JWELUNEE GEENI⑦
技術は発展していく。しかし、それが世に広まったのかどうか。
廃れて消し去られているか。
1人の人間ならば良かったが、全ての人間が扱うには途方もない技術もある。
「俺はかつての人間の力を埋め込まれた。ただの人間だ」
ダーリヤは春藍に語る。
記憶の接合に四苦八苦しながら、
「大昔に同じ人間を生み出す技術が存在したらしい。それは、管理人を製造した技術にも関わっているとかな」
「……やっぱり、そんな感じがした」
圧倒的な力に反して、少ない経験とバックボーンの脆さ。今こうして、ダーリヤが春藍に屈して言葉を使うのは、当人であったらありえない事だろう。
「目覚めたというより、目覚めさせられた感じだったな。あまりに強く、俺がホントに誰なのかを思い出せん。まぁ、それはどうでもいいか」
「恐ろしいのは、君がまだまだ沢山いるということかな?」
「俺以外にもいるさ。人間ならなんでもできるのかもしれない。夢のようかもしれんがな、あってはならないことだろ。報われないな」
ダーリヤという男の力を得て、この無念さを体感している。
この人物の力はこんなものではないし、鍛え抜かれた肉体をこんなに脆い精神が持ってはいけない。
それよりも過去の人間が何万人となって、現在を変えようとするのはあるまじき事だろう。
「あれは薄気味悪いオーラだった。何も見えなかったが、いたのは確かだ。神様の真似事のように、力を与えた。そして、使命を与えやがった」
「……………」
「俺がダーリヤを名乗ったのはそれからだった。琥珀博士も同じだ。気をつけろなんて言葉だけじゃ足らないが。そいつを止めない限り、殺さない限り、消さない限り。人類はそいつのものだ。管理人がいない今の時代だからこそ、大きく動いているんだろう」
ダーリヤが言っていることは、春藍にはよく伝わっていた。そいつがおそらく、三矢の言っていた存在であること。
そして、突如として、人間達に訪れた変化の正体とも言える。
出会ってきた人々の中で該当する人材はいくつもあった。でも、
「仮に僕もそれだとしたら、僕は僕で開き直るよ。ライラ達もだけど」
「ふふふ、そうだろうな。似てるようで、お前達は俺達と違うって分かった。大丈夫だ。だから、お前達が未来を作れ。こんなことで世界を壊し、作り変えるのは人間の進歩じゃない。これは俺からも、このダーリヤからも言える」
ダーリヤは笑っていた。
まだ分からなかった事であるが、
「人類は!!」
それぞれであっても、確実に人は
「進歩を止めない!!」
大きな障害、災害に見舞われようとも、最後の最後が終わるまで。諦めなければ、立ち上がる。
「お前に人を縛ることはできやしない!!」
響く叫びに大地は揺れた。
「ここにお前を倒す人間達がいるからだ!!」
ダーリヤは精一杯、天が揺れるほどに叫び、その後。ぺたりと尻を大地につけた。
「頼んだぞ。春藍」
もう戦うことの一切をしない。そう決めた。それがダーリヤに対してのけじめ。
春藍は先ほど、言い忘れたというか。伝えられなかった事をダメ元で確認した。
「ダーリヤ。君の力を貸して欲しい。君の強さは必要だよ」
傷の全てを癒せる。助けたいという反面
「馬鹿を言え。俺とお前は組めない。対立していた仲のはずだ。その意志だけは通させてくれ。こんな無念な俺にできる事がそれだけだ」
「……それもそうかな。僕もそれが終わった後で、また君と戦う事になったら嫌だな」
ここで彼と完全に別れた方がスッキリする。仮に彼のコピーがまた現れても、今度は何も思わずに残酷にやれる気がした。
「それとお前。俺より強い奴を何人も知っているな。ならば、力にもなれない」
「知っていても、いない人が多いよ。だから」
「くどい……もう、いい」
先へ行け。ラブ・スプリング。
認めないが、お前はもう人間になったんだろ?
◇ ◇
春藍達はこの異世界から去った。
当初の目的を果たし、フォーワールドに帰還した。
一方でダーリヤは重傷となりながらも、ある者が来るまでその場で待ち続けた。
人類について思う。
どんな形の生き方があったとしても、誰かに道を造られるのではなく。自分で道を作っていくものであると。
手にしていくものは誰かから全て授かるのではなく、自らも学ぶこと。自ら選択すること。
自らを研ぎ澄ますものこそ、人と思う。
「ふっ」
残忍な男だ。
人類全てを進歩に強制させ、そうでない者やそうならない者は排除する。人類とは選ばれた種という思想を持ち、人を外れたラブ・スプリングを嫌悪した。
人間という生物の改革まで考え、実行しようとする。
負ければ悪人、勝てば聖人。
そーいう意味では、平和や戦争の善悪を感じていない。これが恐ろしいところだ。それがこの肉体を生んだのかもしれない。
「さて、お前はどんな人類を思っていた?」
「やれやれ、任務失敗ですか?いやぁ、違いますね。その表情は成功したような満足感ですね」
「ふっ…………」
待っていた奴と、現れた奴は同じであった。
「あなたの表情は、どーでもいいです。しかし、私のやるべき事の成否はここで決まるので。お付き合いください。ダーリヤさん」
「藺兆紗。来ると思っていたぞ」
死を傍におけない。
あまりの強さ故に、ダーリヤは……