選定
時間は選んだ。というより、そこしかなかった。
次に場所。どこが良いかな。
誰も居ないというのなら、危険なところではあったけれど、命が危ない。
「どこか謡歌と、2人きりになれるところが、いいなぁ」
ぎこちない声で謡歌に場所を誘う水羽。
「んー。どこにしよう」
「私の部屋にする?」
「えっ?」
その言葉に、妙な感情で、赤らめて訊いてしまう水羽であった。謡歌は逆に友達のような形での声かけ。
「大事な話でしょ。悩み?」
人であるから水羽の気持ちがすぐに表情で分かった。
手をとって、連れて行く謡歌の手は、水羽の単純な力と違ってとっても強くて、温かいものであった。話をしたかったがそんなシチュにあてふての水羽。
「い、いいの?でも、一つの部屋に何人かと住んでる形じゃなかったっけ?(水羽は朱里咲と同室であった)」
「お兄ちゃんと同室だけど、お兄ちゃんはアレクさんと研究室にいることが一日中多くて、……慣れているけれどね。でも、水羽ちゃんの警護はどうしよっか?」
「んんー、……真面目じゃないけど、謡歌の部屋でいつでも動ければ良いかな?監視の監視があるわけじゃないし。一日くらい大丈夫だよ」
「ははは、そーいう時に何かあったりね」
もう色々起きてるんだけど……。
という確かな表情と、感情が入り混じっている水羽であった。それに気にしているのが、謡歌と……
「だろうとは思ってた。好きに話しあってやれよ」
ロイと
「優しいですね、ロイ様」
アルルエラのお2人。
今日の当番じゃないアルルエラが、水羽には内緒でロイとご一緒である。
了承したのもロイのことを思ってのこと。
「あの時から気にかけてらしてたんですね」
「水羽ちゃんにとっては、故郷を離れ、師を失い、今度はここでできた友達を失う事を宣告されてんだ。いくら俺並に強かろうと、心の面に不安があるもんだ」
普通、俺とアルルエラの2人が水羽ちゃんを監視してたら気付くもんだがな。
「精神的な不安は"超人"の強さに影響する。俺が口説いても、それは拭えねぇな」
「謡歌ちゃんならきっとできると。でも、謡歌ちゃんが可哀想です」
「どーだが?謡歌ちゃんも水羽がいてくれて良かったんじゃねぇの。兄があれだしな。希望といえば、希望で。自分のことを話す相手には不足だろう」
"SDQ"に包まれ始めていく状況。
助かる道といえば、アレクと春藍が改造中のタイムマシンのみ。人数は限りがあり、誰もが助かりたい状況だ。人が集って回す社会があって、災害はとってもゆっくりで確実に生命体の活動を殺しに行く。そこでまた小さく争うか。
短い生命活動を笑い、受け入れて、共に生きるか。
ヒュール達やクォルヴァが、社会の秩序を支えているため、この状況がとても平和的なのが、人と管理人の奇跡だった。
「百合展開来るか?」
「覗きはダメですよ。ロイ様。自分で水を差しちゃカッコつきません」
◇ ◇
彼氏の家にでも来たかのような。らしくもなく、正座している。
2人きりという状況は久しくて、それがもう少ないどころか、これ一回きりだろうが。
うずうずというか、そわそわというか。謡歌に見せるのは、そんな自分で良いんだろうか。
「あのっね」
声がちょっと裏返っていて
「焦らなくていいよ。私はここにいるよ」
謡歌が落ち着いて、水羽と向かい合って、女座り。飲み物のご提供、テーブルの上。
「姿勢、崩していいよ」
「うん」
言われて姿勢を楽にして、謡歌に向けていた視線を外して、自分の緊張した姿を見て、頭を抑えてしまう。
自分と違っていて落ち着いていて、しっかりしていて、絶対に頭良いって分かるぐらいの知能だ。
「取り乱してごめん」
だからって分かる。謡歌がただ普通に、飲み物を飲んでいるとこも。とっても綺麗で目に残るくらい、羨んでいた。
単純に
「あ、私からでも良い?」
「え?」
「その、水羽ちゃんが、落ち着いてる内というか」
どこらへんに落ち着きがあるんですかね?この子?
とはいえ、謡歌にも水羽がいる内に言いたい事もあって、こーいう形で先制をとるとは本人自身驚きだった。
何を言おうか。そんな迷い。水羽のように言いたい、いくつかではなく、
「私達。詳しく分からないけれど、」
謡歌は一つだけ水羽に確認という、お願いがあった。
「どれだけこの世界が持ちこたえられるかな」
「!……」
「水羽ちゃんから来てくれたから、詳しく聞きたいの。ロイさんは教えてくれなくて、でも。水羽ちゃんは知ってるみたいで」
ロイが教えてくれないのは事実であったが、水羽が知っているなんて事は嘘である。
その嘘が水羽のことを少しでも楽にさせたのは事実。
水羽だって、心配していることはすぐに分かった。
「きっと私は生き残れないって分かっていて、……だけど。もし、水羽ちゃんが生き残れるんだったら、お兄ちゃんに協力して欲しいの。ずっと、最後まで。私の代わりに」
水羽の言いたい事と謡歌の言った事はほぼ似通っていた。
誰だってこの状況。同じ悩みか、同じ不安かって……、そー思えたところ。
水羽は悔しく思えて、謡歌の両肩を握った。