パイスーVS桂、邪魔者は排除
パイスー
スタイル:超人 + 魔術 (ダブルスタンダード)
スタイル名:肺装甲
肺を中心とした、内臓器官が強化される能力。
パイスーが"超人"の力で本気を出す時に使う戦闘モード。
攻撃に意識がいってしまうが、この戦い方の利点は意識を失っても戦い続ける事ができる。内臓器官の発達と強化が、致命傷や疲労などに来る限界を遥かな高みにするからだ。
戦闘狂のパイスーには、これほど似合う戦い方はなかった。だが、自分自身も意識が別の者になっているような状態であるため、よほどの相手やトドメを刺す時にしか使わない。
今回は前者。だが、相手より。自分がかなり追い詰められているからと解釈していた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」
「!!」
ゼオンハートとの対決でもそうであったが。
バギイイィィッ
刀を相手に拳で防いでいるのは奇妙な光景だ。
一定時間、パイスーが全力を出している事で互角を見せる。が、すぐに桂はパイスーの余力のなさが想像以上であることを見抜き、隙も見逃さずに
ズバアアアァァッ
上体を斬った。だが、真っ二つではない。致命傷で留まっただけ。
「ぐるううぅぅぅっ」
パイスーも必死だ。痛みを訴える素振りも、死ぬ事を認めるよりも速く腕が動いた。傷付いた右手で強引に。桂めがけて"折牙"を繰り出して胴体をへこませた。執念を感じる攻撃だ。
バヂイイィッ
「見事だ」
「ッ!!」
クソガァァッ!!手負いでこいつと戦うとかよおおぉっ。クソ心が燃えるっつーのに、体が限界近ぇかあぁっ!"肺装甲"でもたんねぇぇ!!こいつの"雷光業火"から逃れる術なんざねぇぞおおぉっ!!
「があはははははは」
勝つしかねぇ!若がくれた"ディスカバリーM"でも逃げられねぇ!"キング"も使えねぇ、絶対絶命だな!マジ、絶望だぞ!!
「いひゃははははははは」
そうだ!!絶望だ!で?だからなんだよ!!俺が目指すのはなにか忘れたか!?
メギイィッ
パイスーの底力。命を守りきっている。桂を相手に繋いでいる。意識が薄れ、桂と戦っていながらもパイスーは喋った。
「あー、妹…………俺な。今日こそ最強になるわ」
自分がどうしてそれになる?
理由を口に出した瞬間。絶望的な状況が吹っ飛んだ。やっぱ、計算とかはぶっちゃけ苦手。追い詰められたらガムシャラに行く。最強になるってのは手段は問わない。目の前にいる敵をブッ倒せば、強いって事だろ?
「気合一つで勝てる戦闘じゃないだろ」
喋ったパイスーに桂も喋った。パイスーが全力で戦えるなら勝てるはずだった。こっちが満身創痍だったから負けたんだって言い訳はしねぇ。むしろ、この状態で相手をぶっ潰してぇ。舐めプしてぇという面を見せるパイスー。
バシュウウゥッ
斬られるパイスー。現時点での戦力差が違い過ぎる。
しかし、それでもなお倒れない。即死となる急所にも傷をつけさせない。恐ろしく頑丈。流す血の量だけでも常人なら死んでいる。圧倒的なダメージを喰らっていたパイスー。桂との差を埋められないが、戦闘や勝負における執念が決して諦めることなく、むしろプラスになる情報を体に求めさせていた。
ゴゴゴゴゴゴゴ
桂の介入は決して遅かったわけじゃなかった。
英廉君の"ニノ"によって19:32が長引いたために、パイスーにとっては長く感じた。ゼオンハートとの一騎打ちの際にも、誰かが何かをしたわけでもなく。立方体が大きく崩れてきた。生命の運命は変わるとしても、物体の運命は変わらない。物には自分から変わる力がない。
飛んで来い!!
パイスーはタイミングと位置をバッチリと当てた。
桂に隙を大きく作ってまで待っていた乗り物じゃないのだが、自分の握力を持ってすれば乗れる。
ガゴオオォォンンッ
「なんだと!!?」
「しゃああぁっ!!」
桂は知らなかった。この地に遅れて来たことで知らなかった。
パイスーは自分のダメージだけを考えずに、わずかに見たこの先の運命から自分の生を拾おうとしていた。陶が投げつけた立方体にパイスーは乗り込んだ。音のような速度と衝撃で、周囲をぶち壊す乗り物に掴まって、桂との間合いを広げることに成功した。
「はっ」
少しだけ息を整えたパイスー。
次の瞬間に音のような物に乗り込んだ自分を後ろから、音というチンケな存在を弾き飛ばす。熱と耀きと速さと重さ、なにより強い。
ガゴオオオォォッ
追いついて砕く。乗り物を粉砕する。光に等しい一撃。
超高速で移動し、移動中はなんであろうと破壊する力。移動速度すら異常、破壊力すらも異常。これが管理人の最強と言われる、"超人"である桂の"雷光業火"の能力だ。シンプルに速く、壊すという事に特化している。
「インティが教えんじゃねぇと言ったんだ。まー、けどよぉ。以前、テメェと戦った時には気付けなかった事だった。"韋駄天"ほど、小回りが利かないみてぇだな」
「一呼吸でそこまで回復したか」
「今回は俺の負けだが、リベンジはするつもりだぜ。桂」
「拙者が逃すと思うか?」
パイスーは全力全霊を持って、逃げる事を決める。桂との敗北を認めてもなお、勝負は続いていた。
「ははははっはあひゃひゃひゃひゃ、クソだっせぇぞ。自分、そこら中にいる自分!!」
居合いの構えをする桂をパイスーは獅子ではなく。自分自身で桂を取り囲んでいた。あれほどのダメージを喰らってなおも、特殊な歩行術、スピードの緩急、殺意などの存在感のONとOFFの切り替えによって7人ほどの残像を作り出す。
確かに凄い力量であるが、本体はどれか一つとも言えるわけだし、7人に分かれたパイスーなだけだ。7倍の力があるわけではない。桂にとってはただの目暗まし。だが、パイスーにとっては今持てる、全力の目暗ましだ。
「は」
考える時間はいくらあっても無駄。こいつ相手に小細工が通じるか?なぁ?
やっぱり力と力だよな。自分を信じるぞ。
来いよ、桂。
「行くぞ、パイスー」
「!!」
ズパアァァッ
7人の残像の内、桂はその中で1人。目が合ったという理由で"雷光業火"からの居合いで体を真っ二つにする。無論、ハズレであった。しかし、パイスーは桂を攻撃する事ができなかった。
罠を仕掛けていた。桂はその位置からもっとも遠い、パイスーを狙った。理由はわずかに後ろに下がろうとする動きが見えたからだ。
奴が本物と察し。
ブジュウウウゥゥッ
斬。
「むっ!」
「ががあぁっ」
切断までに至らず。しかし、この一撃で周囲の残像は一気に消えた。確実な本物。パイスーの右腕に防がれた刀はギュッと埋まっていた。そのまま。パイスーは右腕を力一杯振り回そうとしていた。力で桂をぶっ飛ばそうとしていたが、
「くどいぞ」
ガゴオオォッ
"雷光業火"からの拳がパイスーの顔面を打ち抜き、しっかりと刀を押さえていた右腕の力も無力。後方へと大きく吹き飛んだ。
「がはあっっ」
体勢を立て直しながら、転がり飛ばされるパイスー。勢いがまったく止まらない。そして、真正面から追いかけてくる桂。トドメの振り下ろしが向けられた。その瞬間。
ガジイィッ
「!?」
パイスーはこの世界の大地である立方体に左腕を突っ込んだ。桂にぶん殴られた勢いを、大木のように頑丈な左腕で止める。
"雷光業火"は先手必勝のような能力だ。
その破壊力とスピードには対抗できない。
パイスーは何度か喰らって狙い目や特徴がいくつか分かった。
"雷光業火"は一つの線の始点から終点までほぼ無敵状態が続くが、終点に差し掛かった時にかかる急ブレーキ中がまず一つの弱点だろう。もう一つ、勢いの乗った状態である始点と終点の間。あらぬ方向から強い力が加わると、向きが若干ずれるという特徴だ。
ドガアアァァッ
桂の体当たりがパイスーにぶつかった。桂の狙いはこの無敵状態からの居合い斬りであったが、急に停止したパイスーに対応できなかった。だが、体当たりだけでも強烈な攻撃だ。
「うがあぁっ」
「!」
受け止める事ではなく、パイスーは突っ込んできた桂を流すように徹した。ほぼ力技であるが。桂の体当たりで生き残れるパイスーのアビリティーがあってとれる選択。恐ろしい人間だ。
バギイイィィッ
「っっ」
「"ディスカバリーM"」
ダメージとひきかえに桂の軌道を逸らす事に成功したパイスーは、勝負と決め込んですぐに"ディスカバリーM"を起動した。別の異世界へと逃げるチャンスはここしかない。
桂が終点に辿り着く間に体勢も変えた。わずかに時間を稼いだ。だが、桂との間合いは20mもねぇ。これがチャンスと思えるのが今の状況だ。結構時間が掛かるだろ?たしか?
「させるか」
「急げ!!」
『まだ争っていたのか、貴様等。野蛮共が』
その瞬間、2人の頭に届いた声。
同時に2人の足元に広がっていく、紫色の巨大で歪な眼が出現した。
この世界にはもう2人しかいないのだが、異世界からの攻撃を起こしてきやがった。声と、そのやり方から桂とパイスーは同時に気付く。
「ポセイドンか!!」
「ポセイドンのクソったれ!」
『次元の隙間に堕ち、反省して死にたまえ』
元々パイスーは敵であり、ポセイドンにとっては桂は目障りな存在であった。
ポセイドンにとっては両方を同時に葬れるチャンスと睨んでいた。
紫色の眼が回り始め、星空のような色へと変化していく。ポセイドンの科学の一つ、"聖典懲罰"は"無限牢"の中で、いくつも存在している異世界と異世界の間に対象者を引きずり込む力があった。
「ぐうぅっ」
「な、なんだこりゃあぁ!?」
ライラがフォーワールドなどにやってきた魔法陣と似た力である。
無理に異世界の空間を破壊して、二人を世界の隣に行かせようとするも、隣の世界は空間が壊れていないため、その間に留まるしかできない。やがて破壊された空間は自動修復されて、パイスーと桂は次元の隙間に閉じ込められる。
すでに2人は次元の隙間に入ってしまった。空中から落とされるような感覚から、どこに重力がかけられているか分からない状態にまでなる。
「ポセイドンめ」
ドウウウゥッ
次元の狭間でも、桂の"雷光業火"は衰える事はない。穴の出口に終点を決めて発動し、一気に自分の体を引き上げて脱出した。
「テメェェ!せけぇぞぉ!!」
対してパイスーはこの状況から何もできない。
泳ぐのは得意なのに溺れている感覚になっている。走っても泳いでも、穴の出口に辿り着けない。そして、徐々に穴が塞がろうとしていた。
「ぐおおおぉっ!!閉じるんじゃねぇぇーー!!」
「!」
穴から脱出した桂は外で、万が一パイスーが這い上がったら攻撃しようと構えていた。そして、見てしまった。パイスーの後ろに映ったのはポセイドンの"聖典懲罰"とは別に開けられた穴。そこから現れたダサいファションをしている青年が、パイスーの肩に触れた。
「!若!」
「危ないところだったね、パイスー。すぐ近くの世界で待機していて良かったよ」
パイスーとは違い、若はこの次元の狭間でも自由に行動が可能であった。桂やポセイドンでも自由な行動ができないところで行動できる。謎の人間。
「貴様。何者だ?」
桂は抜刀する構えを見せたが、絶対に届く事はないだろう。
若を見て感じるのはパイスーの戦闘狂という邪悪な一面より、謎めいた一面ばかりを感じる。管理人ではないのに、こいつが"黒リリスの一団"が異世界に進行できる力を持っている。先ほどパイスーが"ディスカバリーM"という言葉を叫んでいた。それが異世界に移動するための"科学"か何かと、推察した桂。
それを作り出している奴。人間であるのに、人間であるのに
「答えろ。若とか言ったか?」
「答えるか?若」
「僕は僕なんだけどね?それ以上の事は僕も知らないけど」
若は"ディスカバリーM"でパイスーを連れ、別世界へと逃げる。直前でパイスーは桂の方をむいた。もうすぐ穴は塞がろうとしていたが、宣言するパイスー。
「次の俺は絶好調だ。少しでも腕を上げとくんだな」
「……やれやれ」
ポセイドンが開けた次元の穴は塞がってしまった。
パイスーを完全に逃してしまった桂。ポセイドンの邪魔がなければ、若の介入がなければ決着は付いたというのに。
「仕留められなかった拙者の器量不足か、遅刻も原因か(英廉君が"ニノ"を早く使ったのもあるな)」
しかし、それでもポセイドンには腹が立つ。拙者まで巻き込むとはな。
さらに通信機能を遮断したな。逃した原因が自分にある恥ずかしさからか。