JWELUNEE GEENI④
その血は、叫びに全開のパワーを振っていたからか。ダーリヤは胸中をさらすことを選択した。春藍に殺されるのなら、自分自身の全てを出すこと。強さだけでなく、心からでも。
「人でないお前が!!人の先を決めるのか!!」
姿形。それがやや人型をギリギリ残しているだけで、春藍の方が化け物であるのは事実。
駆け引きなんてものはなく。それがただの対話であることに、春藍が気付かないわけがない。
「知恵や技術で手にする力など、飾りでしかない!それを隔たりなく分け与えるなど、予想不能な事態を招くだけ!屑が長く生きるだけ!!人という種をもらいながら、虫のような命で動くなどあってはならない!!」
明らかに春藍の事だけではなく。遺言のように、ここで叫んでいる。
躊躇を見せず。春藍はその口を閉じさせるよう、全方位からの攻撃をダーリヤに向けた。彼の言う事は少しばかり、
「弱いことだね」
攻撃とはいえ、疲労も労力も使う。弱点やできないところを突くという、勝負の世界の常識。春藍だって人であり、そーいう面も持ち合わせている。
それはおめぇーだからという意見もある。
ガシャァッ
「人は足りんな」
起き上がってくるダーリヤ。おめぇーも、どんだけしぶといんだ。だが、
左腕が抜け落ち、戦闘能力のダウンが著しい。肉体による抵抗は少なくなってきた。抵抗も逃げもロクにできないから、負け犬のような言葉で春藍との対話を選んだ。
春藍もその姿を見て、警戒心を薄めた。それがダーリヤには春藍が、人らしいものであると認識できた。認めたくは無いが
「冷徹になれん機械か。琥珀博士とは違うな……」
「感情豊かだよ。僕は人としてよりもね」
そーいう人の形もある。
ダーリヤがそれを受け入れる感情を出したかどうか。
「一つ良いかな?」
「なんだ?」
意外にも春藍から尋ねてみた。ダーリヤの度々の発言と、そのあまりにも似合わない強さ。おそらく、偶発的に手にした力であると春藍は感じ。自分自身も、リアやポセイドン、ハーネットの力を保有していることで
「どうして君の考えは、人を強くすることばかりなんだ?僕は周りの協力と自分の覚悟で、こーなっている。まぁ、本人のこともあったり、偶然もあるんじゃない?」
そもそも、春藍は。彼等と出会わなければ今はないだろう。
「危なっかしいなーって。まるで人体実験するみたいな思想」
「お前が言うのか、それ?」
「うっ…………現在進行形でしてました」
ダーリヤの言葉で自分自身もハッとする。余計に
どうやらお互いに勘違いもあったようだ。ダーリヤは改まって言う。
「正しいという言葉で締めくくるがな」
誰しも理不尽に巻き込まれたくないものであるが、いつからかそーなってしまうのが嫌悪してしまう。自他共に。
「俺は弱いままの人間が嫌いだ。人であることに喜べない人間が嫌いだ。食われるブタじゃーない」
荒くて酷い言葉であった。でも、彼の言葉には進歩や成長という言葉を使っての人間に対する愛ある感情があった。
「肉体的な改善、精神面からの頭脳の使い方。仲間や愛する人と出会っての幸福。学ぶ事、技術を身につける事。そーいった一つ一つを怠る人間。多くそうなってしまう人間が嫌いだ」
「一つに括って、君は進歩というんだね」
「分かりやすいからな」
敗北や死を傍で感じながらも、最も彼はこの時が穏やかであったと抱いていた。
「人間が人間と証明するには、進歩を止めぬ人間でなければならんだろう。これは年の衰え、時代の流れ、残酷な運命でも覆らない人間のシナリオであると、俺は思っている」
「…………」
「徹底した管理や合理的な利便性を得ても、人としての歩みを失えば人の価値はなくなる。技術の発展に人間の肉体がついて来れなくなる。それらが少なくとも大勢という見方になれば、人と別の物の差になる。だったら、人じゃない奴を人にするべきであろう?」
春藍は聞いて、少し考える。
嫌な奴の事を考えるとどーにも、
「納得し辛いかな。変わる人は大勢いるだろうけど、変わらない人もいる。むしろ、悪用する人も出てくるんじゃないか?」
「そーいったことがないように、選定も教育もするのさ。生まれ変わるのは可哀想という見方もあるが、屑が他に生まれ変われる事となれば、問題が起こるのは本人だろうし。変わった先に知れる世界もあろう」
「変わったその先にある出会いか、そーいう考え方。良いね。僕にはないなぁ、今でいっぱいで。急に出会う事ばかり」
でも、それはそれ。疑問を思えば、すぐに彼に訊いてみた。とても自然に思えた。
「人の個性や人格を強制しちゃっていいのかな?僕はこうした体を持っているけれど、自分が変わっていくことは成長という言葉で収まるよ。けど、君のそれは」
「分かっている。人を殺しているようなものだ。だが、正常であり、より良い進歩のため。また、人であることを誇りに思わん連中の先など見えて来ない」
「……そーかな?どーだろ?逆にそーいうクズとか、変な人だからできる事がある。人として生きていたら辛い人も、いるから」
「その社会は良かったものか?」
「良くは無かったね。でも、社会ってのは広さが決まったものだよ。良い人ばかりではない……あ」
「人にできない事はお前達がやってもいい」
「僕達を中心に?心ないお言葉だ。僕、非人道的な行いはできないくらい優しい心の持ち主だよ」
足りてるもの、足りてないもの。憧れるもの、憧れないもの。
ダーリヤの思想は確かにハッキリしたものであり、実力もあるものだが。色々と欠けているものがあり、それを今から獲りにいくのは無理なことだ。
「ま、今となってはただの夢であり、使命に過ぎなかった。儚いとは言ったもんだ。俺にはできなかったと、おしまいだ」
「……………」
「"ほっとした"とは、この程度か」
彼が感じていた重責、それをその言葉だけでハッキリと知った春藍。
「頑張り過ぎじゃない?君じゃないんだ。僕も、……君を知った僕じゃない」
「だろうな」
圧倒的な強さに反し、過程やバックボーンに欠けるもの。ダーリヤという男の力を得ても、彼には成れない。
「使えない人間は使えないだろう。俺はもう、自分の掲げる人間にはなれない」
身に染みて、彼の理念が確固たるもので、生半可ではないもの。ただの強さではないんだ。
違うから選択が違っていても、間違いではない。
「だが。彼じゃないのなら、俺にはお前に託せることがある。何も背負わずにできる」
「!」
「みな、朧ではあるがな」
…………春藍が一瞬、
「……なにを?」
彼がそーして。自分がそーして訊いた。それは自分が違っていても、遺伝子といったものが訴えるような拒絶。本心のようで本心じゃない。だから、尋ねた言葉だった。
ダーリヤが気付けただろうか?
「俺がこの力を得られた話だ。琥珀博士もそうであり。おそらく、藺も、勇浪も、メテオ・ホールも同じだろう」