日常
"SDQ"の煙が濃く、量も膨れ上がる。
噴出孔の箇所もクォルヴァ達が知らない間に作られていく。
抑制するという対応がほぼなく、避難という形を余儀なくされている。人間は知恵と技術を駆使して、自らに対する有害を緩和させることができたが、それ以外にあるかは不明。
フォーワールドの外側はもう包まれたと同然であり、単純な量が凄まじく、打開など望めない。
それを知らない人間が多くいることが、わずかに平和ボケという言葉で表すが、まだ平和的な環境を作っているのだろう。
陽が昇れば、活動を始める人々だった。
壊れている都の復興、与えられた職務の全う。
「おはよー」
「今日も仕事だーー。復興だなぁ」
「何があるか、分からないが」
「仕事だけは山積みだ」
明日を知らないから、今日を頑張れる。
前向きに人は活動していく。
「むしろ、していなければ落ち着けないととれる」
ラフツーは、住民達の様子を見ながら思った事を述べた。
薄々感づいている者達だっていようが、声を荒げて叫んだところで変わらないことは分かっている。
でも、それでも。
まだ知らないふりをしながら、まったく気付いてなく。生きていく、住民達がいる。ヒュールと三矢が行なったやり方は正解だったろう。
社会に混乱は少なく。
ラフツーだって、それなりに眠れたし、食事もとれた。トイレだって使えた。
たったそれだけでも、幸せに思える。無数にある当たり前の事に感謝する……。
"SDQ"の出現箇所。それらによって、立ち入り禁止区域の設営。
住民を安全に避難させ、住む安心を守るためのマニュアル作り。ラフツーがこれから作りあげる事は人々の安全の、教科書。その指導者である。
住民達の一生懸命さを見れば、終わりが近い事を忘れさせ、諦めをなくしてくれる。それが嬉しいというか、生きる希望というか。
「ちょっと、やる気になるか」
明日、急に死ぬとしたら。
せめてその時は足とか腕、やりたい事をやれる時に死にたいものだ。
「待たせたな」
「いえ、私達も来たばかりです」
広東達と合流し、住民達の指示の原本を作成。
最近多発する起こる地震の対処、謎の病原菌への対処。生活リズムの制定。避難時の誘導。食料の確保と配給の設定。
地区を狭めて、人々が固まって生活するように、住居の整理に入る。
食料や資源などの管理も、山佐と共にチェックする。
作り出せるものもあれば、もう手に入らない資源だってある。無駄遣いは本当にマズイことである。
金銭の価値についても、また見直されるべきところであった。ICカードによって、住民一人一人に金銭や情報のプログラムをされているが、人間の喪失や金という存在に今の人類が価値を見出せていない。交換の対象には最適とは良い難いもの。
ヒュールは考えた末、金銭という価値を人の根底から考えなおし。
1人1人の器量を、価値として計り、己を高める事を価値とした。
労働の種類、質、時間。それらによって価値という意味を生み出す社会改革を踏み出す。
「給与と変わらないですね」
褒美。報酬。
それを金銭というのを介さず、すぐに与えることができる制度。交換条件といった形で、人々は職で食を手にし、安全なども買い込める。
食事付き、寝泊り場所を確保した労働基準。子供を安全に預けられる設備など。
娯楽部分が大きく減ったものの、生活を支えるためのサポートを充実させて、社会を回す。混乱は少なくないが、今生きている人達が感謝しながら、こんな状況でも楽しく生きている社会にしていく。
「今日は童話でも読もうね」
「はーーい」
こんな状況下で、子供という小さい力であっても、見過ごさない。
無邪気な表情のまま。その癒される顔のまま、本を読み。絵を書き。ボールを蹴って遊び。歌を歌う。時には、大人達が仕事をする風景を見て、学び、手伝いもする。
陽が落ちるまで、親が戻ってくるまで、退屈というものも知りながら、楽しく。生活の中で成長してくれたことだろう。
子供を預かる仕事につく大人達も、子供の無邪気な姿に不安を忘れられて、安らぎを得ていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「!………」
「また地震か」
もう慣れた。飽きた。はいはい、知ってます。
その程度にいくほどの地震を感じ。不安は増さない。
「……でも、私達は生きていくよ」
謡歌は陽の沈みを眺めながら、自分達の生を語りかけた。
人生、楽しいもので。
こんな状況だって、今日も明日も分からないから、ちょっとは楽しく生きてなきゃ、生きちゃいない。
「謡歌ー。見つけたー!」
「水羽ちゃん、起きたんだ」
仕事を終え、家に戻ろうとする謡歌の前に飛んできて現れたのは、まだ勇浪によって目を抉られて修復中の水羽であった。医療用の眼帯をつけている。
「ロイさんから聞いたけど。まだ眼が治ってないのに、警護って大丈夫?」
「うん。大丈夫!体は目以外は万全だから、バシーッと敵なんか倒せるよ」
水羽は類い稀な戦力であるが故に、後の事を話されている。
それは謡歌に話すものではないと、クギを刺されていても、
「あはは、……。なんだけれど、謡歌に、話したいことがあるんだ」
「うん」
水羽は不安だったから話がしたかった。