会議
彼等の話し合い。
まずはメンバーといったところか。彼等には各々独自の考えを持つ。思想というべきものか。
「春藍とアレク達が完成させるまで、私達は生き残ること」
ライラとロイ、夜弧。
そこに春藍もアレクもいるだろう。彼等は共に旅をし、戦い、時には争いもして、ここにいる。その彼等の言葉の一つ一つはとても強いものである。それはまだ見ぬ相手にぶつかる事も構わない。(会っているけど)
「……今回は、これといって目に見える敵ではない。脅威という災害だ」
「戦いなんて言葉はどこにもないな」
クォルヴァ、三矢。
管理人代表という形で生き残った管理人と、その管理人の製造に関わる上に、"時代の支配者"とも繫がりを持つ者。彼等が持っている意識は、"時代の支配者"を討つこと。二人にとってはそれこそが悲願。
「…………」
ただ1人。難しい顔でそこに立つ、1人の。ただの人。
ヒュール・バルトは悩みの限り。その表情は下を向き、考えているものであった。
「荷が重いか?」
「しっかりしろと、貴殿は言うのであるか?三矢殿」
「そりゃあ、どーいう荷か知らんけど」
戦力と指導者は違う。
付いていく人間とは1人が好ましいものだ。迷わない。ここにいる誰もが、ヒュールの一つ一つに付いていくだろう。言葉を託すだろう。
重圧、責任。
そして、始末の付け方。
本人は分かっている事であり、恐怖というものを今に感じ。押し黙って、堪えて、前を向いて。人を抑えねばならない。
心臓の鼓動が、未知の動きであることを実感する。
命の取り合いではない。これが、人類の全ての命を抱える責任。
「私の役目は………」
"強さ"という、春藍やライラ、アレクなどが持ち合わせているのは、戦闘という面を重点。というか、項目に入っていると言えるか。ヒュールが感じ、強く保たねばならない覚悟は、王震源が持ち合わせていたものに近い。彼よりも"強さ"という、曖昧な基準の基礎すら持たない人間が、抱えなければならない覚悟。
これからそう長くはない人類の時間を、作るにはそーいう人がいなければならない。
三矢、クォルヴァ、アレク。適正を持つ者達から託される形であり、彼等の意志に応えねばならないのと。重すぎることの板ばさみ。
「命に賭けて、務めることであるのか?それほどに値するのであるか?」
数々の実験を見てきている。
結果も目にしている。
さらなる悲惨を生むこともこれから知っている。願うなら、俺が先に死んで欲しい。
「必ず」
そうはなってくれないようだ。
ヒュールが覚悟したこと。それから先のこと。
もうこれでお別れとなる事を知っている者。
対峙するのは、災害。これから彼等が、……いや、人類の全てが、人類を止めてまで抗う。
ただの時間稼ぎでしかない、徹底した篭城戦が開始される。
◇ ◇
ゴゴゴゴゴゴゴ
同じくして、
「ふふふ、なにやら来ましたか」
世界規模の篭城戦とは違う。
ただ一つの命を繋ぐ、それだけを懸命に考えて行動する。生、一つがいる。
藺兆紗が白い亀裂が入った空を見上げていた。
どこかへ行ってしまった琥珀博士の仕業……ではない事が確か。あーいう自然的な巨大には興味はないだろうし、あれを知っている。
「"SDQ"と言いましたか。アーライアの管理が崩壊した事によって、歯止めがなくなりましたか」
ヒュールが抱える人類と、藺兆紗が抱える人類は違う。彼にとっては手駒。社蓄。人間という種族でありながら、その地位は子供だろうが大人だろうが、社蓄。
「さーて。んんー……」
背伸びに、屈伸。
「準備運動って、大事ですよね?デスクワークを舐めちゃいけませんよ。腰痛になります」
誰に言っている?自分に言っている。
20万人以上という人間を抱えていても、その大地と世界の中で生きているとされる人間は、藺兆紗だけしかいない。言われる事しかできない人間なんて、必要ない。言われた事もできない人間は、もっと要らない。世の中、機械で十分だ。そんな世界になれば人間がいる理由はない。災害に呑まれて、満足な末路だ。
だが、それでも拒否する。
「忙しいですね。ふふっ、私らしくないですが。こー言いますか?」
そこで独りを知り。怖さというのを忘れた。彼もまた、概念を宿した命のようだった。
「楽しく生きてみせますよ。ひとまず……」
たった一人で、災害と相対する。
生き延びてみせると、藺兆紗は全力で立ち向かう。
どんな手を使おうが、どんなことをしようが。相手が災害であろうが
「逃げます!!」
本気でこいつも、どんなことをしても生き延びていくタイプだわ。
逃げながら戦うボスとか面倒なんだけど!!
その気になれば、プライドを容易く捨てる。その強い覚悟がこいつにはある……。




