DA-RIYA⑤
"機械運命"は人と科学の一体型。多様な兵器を内臓し、それを自在に操ることができる。
指示によって兵器は自在に体を変化させて現れる。
人が腕や足を、指を動かすのと変わりない事。
しかし、機械と名を持つだけに変わった点がある。さらには全身の機械の武装により、人とは違った対処法を持つ。
とはいえ、"機械運命"のみでは技術にまで到達できなかった。
「"テラノス・リスダム"の制御、"マグニチュード"の信号」
出来すぎるほど、噛み合った能力の融合。
「僕の、"創意工夫"の対応力」
今の春藍は、"テラノス・リスダム"が作り上げたデータを元に、"マグニチュード"が信号を飛ばし、"創意工夫"が状況の認知と判断。"機械運命"がそれらの指示に従い駆動する。
人間の動作と比べると複雑に思えるようだが、動作は非常に俊敏かつ流麗なものになっていた。
ドガアアッッ
「きゃっ!?」
勇浪が殴られる。
その驚きは決して珍しい事ではなかった。しかし、勇浪は違う驚きを持つ。表現が難しく、前に出るが、
ドガアァァッ
勇浪の動きを完全に捉えて追撃が決まる。
初動、反応、反射。自分達とは別の技術によって作られる動きであると、勇浪は驚き、
「きゃっ!」
後退した。野生の勘が、強烈な殺意や強さを前にして下がったのとは違う。環境の変化を感じて、住処を離れる生物の本能。
「!!」
兵器の形態変化。兵器が変わっていくスピードも上がったが、変更するための初動の一つ一つも速い。勇浪の対応に合わせての、変化。春藍の意志を経由せずに、予め決められたプログラムが動作の一つ一つを正確に捉え、正確に作動する。
左腕から現れる小型ミサイルによる、追い討ち。勇浪は一つ一つ、思考を過ぎる。
ドガアアァァァァ
接近も、遠距離も、春藍が完全に制する。
爆破、爆炎、爆風、爆煙。ほぼ直撃かと思えたが、
「衝突前に地面を蹴り上げて生まれる飛礫で、ミサイルを破壊したね」
それでも直下に近い。春藍自身にも届く爆破の余波。視界の遮断、匂いを阻害する薬の匂い。煙が受ける風の動き。野生の勘に加えて、卓越した五感による情報網から勇浪は、上手い具合に春藍の背に回った。奇声も断ち、決まると確信する動作の一つ一つ。
「分かるよ、君はこの程度で終わらない」
「!!」
ドバアアアァァァッ
しかし、勇浪の奇襲を。タイミングの全てを合わせる春藍の反応にして、予知があった。
計算のみで成立する行い。
春藍の右腕は、勇浪が仕掛ける前にはすでに機関銃へと変貌しており、拳が到達する前に銃口から炎をあげるほどの連射が炸裂した。勇浪の肉体に強く襲った銃撃。
ドロォォッ
「!!きっ……」
血が流れる。体に穴が空きかける。
「今のでも死なないなんて、頑丈だね」
「………」
恐怖か。
勇浪の表情と体は、ぶるぶると震え、自分の体から流れる血を見ていた。
辛い、悲しい、怒り、笑い、喜び。
しかし、豊かな表情の数々、悲しい気持ちの数々。それらには程遠い表情に行き着く勇浪。
「きっ……」
勇浪が辿り着いた精神状態は、欝。やる気が失せた気だるい表情で、春藍と向き合った。諦めた雰囲気をみせるほど、ユラリユラリと体が揺れて、ボーっとしていた。
感情が読めない動きと思われるが、そもそも人にはその思考がまったく読まれない勇浪が、なんでこの状態になったか。せんでも気がするが、
「きゅ~……」
「?」
春藍の理論ではまったく予想し切れない。生物の抵抗。
不気味な寒気を人としては感じられる春藍自身は、今の勇浪を津波に例えていた。
勇浪が飛び道具で春藍に優ることはありえん。故に、拳闘の間合いを外れた時点で勇浪の攻撃はない。だが、
「……………」
春藍もまた、勇浪への攻撃が難しいのであった。
◇ ◇
サァァァァァ
ポセイドンの館に潜入したライラ。
室内での戦闘は、"ピサロ"の性能の半減ではあったが、雲よりも小さく原型を留める水滴が、宙に浮いていた。
メテオ・ホールの魔力を強引ながら奪い取った事で、雲よりもさらに小さい存在を制御できるようになり、探索能力が飛躍的向上。身体能力の差が歴然としているだけに、ダーリヤとの接触はともかく、奇襲だけは遠慮したいところであった。
それとは別に
「アレクや春藍は見たいでしょうね。せっかく、無人になるわけだし」
ここを戦場とするのはちょっと可哀想かもと思う。いやいや、春藍にここを任せたら、ちょっと過保護になり過ぎるかもって、引き受けたんだ。
自分が暴れるには丁度良いところ。
タァンタァン
「!」
「どうやら、メテオ・ホールはやられたようだな」
ライラの探索に気付き、逃げも隠れもせずに、ライラの方へと歩み寄るダーリヤ。ライラだけでなく、周囲を警戒しているのか。いや、その目は違う。好奇心の強い目だ。
「雨や霧で敵の状況を探る能力があれば、逃げも隠れも意味はない」
「あんたねぇ、春藍をやった奴は……」
「ここは興味深い施設だ。お前等を倒し、眺めてから、破壊したいところだ」
「いやいや、ダメでしょ。それ。あたし達、待っている余裕はないわ」
ライラの体から微小な魔力が溢れていく。本来なら肉眼で確認するのは困難なほど小さきモノであるが、ダーリヤの目は捉えていた。自分の足元に広がっていくこと、通路の奥まで広がる。捕まってしまったこと。
「戦意のある良い目だ。俺とは別の、好戦的なところか」
たった一つの戦力か、
「あんたも同じでしょ。強い奴と戦いたいって、面」
その場を支配する者か。
奇しくもお互い、天を操り、抗う使い手であった。
「そーね、せっかくだから。ただ披露するだけじゃなくって、踏襲しちゃうわ」
「!」
「"ピサロ"は超えた。こっから使う魔術は、……そうね。完全体とかで、」
蒼の魔術。メテオ・ホールの力を得て到達した、地点。
「"アブソピサロ"。味わって死んでもらうわよ」