DA-RIYA⑨
『変わっておられますよ』
『何がだ?』
『そんなあなただから、私はあなたと手を組んだって話ですよ』
ダーリヤに護衛は要らず。
1人の権力者として、1人の強者として。素のことを話していた。
そいつにだ。
『私はね。人がなるべき人にさせるための世界であり、社会を作っていきたい。一方でダーリヤさん。あなたは人という枠を広げた人を作りたい。目的は違えど、こうして手を取り合える』
『そうだな。いがみ合う事も、争う事も感じはしない』
そいつ。藺兆紗と、違う点がある。
そして、指摘される。
『いやいや。とっくにね。ダーリヤさんは人を超えている。皆さんがそーいう人だったら、人なんですかね~……なんてね。私は人という枠を壊したり、超えたりしてません。そーいうつもりです』
『俺とお前が合わないところはいくつかあるが、妥協も一つの点であろう。進歩を促すための戦争もあろう』
『ふーん。そー、甘くないのが現実ですし』
『お前は人のためにも考えている。人であるからだ』
普通から言えば、お前等2人共、人と認めるには難しいほどだ。種族がそうであるだけで、異端さと強さはまた別のモノだ。そーいう差別なり区別なり、あってこそが人か。
むしろ、ダーリヤは生物的な考え方で。
『進歩や成長なくして、人や生物と呼べるものか?ラブ・スプリングの、機械と科学の世界。それは人の排除にも繫がる』
『全否定はしませんが好ましくないですよね。生物と機械。いずれ立場は逆転し、機械でもって生物は管理され、本質を失う。人は人で争っている場合ではないんですがね』
『だからこそ、お前達と組んだのは人を根本的に改革をする事。人は劣れば朽ちる。人は進歩していかなければ、人でなくなる。それを知る事であり、身につけることだ』
人は強くならねば
『それで。聞きたいんですけれど。どうしてそう、思っておられるんです?いつ頃から?』
『聞くな……』
『いや、知りたいものですよ。どこにでもいる家系に生まれながらも、その身を削る修行や戦場という数々の修羅場を肉体のみで生き抜いた。"名実をとれば、最強はダーリヤ"……なんて、言われるお方が努力と運だけで作られますかね、と』
『お前の方こそどーなっている?俺は聞いても良いが、答える気はない』
『面白くないですね。私もそれじゃ答えませんよ?』
『自分語りは他所でやれ』
◇ ◇
なぜ、強くなければならない?
これほどの力に打ち勝たなければいけない理由はなんだ?
「くっ……!」
知りたいことだ。なぜ、戦う?これは死んだ方が楽なんじゃないか?忘れた方が楽なんじゃないかって。強さに向かう途中で崩れることは、決して。恥ではないんじゃ……?
バギイイィィッッ
「うぐうっ!」
予想以上の猛威。
氷山に潰され、何度も雷が己の体を貫かれ、波に飲まれ、マグマに焼かれる。
一つ一つの攻撃に衰えはなく、確実にダーリヤを苦しめ、ダメージを与えている。しかし、圧倒的な強さを持つダーリヤも、自然の猛威に耐え忍ぶ肉体があった。
「ふうぅっ」
一方的な状況。それこそが自然。戦いようのない相手。
むしろそれだからか、肉体に思った以上の力が生まれ、自らの精神と一致しない不思議な状態を作っていた。
それにより自らが掲げているものが、ブレかけていた。
なぜ、戦う。ダーリヤ。
俺は、人の進歩のため……人類のため。
知りたいものだ。
「はああぁぁっ!」
ライラの攻撃に対して、ダーリヤが己を見返す。悪い意味もあったが、途方も無い相手の割りに。己を顧みるという行い。気づく事はないが、ダーリヤの肉体がライラの予想を超えた事実でもあった。激しい自然も、時というものに叶わぬもの。
バヂイイィッッ
「!っ」
まだくたばらない。マジで、なんなのこいつ!?
あたしが今までにないってくらい全力。それも避ける事も無く、直撃を何度も浴びせても、立ち上がって来る。アレクが倒したのって、ホントにこいつ!?
一方的な攻撃を繰り返しているが、ライラの魔力は無限に近くとも有限である。それは相手がダーリヤだからという理屈でなってしまう、恐るべき話である。
"アブソピサロ"、その強さ故にライラの魔力消費も、肉体への衝撃も大きいものであった。ライラが自らの体に限界を感じ、長期的にダーリヤを攻撃せず、短期で決着をつけようと出力をさらにあげた。
それはこの館を完全に破壊し、自然の力をより扱うためのもの。
ビギイィッ
「!!」
デカイ!?……地震や噴火ではないな。床のヒビは、一体?
これは重さか?
ダーリヤの肉体が春藍とライラとの死闘によって、急激な発達を遂げる。そして、春藍もライラも同じく。ダーリヤという逸材と戦って成長していった。
重力と引力。
自然の中でも、在り来たりな自然とも言える。狂気な日常。
ベギイィィッ
嵐、噴火、氷漬け、地震、雷、津波。いずれの攻撃でも崩れなかったポセイドンの館が割れた。
開放的になった事でライラの技はさらに跳ね上がる。
「いえ、トドメ」
強大な重力と引力で標的の動きを完全に封殺。
その点を中心として、発せられる災害の数々。
「"星誕滅亡"」
室内だから済んでいた突風は、館が割れた裂け目から風を呼び込んで発達し、巨大な竜巻に変わった。雷も応えるように竜巻の周りで踊った。海水は滝登りを始め、ダーリヤを逃さぬように包み込む。
ビギイイィィッ
火山の噴火、大地のざわめき。一気にダーリヤへと押し上げていく。
しかし、上空からも引き寄せられていくもの。空間に亀裂が走る。かつて、朴が扱った"カスタネット・ギバン"の奥義と同等なもの。
隣の異世界の大地を引き込んだ、強烈で壮大な自然のプレス。
バギイイィィッ
「っ!!!」
こちらの大地と隣の大地がぶつかり合い、一つになっていく。丸みを作っていき、水が流れ、風が吹き、雷は光の輝きと音の響きを、マグマは星に熱を与える。重力と引力がその場に残る。一瞬ではあるが、確かに星の形となったが。
ドガアアアアアァァァァァァッ
ライラの魔力がその状態を保てなくなった瞬間。糸が切れるにしてはあまり突飛で、災害で纏めるにも小さき事。星の誕生と滅亡を同時に成して、対象者を粉砕する。
「ど、どんなもんよ!!」
ライラの、渾身の大技。全てを使いきってのこと。