説明
人はそう広がらない。だが、群れるものである。フォーワールドという世界が保有する面積の1/4に、人類はいた。
「どうなっているんだ!」
「説明は!?」
「仕事は!?金は!?」
食べる、寝る。
それだけの人間の行動は許されるだけでなく、食料も寝床もあまるほどある。しかしながら、人間の消失という大問題は心の傷を生み出し、人間の行動を狂わせていた。
動揺は止まらず、長い瞬間を感じていた。
ラフツーを始めとした説明、誘導を担う者達も人々の混乱を聞くので手が一杯だった。彼等の人数も、藺兆紗によって奪われている。状況でロクに説明されていない。
「ヒュールさんのご意見は?」
「まだ、なんとも……」
この世界で地位を持つ、広東も、山佐も。分からぬことだった。
同情。しかし、不安。
そうなってはならんと、歯を食いしばって今を堪える。
「社会がこうも容易く壊れること。分からなかったです。管理されている社会もまた、素晴らしい事だったんですね」
少し振り返って、良かった部分だけを語る広東に対し、
「しかし、管理社会にも言える事がある。圧倒的な人員というのがあって、成せたわけだ。その数が増える分だけ、我々は進まなければいけなかった」
「山佐さん」
「私達は忘れていた事が多かったようだ。こーいうことは歴史上にもあったはずだ」
山佐は反省の色が強い。
おそらくであるが、ヒュールに全てを託していると直感した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「また地震……」
「最近多いよな……」
「ホントにどうなるんだよ。この世界。俺達……」
これだ。
きっと、アレク達が全力で向かい合っているのはこの地震の原因。まだ緩いと判断してはいるんだろう。
そして、ヒュールが生き残っている人類達を導くこと。動揺しないこと。不安にならないこと。考えること。戦っていることは知っている。
「ホントに多いわね」
「なんとかしてくれるさ。アレクさん達ならなんとかする。そして、俺達はその時まで頑張って、落ち着いていることさ」
人の命を預かることがこれだけ重くなること。部下の心配と安全だけでもホントに、気がそぎ落とされるほどだというのに。ヒュールは全部を抱えなければいけない。少しでも力になれる事は自分達だけでも、冷静で耳を傾けること。
まだ意見が決まらない、その声も受け止めること。
ピーーーーーーッ
「!!」
放送局から特別なサイレン。広東と山佐、ラフツー。その他、人々を束ねる者達が振り向き、待っていたと表情を出した。
『これよりヒュールさんからの報告事項がございます。お手数ですが、これからお呼び出しする方々は至急、放送局に向かってください。広東様、山佐様、ラフツー様、アルルエラ様、春藍謡歌様…………』
などなど……。
合計、143名。そこにいなくなっている人もいるが、人々の命を預かった人の招集命令が下された。
残る人々の生活、社会。それらを決めるものであると、彼等は確信していた。
が、……
◇ ◇
「集まったであるな」
放送局の会議室に詰め込まれる人達。計、118名。椅子もなく、隣の部屋まで使っても、キツキツだ。
マイクを握るのは当然、ヒュール・バルト。その隣に三矢と、用心棒としているのであろう。ロイの姿があった。最後の管理人、クォルヴァがいない事を見れたのは50名ほどか。
何かがおかしいと思ったのは、山佐とラフツーぐらいだろうか。
ヒュールはまず言った。
「これより我々は最後の抵抗を始めるのである」
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絶望を知るのと、知らんのとで差がある。
「ある一部を除き、全力で人類を護る戦いに入るのである。広がってしまった居住区は縮小し、農園、養殖、狩猟は移設の準備を始めるのである。教育に携わるものは速やかに、災害マニュアルを作り、住民全員に配布を!」
「ちょっと待て!」
不安があり、その声を一番聞いていたラフツーが、ヒュールに確認する。
「世界で何が起こっている!?私達だけにでも、説明できないのか!?」
急過ぎる。その通りであり、こちらの意見を封殺するかのような指示がくるとは思わなかった。
そして、聞く耳に対して、返す声。それはヒュールからではなかった。
「ラフツーは合格」
聞きたくない耳もある。
この中に恐怖を抱いている者もいる。
「広東も、山佐も、謡歌ちゃんも、アルルエラさんも」
「な、な、何をしているんだ!?隣の人は!」
ざわつく室内で合格と不合格を判断しているのは、三矢。
「……次に名前を呼び上げる者達は残り、それ以外は済まないが、帰って欲しいのである。ここから先は住民に報せないでくれ。君達に伝えられる事は、不安を煽ってしまうだけであるのだ」
三矢正明
スタイル:魔術
スタイル名:本音
スタイル詳細:
対象者の心の中にある"本音"を聞き取ることができる能力。
ヒュールの問いかけに、周りの心の揺らぎを聞き取り、合否を決めていた。一斉かつ同時に聴き取れ判断する技をこの目で見て、三矢がタダ者ではないし、この時のために残っていたカードであるとヒュールも実感した。これから先のことを話し、心が落ちないことを危険視している。人間の差を理解し、残念ではあるけれど。住民に落ちてくれと願った。
三矢の力に疑問を抱き、分けもわからず追い出される人達。しかし、それがヒュールの言葉でもあって、暴動という事にはならなかった。ヒュールを選んでホントに正解だった。
彼には信頼がある。
人数は、53名になった。
「静粛に、頼むのである」
人を選別するという行為。ちょっとばかり傷付くこともあるだろう。
残った、人々を扱う人間へ、
「私達は長くないのである」