DA-RIYA⑦
「先ほどの力。あれはどーいったものなんです?」
「ん?」
「負担とかはないんですか?あの生物が、あれほど肉体が弱体化したのは、春藍様のお力なんですよね?詮索は良くないですか?」
"超人"の中の"超人"といえよう。勇浪の底力は夜弧の目にもハッキリと分かっていた。
「私もいきなり瞬間移動しましたし。正直、どーいった仕掛けなのか?」
「……"テラノス・リスダム"が馴染んでいくと、"創意工夫"と連動できる」
春藍の、"無限世界"。
「通常の空間に自分の世界を築ける。勇浪の体が弱ったのは、その世界のみに生息できる、肉体を朽ちさせる微生物郡が存在する世界。また、夜弧に近づけば、僕と夜弧が入れ替わる事ができる世界も造った。夜弧も護らないと、ライラに怒られる」
「……つまり、春藍様の世界の中ではなんでもアリってわけですか?」
おそらく、ほぼ。
春藍が創造した通りの世界が生み出される。しかし、
「欠点もある。一つに、僕は自分が造った世界の中に入れない。入ったら壊れる」
「!!」
「脳の負担もある。反応も遅れちゃったし、色々と実践向きの力じゃないよ」
勇浪が体力回復をとっていたからこそ、こちらもじっくりと世界の構築ができた。とはいえ、造ったとしても勇浪の猛攻があった。
「世界を隔離できないから、急な接近戦には対応できない」
「…………そこまでバラしていいんですか?私ですけど」
「改良点って事を挙げただけさ」
ポセイドンも、"テラノス・リスダム"で桂をほぼ葬ったが、他者との介入があれば酷く脆く、崩れた。
春藍はそれを目の当たりにしているからこそ、自身の能力が無敵でも最強でもないと自覚している。むしろ、強さが欠如した。単純な能力と、捉えている。それは当たっている。弱点と向き合える事がまた強さでもあるから。
「心配なのはライラだね」
春藍と夜弧は同時に、ポセイドンの館に入った。
「そうですね」
ライラがどうやって戦うか。そして、春藍自身もダーリヤの強さを体験して分かった。
心配の気持ちが強く、……
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ん?」
「え?」
感じる。心配させる地響き、確かな揺れ。しかし、大地が割れるという表現にしては、禍々しく吹き出ていくもの。粉塵とはまったく違う、極まった黒煙。炎にしては液状で、地を焼き焦がしながら這う。
ドパアアアァァァッッ
「えええっ!?」
「はあぁっ!?」
入った春藍と夜弧が一気に、身を引き返すほどの溶岩が向かう。
「か、海底火山の噴火ですか!?なんで溶岩が館から出てくるんですか!?」
「中で何が起こっているんだ!?ライラは大丈夫かな!?」
外に出て、溶岩と黒煙から逃れる2人。
すでにライラとダーリヤの戦いは、絶大の力同士でぶつかりあった。
◇ ◇
「行くわよ」
「……来い」
先制はライラであった。
ダーリヤがどっしりと構えて、迎え撃つ戦闘体勢をとっていたこともあった。
ポセイドンの館に、広がっていくライラの魔力。その量と質はかつてのライラでは考えられないほど、濃く、強く、多かった。
ザザザーーー
「!!」
"アブソピサロ"
ライラが到達した地点は、自身の能力とメテオ・ホールの能力が噛み合い、"自然の誕生"に昇華した。この世に在る自然の発現。
「波!?」
ライラの魔力が、海へと変化した。"母なる場所"と重なるかに思えるが、明らかな殺意と脅威がある。本当の海であり、海の恐怖。
「"大海津波"」
逃げ場のない通路。そこへ、重量も速度も、長さも、3桁に乗せる数値で襲いかかれば、人は流され、溺れ死ぬか潰されて死ぬか。
バギイィィッ
ダーリヤは一気に通路の奥へと、波によって流されていく。圧力と重圧がポセイドンの館に巡り、亀裂を生んだ。
「ッ!」
なんて波だ。体勢を上手く保てん……。
ダーリヤは波の勢いに呑まれながら、全身を鋼鉄の如く固める。筋肉の重量、硬度によって波のパワーに負けない巨大な碇を体で作り出す。
床に足が埋まり、ヒビと沈み具合は彼の重さがどれほどのものかを伝えた。
波に打ち勝った。しかし、通路を埋め尽くした波という海水。エラ呼吸を持たない人間はここで窒息死に至る。
ボコォッ
「フーーーーッ」
ダーリヤは、息を吐く。長く短い息は気泡を直線状に吐き出す。
体内にある空気を抜いているようであり、まさにその通り。人体の仕組みを疑うレベルの、空気の大きさ。
「ズブブブ」
抜けていく空気。体内酸素に入り込んでいくのは、海水。激痛だけでは済まない異常にも関わらず、ダーリヤの肉体は寛容に受け入れ、水に残った力のみでこの絶大な身体能力を扱った。生物の持つ環境への適応力が、瞬間に機能してできるものか。
ダーリヤの蹴りは、海中の全てを弾き飛ばし、空気が爆発したかのよう広がる。
バヂイイィィッ
空気と水が弾き合う音。一瞬どころか、
「ぶはぁっ。いや、驚いた」
濡れた体と髪を拭く程度の余裕ある時間。力ずくであり、生物としての技で、自然に抗っていく。
平常の空間。波に挟まれ、水嵩を意識するダーリヤ。波の変化。色。音。そーいう状況判断よりかは、動物的な勘が体に信号を飛ばしたようだ。
波の奥からやってくる雷槍を
「っ!」
目で追いかけ、体は避けていく。発現した地点も近く、スピードも雷速。範囲も決して小さいものではなく、それでもダーリヤは避けきった。
後方に通過された雷槍は水の波を焼き尽くし、広がる。
「自然を操る能力か」
様々な自然を発現する魔術か。出力は相当なものだが、自然を維持する力も絶大。
「!」
狭い場所では爆撃は避けれんなぁ。雷の熱を炎と風に。
ドガアアアァァァッッ
「っ…………」
多彩で強力なライラの攻撃をモロに浴びるダーリヤ。しかし、
「ふふふっ」
笑いを零し、脱力する。実力を推し量り、楽しめるラインという事であろう。ライラが視界に捉えられないこと。戦闘範囲の広さを仇にするもの。
「強い。……が、俺にはそれだけと感じる」
敵の事を甘くみる。ライラの隙と、ダーリヤの隙。突かれるのはどちらか……。