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RELIS  作者: 孤独
別々編
533/634

JWELUNEE GEENI⑤


人類の進歩。研究も論争もあったものだ。

その進みがやがて、人類を管理社会と呼ばれる形として、生んだかもしれない。



「わ、私が指南役を!?」

「人類の未来。希望。その全てを詰め込んだと言って良い、彼は。人ではない事が最大の失敗だ」


彼を託された女性と、彼を託した研究者達。

その彼は今。言われている通り、人ではなかった。今も骸姿になっているそれには、どこにも人としての要素はなく。部品を組み上げて生まれる物。


「研究者達である我々は彼の頭脳と力、技術を与え。政府監査をお勤めなさるジェルニー・ギーニ様が、彼の道徳と心、経験を与えて欲しい」


彼女がそれを手にしたというより、預かることになったのは人を管理する任を勤めていた人材であったから。

政府からの調査によりこの研究施設を訪れ、監査をしていた彼女。

国という大きい器には、それに見合う中身が必要である。

人材、情報、金、技術、武力、教養。

いくらでもある。


「私はあなた方を監視している者です。なぜ、あなた達に協力しなければならないんですか!?」

「そりゃあ、私達。政府に認められたいとか、敵対するとかじゃなく研究をするだけさ。君達政府が一方的に、私達の敵として認めているのがね」

「だから!?」

「私達の意見は一つに纏まった。技術は提供できるから、私達の研究は続けさせて欲しい。これが国のためにも繫がるだろう」


進み行くロボット技術の研究の先で、造り上げてしまった物。

人類という生物を覆すそのもの。

買収という人間の行為に対し、それは買収とは違う未知の技術で人間を使う。間近でそれを観察していた彼女には、彼を買うという行為は国として不安があった。

それだけでなく、


「有名なマッドサイエンティスト、フレッシュマン博士が所属しておられた研究チームというだけで、テロリストものですよ」

「あの人と一緒にせんでください。というか、あの人はラージーバカサイエンティスト。デカイ事にしか興味ない人だ。国を庭と思ってる人だし、所属してたのは創設期だけでした。私共よりも天才だっただけに、惜しいですよ」



いやぁ、神様ってホントに残酷ですね……。



「君が監視するでも良い事だろ?」

「丸め込みますね。政府や国がどう思うか、近づくのは止したいところです」


一度は退いたという。

確かに危険があるものであり、この判断が国を揺るがすものであるとの直感は正しかった。ジェルニー・ギーニは国家に相談するというより、訴えるという形であった。人ではない彼に人類の希望を感じた。人類が造りあげた



「人が向かう先でしょう」

「国家にどれだけの貢献をするのだ?」

「人類発展の1000年には相当します。星の資源問題、再びの技術革新、国際法の改正もすぐに行なわれるでしょう。兵器としてならば、新たな兵器でもあり国家の守護神となります」

「……そのものの意志は?利用される危険は?人ではなく、意志を持つロボットと訊く」



人とは愚かなもので



「人を守ることであれば必ず、彼は真っ当な任をこなしましょう。ですが」

「ですが?」

「彼が護りたいというのは我々国家ではなく、人間そのものであることでしょう。彼が味方でもあれば、彼が敵となり、人類に危機を及ぼすこともありえます。彼を強制的な支配にすることに対して、我々が支配されることをお忘れなく」



人類英知の結晶。とも呼ばれたそうだ。

価値としては人の数では到底図れず、それがまた発展途上である事実。自立も自我も芽生えるという、人とは違うもの。



「国家と人か。とるべきは、国家だろう。我々の前でその問いを投げかけたとあってはな」

「その形で人が消えても?彼の未来で、私達がいなくなった後のことがどうなっても?」

「人には終わりがある。しかし、国というもの。平和という秩序。法という規則。これらが時代の流れに巻き込まれても、確固たるものでなければいけない。防衛も侵略も、その時の手段。全を守るのが、生きる人のためにある国家だ」



無論、国家は彼を警戒している。ジェルニー・ギーニへの正式な指令はすぐに言い渡され、



「彼の物の、指南役を務めよ。アメリカのこれからの歴史に関わる任である」


互いの狙い通り、ジェルニー・ギーニは政府から指令がくだる。研究所も政府が買収するという、形式になったが。買ったのは、果たして……


「この国にこれほど優れた物を扱える人材がおらん。それは創造主のお前等も含め、な」

「あなたもでしょう?鮫川殿。彼の第一モデルを務めてもらって嬉しいですよ」


彼の原型には、とある人間が使われていた。優れた人材を生み出すには優れた人材が不可欠。彼がこの国家とは違う人間を使って、造り上げられたこと。


「不思議なものです。あなたほどの人間がどうして、か」

「優れた物を率先して取り入れるのは当然であろう?」


引き換えは、彼と似て非なるもの。

しかし、現在の春藍の原型で言えばこの鮫川が近い。体内に仕込まれる無数の兵器の数々。人体と科学の融合。選んだ理由は春藍と異なるものの、


「この体はサイボーグ技術を欲していたからな。老いとは恐ろしいものだ。俺ほどになると、強さを維持するだけじゃいかんからな」

「改造人間にまでならなきゃいけない苦労。我々は知りたくもない世界ですよ……っと、同じのが」

「む」

「鮫川隆三。まだいたのですね?」

「五月蝿いのが来たな」



ジェルニー・ギーニが彼を危険視するのは、この鮫川隆三という日本人。日本の重役の1人が、大きく関わっているためだった。


「オーケーは出たのか?」

「あなたが知ることではありません。ともかく、私達政府がそれを預かることになりました」

「ほっ…………」

「まぁ、出るだろうな」

「この研究所も買収という形であり、彼の研究を続けてもらって構いません。ただし、私が常に監視と報告をさせてもらいます」

「うんうん」


一通り、ジェルニー・ギーニは鮫川のいる前でもこの研究所のその後と、彼についての役割を伝えた。国家の繁栄のため、ありとあらゆる事を仕込むこと。教育や道徳、思想といった刷り込みは国家が務める。反乱の抑制、万が一の暴走を阻止する装置の内臓。

基本、彼を抑えて扱うこと。


それでも研究者達は呑んだ。むしろ、それくらいで良かった。


「温いな」

「なんですと?」

「お前等では扱えないと言っただけだ。それと、お前は双方を見ているから、それに気付けている」

「…………あなたに聞いてもらえて、嬉しいですね。返しも良かった」


ジェルニー・ギーニは、さらに尋ねる。国家の思惑も、自分の予想も、研究者の予想もだ。超えてしまうものを扱った時、


「それであなたに訊きたい。私が国家を裏切ってでも、人のために壊したら、それは罪になりますか?」

「死んだり、負けたり、そうなってしまうのが悪いんじゃねぇか?弱者に回っちゃ何も意味がない。技術だけじゃなく、人も変わっていく必要がある。なんであれな」


ちょっとした政治的なこと。


「そーいうお話はこの研究所でしないでくれ。苦手なんだ、道徳とかそーいうの」

「やれやれです」

「結局、個人の問題と価値に過ぎないからな」


彼の誕生。その少し前のお話が一つだった。


「ところで私がお預かりするんですが。名前を決めてくれませんか?」

「名前?」

「その、私。まだ子供いませんし。名前があった方がいいとか」

「彼氏もいない?」

「うるせぇーな。ぶっ殺すぞ、根暗研究者共」



名前を求められて


「どーするんだ」

「いやぁー、名前とか言われてもねぇ。国に関わるものだと、緊張するな」

「そんなとこで緊張するな!たったと決めなさい!」

「うーん。どうせなら、国家とかは関係なしの気持ちを込めて、……平和のために"ピース"ってのはどう?在り来たりか?」

「普通だな」

「悪くないと思いますけど、結構ありません?」

「姓名判断師じゃないんだよ。私!ただの研究者!」

「それでもあなたが彼を造ったのですよ!あなたが付けてください!そーいう線でいいんで!少し捻って!」

「"ラブピース"で!」

「愛と平和か」

「……全然変わってない気がします!もう一声」

「ちょっと、鮫川さん!なんかアイデア!」

「俺は原型を提供しただけだぞ。まったく貴様等は……」


その線でと言われて、


「……平和ではなく、春でどうだ?春という季節は皆好きだろう?穏やかな時期だって示す」

「日本の四季の一つをこちらに持ち込むとは。ここ日本じゃないです」

「お前、なんでも反対したいだけか?さては、名付けたいのがあるな」

「それは…………私の子供にしますから!ですと、その名前は」


"ラブ・スプリング"


「で、宜しいですね。結構しっくり来ました」

「うん。良いと思うよ!これからは実験体や鮫川2号機と呼ばず、ラブ・スプリングと呼ぼう」

「ま、名前が決まって良かったな」


ライラ博士。



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