな事を言ったら」
ガダアアァァンッ
そして、移動が完了した。春藍達の景色、体感がマリンブルーという異世界を感じた。
「え?」
「あ?」
誰もが急降下を感じ取り、全員が空と下に広がっている青を見ていた。
「あああああああああああああ」
「きゃああああああぁぁぁぁ」
「春藍がそんなことを言うからーーー!!」
「そ、それよりもだぁっ!!」
下はとても綺麗なブルー色の大海原だった。四人は勢いよく海に飛び込んでしまった。ズブズブと四人は海中へ引き込まれる。ライラはみんなが泳げるかどうか知らない。海中に飛び込んで少し離れてしまった春藍、ネセリア、アレクを掴もうとしたが。やや遠いし、呼吸もキツイ。
「んんんっ!!」
上へ!!いきなり落とされた事で息が足りない。ライラはまず自分を海上へ出ようと泳いでみたが、落下した時に感じた事だが、この世界の重力は他の世界よりもキツク設定されている。
「んっ!」
昇ろうとしても抵抗できない。どんどん海中に引き摺りこまれる。下を見ると、春藍とネセリアがとても深く沈んでしまっている。
「春藍!ネセリア!」
海中にいては雲を操作する"ピサロ"も使えない。
万事休す。このままでは四人共、いきなり全滅する。アレクは春藍とネセリアが離れないように向かったが、(意外と泳ぎが上手い)どうにも上がれそうにない。アレクのライターで海を焼き払う、なんてできるわけがないだろう。そもそも海中で火を出せるとは思えない。
「んん」
「うがっ」
ライラの抵抗も、アレクの行動も。結局は無意味となってどんどん海中へと沈んでいく四人。呼吸ができなくなって意識も遠のいてしまった。
真っ暗な海中から深海へと落ちて行く四人。