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RELIS  作者: 孤独
役割編
565/634

死別

「元気出して」


水羽を励ます。死ぬことが分かっている、謡歌が。生きられる水羽に伝える言葉にしては、とってもカッコイイものであった。


「誰だって死んじゃうから。でも、水羽ちゃんは今じゃない」


生物的にそれは正しく。別れることなど、人であれば普通。死別しべつを特別に重く受け止める人は、生物として特徴的なところであろう。

謡歌の心、道徳。それらが死別に対して、抵抗を多少持つのは、子供の頃から抱いていた閉塞感。一方で、水羽が恐れているのは大切な物を知った、子供特有の感情、故。



「なにと戦うか。私には分からないけれど、水羽ちゃんはどう?」

「な、なにが?」

「戦うに理由が必要だった?目の前に転がる理由があれば、あなたは戦う。私を守りたいように、みんなを守りたいように。言葉が悪いけれど、敵を倒したいから倒すのも水羽ちゃんらしいじゃん」



泣き出している水羽に、追い討ちか?

それが自分らしいと言われ、水羽は



「いいのかな。いいの?」

「いいの、いいの。私達、こうして。今の環境が怖いけれど、生活できているのって。水羽ちゃん達のおかげだから」


紛れもない事実だ。

水羽達のような強力な、秩序を掲げる相応しい暴力が傍で光らせるとあっては、住民達がやる暴動なんて意味を持たない。そして、彼等はとてもこの穏やかな平和のために、護ることを掲げているのである。ヒュール達の言葉や信頼だけでなく、水羽達がいるという武もあって、この平和がある。


できていないと本人達が気にしていても、そうじゃない謡歌には分かるし。ヒュール達だって、口に出さないだけで核心に思っている事がある。



「私が生きていて、幸せなのは水羽ちゃん達がいるから。まだ、しばらく幸せだから」


そりゃ生きたいよ。

兄と、水羽と、みんなと。謡歌だっていたい。



「そっか。長くはないよね。知ってた。知ってたよ」


水羽の涙が、謡歌の強がりを砕いた。いや、その涙を出すという行為もまた、生きる。そのもの。


「うえぇっ、止まらないね。うまく、できなくて、…………良いなぁ」

「謡歌っ……」


必死に涙を止めようとする謡歌。一方で止めることなく、涙を出している水羽。そんな決心、崩しちゃいけないって。謡歌は思っていても、涙はずるいって言いたい。



「お兄ちゃんや水羽ちゃんともっといたいよぉっ……」

「僕もいたい。謡歌といたいんだ!」

「っ……でも、私なんか選んじゃダメっ。絶対、ダメ」


泣いて。それだけは、決して緩めちゃいけない。

自分が春藍達と一緒に異世界を周り、それで水羽と出会えた事はとても嬉しい出来事であったが、同時にみんなを心配させ、迷惑をかけた。そのことを身を持って知った。謡歌の、気持ちは経験から来ている。



「お兄ちゃんが何人。どれだけの人を助けられるか。分からないけれど、きっと少ない。なら、私達は行ってはいけない。どんなところなのか、気になるけれど、私達が生きていられる世界じゃない」


私達、多く分類される人はとても弱く。纏まり、力を合わせて、やっと。一、生物と機能する生態。

社会や役割を持っていなければ成せない。


「それに怖いの方が、あるかな。いろいろと、みんながいなくなって。自分が残るって事。水羽ちゃんと気持ちは同じなんだよ。ごめんねっ……」



涙で、感情でグチャグチャ。三矢がいたら、きっと"本音"を明かせたと思う。

でも、水羽が生きてくれること。春藍達が生きていくことで、正しいと謡歌は断言する。自分はそうだって断言する。


「諦めちゃダメって。言葉じゃ、ダメかな?」


そこに自分の力が入るのなら良い。でも、謡歌が助かるかどうかは他人(春藍)の力。その言葉はとっても、今の水羽には情けなく、悔しいもの。

分かるものだ。抱きしめている人を、守れないと知っても、そうしていること。


「それで良いんだよ。大丈夫」


謡歌はそれを知っている。

でも、水羽にはそれで良くて。結果、伴わなくても、


「諦めた時。別れちゃう、から。ダメだよね」

「……こんな泣いちゃう僕で、良いんだ。優しいよ、謡歌」

「だけれど、水羽ちゃんは強いよ。私なんかよりずっと、凄いんだから」



護ってくれる人をこんな身近で知れて、それがとっても強いって事も。

温かく。心配という、たったそれだけでも、人って凄い力を持っているんだと、その身で知れる。死や絶命が特別に思えなくなれた。


水羽だってそう、謡歌だってそう。


不安を一掃し。人として、己を再確認した。



「どーやって、これから戦えばいい?教えてよ、謡歌」

「あなたのために。私のために思えば、お兄ちゃんを護ってください。私にそれができないから」


……もし


「好きになっても?」

「うん。それでも良いよ。私は嬉しいよ」



◇        ◇




ガギイイィィッ



「ば、馬鹿なっ」



時刻は同じくらいだった。

琥珀博士は真に完成させた"アンリマンユ"。その巨大さはこれまで以上であり、山の如きあった手や頭はそれを上回るサイズとなり、異世界の2つや3つ分の巨体で動く科学兵器となっていた。

しかし、



「こんな粉粒。"SDQ"とやらで、崩れてたまるものか!!」


降り始める"SDQ"によって、巨体の一部に穴を空け始め、侵食し、崩壊させていく。



「我がアンリマンユが、災害なんぞで朽ちてたまるか!!粒なんぞに壊れてたまるか!!」


琥珀博士。叫ぶも、災害はまったく耳を貸さず、追い討ちをかけて、"アンリマンユ"を崩し、ただのガラクタへと変貌させる。

絶対の科学力を誇る彼を持ってしても、成す術なし。アンリマンユの巨体の下で雨宿りをしているような形で、琥珀博士はただ待つしかなかった。でも、吼え続ける。



「世界最大の、史上最大の、存在を生み出すのが我が夢!!我が野望!!」



なぜ?



「それでこそ男のロマン、生きる源よ!!故に死ねぬわぁっ!!ワシとアンリマンユがこんなところでっ!!」



バギイイィッ



人の野望、夢。それらに関心なく、理不尽で惨いの一つで済まされてしまう。

災害の津波。"SDQ"の物量に呑み込まれ、琥珀博士とアンリマンユは姿と夢もろとも、押し潰される。

自らよりも巨大なものに潰されるのも、敗者となった男らしい末路。




ガギイイィィッ



「限り、……終わらな……」



琥珀博士。

とある異世界にて、"SDQ"の物量に押し潰され、この世を去る。


こうして、多くの協力者がいたが、ついに設立した最初の張本人以外は死んだ。

そのことを知らず。それどころじゃない藺兆紗も、ひっそりながら、生き延びている。



そして、琥珀博士とアンリマンユは。意外な形で……いや、とても迷惑な形で春藍達に襲い掛かるのであった。

潰されようがそこに残る巨大な残骸が、



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