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RELIS  作者: 孤独
別々編
534/634

JWELUNEE GEENI⑥

ピピッ



「…………こんにちは」

「…………」

「僕の名前は?」

「ラブ・スプリングと名付けましたよ」



ジェルニー・ギーニがラブ・スプリングを預かり、共に生活を始めた。

鮫川隆三などの人格と技術。人間離れした動力と知恵を携えたロボット。見た目は10歳頃の可愛らしい少年。

すでに知識も豊富に取り込まれている彼であるが、子供の年齢で登録されているため、周囲に関心を持っている。



「お腹空いた」

「食べ物が必要なんですか?」

「そーいう感覚があるだけだよ、ギーニ。なんでもエネルギーにできるさ」


普通に見る限り、人間と変わらないもの。

自宅にある調理場に向かって腕を伸ばすと、人間の関節以上にあって伸びる金属の管が晒され。手がいくつも生えていき、皿に包丁、冷蔵庫を漁る手。本人はそれらを見もせずに、退屈を紛らわすかのような表情で、自分がこれから育つ場所と、ギーニの事を見つめていた。

一方で、ギーニはラブ・スプリングの行なっている調理姿や態度に


「ラブ・スプリング。少しは人をしてくれませんか?」

「え?」

「効率が良いとか、面倒だろうとかではなく。ここは人社会です。あなたも人として生活してもらわないと困ります。腕なんて生えませんから!」

「え~……じゃあ、僕はどうしてこーいうのを持つのさ?」

「あなたは人のために役立つために生まれているんです。そのためです。あなたのためだけにあるわけじゃなく、人のためにある身体じゃないんです!」



説教も軽く流す、すかした表情のラブ・スプリング。独特という表現は、彼に通じないんだろうが、人じゃないところがすでにあれで



「じゃあ、ギーニの分も作ってあげるよ」

「え?」

「それも人のためだよね。何を作って欲しい?」

「……私、まだお腹減ってませんよ。それと私がお傍にいる間、人としての生活をしてもらいます」

「それは面倒だよ。任せて!僕は一流料理人と同等の……」

「ただできる事をそう簡単に曝け出すこと。人がそれをどー思われるか、あなたは知らなければいけません!あなたは人のため、人を知ってもらいます!」

「人というのはタンパク質が……」

「人体構造の話じゃありません!!」



生まれたばかりの赤ん坊とは違い、知識と技術が与えられているだけにたちが悪いものであった。ただ褒めたところで当たり前。こちらの意見を聞いているようで、不思議な解釈というか、合理的で感情論のない回答ばかり。

監視じゃなくて、子育てになってしまっているギーニ。

肉体の疲れと職務の重圧に反し、動力のみで常に動き、子供並の無垢で周囲と触れ合うラブ・スプリングに振り回される日々。



「ふー、予想以上ですわ」



本当の子供でなくて良かったとしたら、静かに眠らせてくれる事ですかね。



「完成ー!アメリカ大陸、プラモデル!我ながら精巧だ!」



人の家を庭みたいにするの。辛いですね。なんでもかんでも造りやがって。今は眠いので、起きたら注意しましょうか。

ふと、自分が人間な事と彼が別である事。


「……訊いてもいいですか?」

「あ、五月蝿かった?」

「いえ。まぁ、片付けて欲しいんですけど、このプラモデルの数々」

「分かったよ」

「明日でも良いです。訊きたいのは違います」

「いいんだ。何を訊きたいの?」

「寝ないとか、食べないとか。もっと言えば、世界中であなたしかその種がいないという状況を、どう思っておられるんです?」


基盤となる人格や知能を持ってはいるが、生活などで思考や思想に影響が出るとは聞いていた。こんなことを訊くのは早すぎると思ったが、


「後者には光栄」


ラブ・スプリングは分別して答える。


「前者には寂しいかな」

「寂しい。そのような感情があるんですか?」

「心外だなぁ。生まれた僕が思ったことは、人のためにあるんだって事だから。自分のために自分はいないんだよね」

「所詮は道具の扱いです」

「その道具は人を超えているのに?」

「人を超えた物を結局造っているのは、人です」

「……………」


傷付くことを言ってしまった。それをギーニが感じていたのは、彼が答えてきたものにあった。そして、自分がそう政府に危険視したことも、今いる彼にも危険視したことも。


「じゃあ、逆のことを訊きます」

「逆?」

「世界中があなたのような人達となり、私がたった1人の人間だったら。どう思います?」


正確な答えなんてない。

どーいう回答をするか、見ている。ラブ・スプリングも分かっているから


「ギーニが僕達のようになればいいんじゃないかな」

「私が、ですか……」

「嫌かな?僕はそーなって欲しいよ。仮にギーニが1人だけだったら、僕はそう伝えるよ。思っているから。でも、ギーニの事はギーニが決めるのが一番のはずだよ。僕達のようにならなくても、君らしく生きていけば良いと思う」

「……………」



そう伝えるラブ・スプリングの表情は、優しい笑顔であった。

人でなくても、人以上に優しい彼に。一番の可能性と希望を抱いたジェルニー・ギーニは、政府ではなく彼に預けたいと思った。

人の可能性が広がるには、彼の力がいる。もったいないほどの技術と知恵を持つのなら、理想や目標、目的は"国というただ一部の人のためにあってはならない"。



たとえ、己の支配と思われようとも。人類のためと、真に心に刻んで彼と共に……。



「まずは人を知っておくべき、だと思います」

「なにが?」

「いえ、今のはこちらの事です。おやすみなさい」



眠れない事が寂しい。

皆が眠っても1人で活動することが寂しいのか。それとも、眠ることができないから



「電源をスリープモードにすれば、擬似的に僕も眠れるよ。ギーニと過ごせなくなる時間は寂しく思うんだよね。もっと共にいたいんだけど」

「………………」


寂しいというのは、そーいうことですか。ちょっと壮大に思ってしまいましたよ。

とはいえ、そーいう感じ方が人を理解し切れてないというか。これが私の、務めですね。



◇        ◇



ジェルニー・ギーニがラブ・スプリングの監視と、教育を務めている頃。研究所には彼女達と入れ替わりながらやってくる者がいた。


「様々な分野の研究をしているな」

「鮫川殿。まだ、ここに用があるのか?」

「海外旅行なんだ。土産は多い方が良いだろう?」


ラブ・スプリングが製造された時のこと。


「確かに俺のサンプルを貸したが、奴は"偶然"や"神秘"の類いで生まれた、貴重な奴だ」

「なんの事です?」

「現在のところ、お前達人間では大量生産ができん存在。だが、ラブ・スプリングを使えば。大量生産できる。ギーニがそれを知っているかどうかで、違ってくる事もある」

「その気になれば、人社会が終わるわけです。私共と関わっていたら、本当に人類は終わってしまいます」


優れた技術を野放しにするわけがない。まだ、完成されたものではないが、それに近づけるための実験はまだまだ必要であり、鮫川は相当な援助と実験体を用意した。


「クローン技術とは違う。生きた人間を別の人間に作り変える技術がここにあると聞くぞ」

「………軍事目的か諜報目的か、気になりますね」

「諜報がメインだな。この大野鳥夜枝という女を、量産して欲しい。サンプルならいくらでも貸すぞ。技術も買おう」

「鮫川殿」


ライラ博士は溜め息をこぼす。どいつもこいつも、技術を力と認識する奴等が多すぎて


「私にもラブ・スプリングのサンプルが入っています。私も彼も、純粋に研究心だけですよ。なるべく、人のために役立てて欲しい。あれは難病や欠損を抱える人達を救済するための技術でして」

「健全な姿で過ごす。素晴らしいんじゃないか?」

「ですから…………」

「まだ未完成だろう?」

「完成形を目指せと?途中で止めたんですが」

「それが研究というものだ。お前達も選ばれているわけだ。凡人であってはならんことだ」

「"整体技術"の完成形ですか」



簡単に言えば、同じ生物の量産。

しかし、人間という種を増やす生物的な事ではなく、まったくそのまま。身体能力ももちろん、技量や経験においても同じものを携えた生物の量産が、それ。


「まだ普通の人間だけだろう?それも半分程度の精度。やはり、俺やあんたのような秀でた人間の量産することで完成じゃないか?どんな人間にもなれるなんて、未熟な人間にとっては嬉しい事じゃないか?人のためだろう?」

「そーなるからです。それに何が、その人にあるんです?」

「さぁな?しかし、人類は確実に発展する。新たな道が作られるもんじゃないか?」



ただの人が何かに変われる。手に出来ないものが手に入る。それだけで人は、愚かに喜ぶものだ。



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