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RELIS  作者: 孤独
役割編
560/634

感染

ゴホッ  ゴホッ  




不安や恐怖、ストレスが、精神から体への異常を生み出すことに、違和感はない。

発熱、咳、痺れなどの異常が人に現れ、医師に診てもらう事は在り来たりだ。医師もまた人であり、己という患者を抱えながら、数が少しずつ増えていく患者に向かっていく。

一方で人という相手ではなく、環境と向き合う者達もいる。



「大量のマスクを製造するんだ!」

「落ち着け、数は人数分用意できる」


ロイが発見した物は、とても微量な"SDQ"の放出口ほうしゅつこうであった。

フォーワールドに揺れと共に、大地に亀裂を作り、そこから少しずつこの世界に流れ込んでいた事。そして、大地全体にも染み渡り、さらなる揺れの原因を作っていたこと。



「猛毒の地に人は住んでしまったようだね」



クォルヴァは自らの能力に自信を持って、その放出口に手をかざす。



バギィッ ギヂイィッ



「!!ッ」

「ちょっ」



金属と金属がぶつかり、砕ける音。それを目に突きつけるように、クォルヴァの手は壊れた。とっても小さいものであるのにこの威力は、ライラ達が体験してきた時よりも凶悪になっている。


「何もガードしていないからだけど、確かにこれは"SDQ"の、極小な粒子」



場所を変え、手を再生させながら、ロイとライラに対処策を授ける。

しかし、それも


「この土地から離れるべきだね」

「そんなこと言ったら、この世界から出るべきよ!どこにも逃げ場ないけど!!」

「ああ。実際、見てみるとやべぇな。触れなくて良かったぜ」



解決策がないに等しい。すぐにどうのこうのができるわけがなく、これから起こる被害を想定し、対処策を講じること。



「私達のように強い人間ならば、体調に変化は見られないだろうが。住民達の健康が心配だね」

「気休め程度のマスクと、熱を抑える薬の製造もしているけど。長期化したら足りなくなるわね」

「つーか、放出口があるってことは、急なデカイ地盤沈下もありうるだろう?住民から聞いたが、津波が襲ったときは沢山の建物をぶっ壊して、大勢の犠牲も出た。事前の対処はねぇのか?」



クォルヴァは考える。

ポセイドン、朴に譲っていたとはいえ、アーライアの元管理人。詳しい人であるのだ。そいつが出している、前から言っていた答え。しかし、自らやるべき、答えへの抗い。


「やはり、土地を捨てるべきだ」


彼は大真面目に言っていた。


「春藍くんに負担はかけられない。もっとも、彼ではホントに時間稼ぎだろう」


構図が大胆。

アレクに変わって、クォルヴァが"SDQ"への対策と処置を施し始める。

住民達を護るため、世界を作り変えていく者達がいれば、



「熱がありますね」

「免疫力を高めるので、おでこを広げてもらっていい?」



夜弧と謡歌などは人間達の健康管理を始める。

住人の8割以上はこの健康管理と検閲を行ってから、仕事に入る。


「コラ!お前達、仮病だな!?俺の"本音"は誤魔化せねぇぞ!!あと、夜弧と謡歌ちゃんが良かったとか、思ってるんじゃねぇ!」


中にはこんな人もいる。

社会という枠組みならば、三矢の"本音"は読唇術以上に、有能かつ厄介な代物である。こんなの上司が持っていたら、間違いなくコキ使われる。また、味方であればこれほど頼れる力はない。クレーマーだって、取引にだって、交渉においても優位に立てるのだ。



「地道なことの繰り返しですね」

「それが生きるってもんだ」



三矢と謡歌が話す機会があった。

本来、見た目がラッシに似ていて怖い印象があったが、共に仕事をすることとなればなんて事はなく、良い人であった。


「ただの暇潰しなんだがな」


本人は、今の仕事や状況に、とても絶望を感じさせない言葉を吐いていたのを、謡歌は聞いていた。


「お兄ちゃんはきっと、この状況を打開できるんですよね?」

「俺に聞くな。俺が春藍とアレクと話せば、先が分かるって思うのか?」

「なんですか。"本音"は無意識なんですか?」

「それは反射や習慣、呼吸みてぇにすんだよ」


"本音"は100%を引き出すわけじゃなく、濃度のように会話の中にある物質を引き出せる事もできる。


「人の"本音"ばかり聞いてなきゃ、もう俺は誰も信頼できねぇんだ。こんな大人なんてつまんねぇぞ」


便利とは、当人達の価値の違い。

そう感じさせる、三矢の言葉だった。

謡歌が尋ねたかった"本音"の7割はきっとそれで、3割は不安に満ちていた。よく平静を保てていると、関心してしまう。ヒュールもそうであるが、彼女もまたよくできている人だ。


"SDQ"が空気に入り混じり、まだ50人程度であるが特殊な体調不良を訴え、世界の土地に染み込んでいる事も勘付いている者達だっていて、なお落ち着いている。

進んで滅ぶ世界で、とりあえず、生きてみようで良いから。


人類は生きていて。

こうして暮らそうとしている瞬間。



「知らないと思いますが、私の未来でのあなたは」

「ん?」

「引き篭もり。出てくるのが、遅かったと言われてましたよ」


誰にとは言わなかったが、それはおそらく。


「へいへい、後悔してんのか。諦めてたか。想像させてもらう事にする」


住民の安全、職、食事、居住地区。

それらの全管理を広東が預かり、夜弧や三矢などが分散し、細かく管理を担う。藺兆紗によって、20万人という人数の消失はデカく、社会の混乱が続いている状態。"SDQ"という災害以上の被害を、人間は喰らっている状況。壊されたものを積み上げて直す時間は途方も無く感じる。

だが、すぐに人が建て直し始める早さ。少し前に絶望を知りえたからか。



とにかく、これしきの事であれば、崩れたりはしない。



『それもまた一興でしょう』



なーに、言ってやがる。

いつまでチンタラやっている。



本当ならもっと早く。

こんな生活なんて飛ばして良いから、終わっちまえって。三矢は思っている。

どうせ、彼等は無駄なんだから。



『それが人生じゃない?三矢くん。私だって、無駄ばっかり、やっていた気がするわ』


あんたは何してんだ……ホントに。



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