増築
パキィッッ
ハムッ
「…………」
「美味しいですね。ハムパン」
「ああ。俺、違うけどな」
アレクと春藍は、タイムマシンの改造に一日中、没頭している。
少しの食事が決まった時間に届けられ、栄養補給をする2人。アレクは改造ことのみ没頭させているが、春藍は外の様子が気になっていた。
春藍が助手という形で、外の情報を聞いているだけにそーなるのも無理もない。アレクがこの役を拒んだのも当然だって分かった。
みんな、不安でいっぱいなんだろう。
今、食べているこれにも、とても微量な毒が入っていたら、空腹と不信。体と精神から異常が出る。
安全だったとか、当たり前だったとか。
そーいうのが壊れていることに
「やるぞ、春藍。休憩は終わりだ」
「は、はい!」
でも、ここにだって壊れている人がいる。僕もそうだろう。
まともだったり、当たり前のことでタイムマシンを、人類の希望をメンテナンスするわけがない。
ヂヂヂィッ
「…………」
アレクには外の社会的な状況を気にする余裕などなく、済まないという気持ちの方が強い。今、どれだけの時間を稼げようと、最大の乗員数が決まっていることだ。
ヒュール達が懸命に生きていこうとする中、自分達は数えられる程度の人しか救えない事だ。
『アレクくんと春藍くんはまず生きなさい』
席を譲る気はなかったが、クォルヴァに言われたらなんとも良い難い。
できるなら、やってみせたい事なら、完成した時に全員が助かること。だが、残り時間だけでなく、足りないものが多すぎる。
使える素材の数に限りがある。
"テラノス・リスダム"による製造も試みたが、本物と偽物では質が落ちる。特に持久性と耐久性に欠けており、ある一定の時間を越えれば素材の性質を保てなくなる。
タイムマシンという性質上、どれだけの時間を漂流するか。落ちれば、死よりも残酷なことが待っているだろう。証明などできやしないが……。失敗は許されない以上、リスクは回避。しかし、
「できても、5人」
少ねぇよ。
俺が、春藍が、必死にやっても……そこまでが限界か。
限界を超えて、6人か?7人か?
そりゃ、どんな世界でも少なすぎる。少なすぎるだろうが。
「アレクくん」
「アレクさん」
「!!」
研究に没頭するあまり、時間を見計らってか。アレクの周りには仲間達が集まっていた。
「私にも、その時言えぬ事があった。今、ここに集まっている人々を見てくれ」
クォルヴァに言われ、周囲をまた確認してハッキリ映った。
春藍、ライラ、ロイ、夜弧、水羽、
「残り1人、だね」
時間がねぇ事も、技術がねぇ事も、資源がねぇ事も、クォルヴァは看破している。
ここに揃う戦力の内、あと1人を削れというか。
「そんなことはない!!」
アレクは猛った。
クォルヴァの胸倉を掴んでいた。
「俺は!!ポセイドンの、意志を継ぐ!!科学の頂点に立つ者が、できないなんて事はない!!させねぇ……んだ」
「……良い、無理をするな。そこまではいい」
意外と落ち着けなかったのは、誰とも話せず、孤独に科学と向き合った技術者だった。
「科学の頂点に、ポセイドンと君がいた。ならばその頂点に、私も立っていた」
「!…………」
「話の続きだ。私から一つ、その椅子を増やす手段がある」
アレクの手を振り解き、ここにいるみんなに伝えた事。クォルヴァが、自らをポセイドンと桂と同等であると。単純な強さでも確かに互角に近いが、まだ見せていない奥の手。切り札。
そう、"人類存亡の切り札"と付けられる管理人の秘密。
ビジジジジジィィ
ポセイドンの"テラノス・リスダム"。桂の"一刀必滅"。龍の"ラ・ゾーラ"。蒲生の"九頭鳥"。朴の"カスタネット・ギバン"。各々に、圧倒的なパワーを持つ切り札があったのは事実。クォルヴァに存在しない事がおかしい。そして、その切り札の用途が、戦略的にも、戦争的にも使われるものではなかった事。
元々、クォルヴァが生存を強調して造られた事が分かる"切り札"。
「!!」
魔術の適正であるライラと夜弧には、その量が分かる。他の者達もヤバイというのが伝わっている。しかし、意味している事は違う。
春藍やロイが感じているのはクォルヴァが本当に抱えている魔力の量だ。人間のそれとは違うし、ライラの魔力の質と量を上回っている。ただ単純に魔力そのものを警戒しているが、ライラと夜弧は違う。
邪悪や異質。不安、恐怖。そーいった、恐れを感じさせるほどの量ではあるが、クォルヴァの魔力から伝わってくるのは希望や後光、期待、奇跡。白く、明るく、輝いていたものだった。
「"命の魂"」
一度使ったら、二度と使えない制約。クォルヴァの魔力を大半放出し、生み出した白い球。魂。
「な、なんだそりゃ……やべぇな」
ロイが言うヤバイは、オゾマシイ量だ。
「落ち着いて。物騒な物じゃない」
クォルヴァは代償と引き換えに得られるリターンは絶大。
「この球はね。よく聞くんだよ」
大事な事なので、扱いを間違えたら終わってしまうもの。
「たった一回。たった一人。死んだ人間を蘇らせることができる球だ。これが私の管理人としての切り札」