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RELIS  作者: 孤独
役割編
558/634

理解


社会の乱れ、世界の崩壊。

それをトップが謝罪という形式、別に悪くねぇのに……



「我々は滅ぶのである。かつての人類が、滅亡の危機に立たされたように。このままでは今度こそである」


ヒュールは包み隠さず。安心してくれなどという、曖昧で気休めの言葉もなく。

ただただ事実を述べた。

これが住民全体に広がったとしたら、秩序は壊れ、狂い、さらに早く滅んだだろう。

三矢が選定した事が功を奏し、この場にいる人間は動揺こそしたが、受け入れは早かった。分かっていたと思っている人もいた。


「……マジか……」

「それと、……やっぱりか……」


住民の声を沢山聞いていた者達が集められていただけに、その事実を気休めで誤魔化し続けても、さらに分かっていたと納得してしまった。


「対策はないのか!?本当なのか!?」

「技術開発局の人達ならなんとかできるんじゃないのか!?」

「アレクさんからの説明は!?」


動揺から、現状を知る声も出た。だが、ふざけんな。という、感情の声はまったくなかった。

三矢が言った。


「アレクがこの場に立てない事を、現場のお前等なら一番分かるはずだ。あいつは部下と共にこの現状をいかに長く凌げるか、模索している」


嘘である。むしろ、お前等が凌ぐを担当だ。

そんなことはまったくしていない。

だが、それはアレクと春藍、クォルヴァがそうであるという状況だけ。

実際の対策はこっからという状況。


「落ち着いてくれなのである。今、言った通り。完全に逃れる術がないのである。アレクや春藍くん達がいても、それは結局のところ。時間稼ぎであるのだ」


死ぬという事実。

ガンを告白されたみたいな、空気。

そうか。って、強く受け入れてくれること。

自分がこれからを好きに生きていこうと、考えないで欲しい。また、生きる理由を忘れてはならない。我々は死に直面しても、人であることを誇りに思えと。ヒュールの顔は申し訳なさを飛ばし、前を向いていた。


「生きる限りは、少しでも笑っていようではないか。これから私達が展開する事は、全人類を賭けることである」


まだ。指導者として、責任者として。諦めるという顔はまったくなかった。

絶望を語り、希望を映す。


「ふっ」


"全部は語るんじゃねぇーぞ"

いいよな?、ヒュール。

お前がどんなに恨もうが、周りに恨まれようが、それに変わりはねぇ。



三矢はわずかに残った不安。"本音"が聞こえるかと思ったが、ヒュールにそれはなかった。彼はこっち側、アレク達は向こう側。その区別を済ませていた。

全容を知らされてなお、ヒュールは戦う決意を持っていた事。

彼の功績は本人が思う以上に、人類への貢献を果たす。それが形となるのは勝敗次第でもあるが……。



「より具体的にしよう」


ラフツーが乗ってくれた。

その目はヒュールの気持ちに応えるため、それが自分に繫がることも含めてだ。

裏切に近いことであっても、ヒュールはそこにいた。責任者として、やるべきことである。




◇        ◇


これは会議の時である。

タイムマシンは現状、2人乗りである。


「たった2人で"時代の支配者"と戦えるわけがない。無論、ここにいる人口全てが移せようとも、強大な敵だ」


クォルヴァは語った。


「"SDQ"に、この世界が呑まれるのも時間の問題。その間にタイムマシンに、何人乗せられるか。アレクの意見を引き継いで答えをもらった」


あまりに少ない人数だ。しかし、それがここに生きる人類達が残した希望の者の数は。



「5人だ」



春藍とアレクは会議の場にいなかった。

現状では、"SDQ"に潰されずに済む、人間はたったの5人。


「おいおい、マジかよ。すでに春藍とアレクを抜いても、オーバーしてるぞ」


ロイは言う。当然の反応だ。

ここにはライラ、夜弧、ロイ、水羽、クォルヴァ(+若)、ヒュール、三矢の7人がいる状況。

死ぬ奴を決めろという、なんつー嫌な選択。


「ジャンケンというわけにはいきませんよ」


夜弧がそう言うのも、当然か。夜弧がいなかったらそのタイムマシンが来てないわけだ。


「そーいう話ではないよ、夜弧ちゃん」

「え?」


だが、クォルヴァが提案した事は合理的ではあるが、その判断はとても正常とは思えない事である。


「今、決めます。"時代の支配者"と戦うべき者を……まぁ、分かっているかと思いますが。とりあえず、ヒュールさん」


あなたはここで死んでください。


「!……」


その発言に動揺するのは無理もない。しかし、直球だなって。全員が思ったことであり、続くように三矢がフォローをしてないフォローをする。


「この中じゃ誰よりも戦えない。指導者であっても、意味を成さない世界に行くわけだからな」

「ちょっと!クォルヴァに三矢!なんて事を言うのよ!」

「俺はお前達が思っている事を、直球で言ってるだけだぜ?ま、俺も遠慮するわ、ようやく役目が終わりそうだし。戦うのは御免だしな。席の争いも」


春藍とアレクを除けば、これで5人がいちお揃った。


「って、馬鹿かーーー!」


ライラはその選びを拒否する声を出した。でも、やれることと言えば。


「クォルヴァ!あんた言う、時間の問題!それをあたし達がもっと引き伸ばせるかどうか!そこを計算しなさい!」


全員救えるなんて事。できるわけないって、強さを得てもその冷静さを持つライラ。

何ができるかをすぐに出せたのが良い。


「違う!?」

「その通りです。つまり、まぁ。なんです。どれだけ時間を稼げるか、それによって局面は変わります。最後は人類の篭城戦です。力を合わせるために、ヒュールさん。あなたはそのギリギリまで生き延びて、残る人々を導いてもらいたい。アレクくんならなんとかできると、思えるでしょう。同期のよしみであるのなら」



だが、ヒュールが助かることはほぼないと、周囲は断言していると言っていい。


今。いや、彼の一言で全てが壊れる。

どのみち壊れることだというのに、頑張る理由がどこにある?



それが並であるなら落ち込むんだろう。諦めるんだろう。暴れるんだろう。

でも、ヒュールは違った。


「我々が死ぬというのなら、安らかにしてやるべきなのである。それに抗うよう、私が残る人々を扇動するのであるか。それが責任者なのであるか」


最後を知っても、そこに行くまで続ける。8割、9割。10割に到達する手前で折れそうな事でも、一歩ずつ詰めていく。辛いことを知っても、ヒュールは背負うことを覚悟していた。



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