DA-RIYA③
隠れた意識達とのお別れは急に来た。
ドクンッ
「ふぁっ!?」
夢の終わり。ハッとする一瞬で、しなきゃいけない事を自然としている。春藍は自分の体がまだ完全ではないと分かり、"テラノス・リスダム"を駆動させ、足りない部分を補い始める。
「ううっっ。がはぁっ!!」
損傷が激しい。でも、激しいで済んでいる。あれだけの攻撃を浴び、蘇ってこれたのは奇跡と思う。それは人のように思っている。
「良かった!良かった!!」
「うあっ!?」
そんな感情も急な抱擁をもらうと、死に掛けていた事は忘れて、状況判断に頭が回る。
「夜弧!?」
「良かったです!すっごく、凄く、……ボロボロで、もう、どうなっちゃうかと」
「そ、そんなに酷かった?というか、修復中だよ」
「助かりますよね!?助かってますよね!?」
「う、うん」
泣いている夜弧と、泣いていない自分に温度差を感じる。男らしくあるのか、機械っぽくあるのか。
「悲しませちゃったね。夜弧。僕は、もう大丈夫」
「春藍様。……いえ、私は春藍様に何もできませんでした……」
「ううん。きっと、夜弧は僕を助けてくれた。すぐに元気が出てきた」
違う。人とか機械とか関係ないよ。自分は、自分で。
今はそれでいい。
決して、抱えている迷いじゃなく。あれともう一回戦う上では、他人の言葉を真に受けてはならない程度のこと。
「は~る~あ~い~」
「へ?」
聞き覚えのある。言葉の言い方。
ドガアアァァッッ
拳や蹴りじゃ、返り討ちになるからって雷を自分と夜弧の周囲に落とし始める。そーいう脅しはとても怖いんだが、親しみのあるものだ。
「夜弧も離れなさ~い。何があったか話して」
「あ、起きちゃったんですか?」
「話の内容が不純だったら、あんた等、直撃させるからねぇ~」
「ごめん。敵にやられちゃった」
「春藍様!正直過ぎます!もうちょっと、捻って良かったのに……」
ライラも春藍達と合流した。
「まだ敵は、2人いる。たぶん、2人共先に降りて行ったと思う」
「あの2人か。真正面から戦えば、ヤバイとは思っていたけど。春藍がまさか負けるとはね」
「春藍様は悪くありませんから!」
「分かってるわよ。それで、あいつ等の目的は?」
「私達の逆と言ってました。目的はこの異世界の破壊と考えて、間違いないでしょう」
「それはヤバイわね。けど」
「あの2人を見逃すのもマズイよ。とっても危険な存在」
「そーよね」
「……………」
分単位で異世界が壊れていくところ。
春藍達の目的である、"深海泥"の回収に立ち塞がること間違いなし。しかし、僅かな敵に対する疑問があった。それに気付いているのは夜弧だけであった。
「決戦はさらに下。向こうがその目的なら、ポセイドン様の館のところか」
「そーね。夜弧、あんたに素材の回収を頼んで良い?」
「!か、勝手に決めないでください!私も戦います!」
「ダーメ」
「そーかな?」
「ダメなものはダメ!なら春藍、夜弧と一緒に素材を探してなさい!」
「ええー。それじゃあ、ライラが危険だよ」
ライラの自信。
春藍はそれほど魔術の才がないため、強くなっているのは分かってもどれだけかは理解するのは難しかった。ライラは今の自分がどれだけ強くなったか、春藍を倒したダーリヤで試してみたかった。愚かかもしれないが、勘違いもまた成長のために必要な精神の在り方である。
「……分かりました。確かに"掃除媒体"を持つ私が素材回収に適してます!でも、終わったら手伝いに行きますから!」
「それで良いわ!」
「2人を倒してからの方が良いんじゃない?3人でさ」
「力をセーブして戦うなんてできないでしょ。相手だってそうよ。足止めにもなるし」
する気がまったくない顔なんですけど……。
◇ ◇
ズダァァッ
「あの建物のようだな」
「きゃーー!」
そして、ダーリヤと勇浪はポセイドンの館に辿り着いてしまった。
初めて訪れた異世界であるが、この異常な環境でも形がしっかりと残っている辺り、藺兆紗の言っていた館で間違いないと断言する。
「さて、壊すか」
とても大きな建物であるが、ダーリヤ達にとっては壊せぬ物ではないだろう。しかし、
「勇浪。お前はここで待て。敵が来たら迎撃しろ」
「きゃ!」
「俺は中に入る。管理人の研究に少し興味がある」
ダーリヤのこの行動。対峙した春藍の影響もある。
彼等が命を賭けてまで、やってきたその目的。人類の戦い。それがどーいうものなのか、ここを調べれば分かる事だと考えた。
自分の言う事を一番に聞く、勇浪がいた事もそれに繫がる。
2人が固まっていれば、春藍達にとっては非常に厄介であっただろう。
そして、ダーリヤと勇浪は気づけなかった大きな失点。
「きゃきゃきゃきゃ」
ポセイドンの館の周囲には、春藍達が捜していた素材、"深海泥"が生殖されていた地であった。ここが早々に壊れない理由もそこにあった。
捜し求めていた物に気付かなかった事で、ダーリヤ達は大切な交渉を失い、戦うことだけしか得られなかった。
サーーーーーーーッ
「きゃ」
小さな雨が降る。それが意図的な現象であることを勇浪は察し、冷たくあっても、高揚していく体に喜びを感じる。
そして、崖の上から姿を現した3人。
「ラッキーね。どうやら二手に別れたみたい!」
「ちょっと待って、あの周囲にあるのって」
「ええ。あれです!私達の探している物は!」
3VS1という状況など、気にも留めない。獲物が来ただけで勇浪は喜んだ。
「きゃーーきゅぅぅっ!」
「邪魔なのはあいつだけね」