DA-RIYA②
…………………。
深い眠りに辿り着いた時。出迎えてくれることはありがたい事か?
春藍は立っていて、黒く塗られた1人と向き合っていた。
「私の事を引き継いでおられるのですね」
「……リア?」
そして、入れ替わる。影の形は女性から男性へ
「君が背負っている者は、君が思っている以上に重たいものだ」
「……あなたは、確か……僕の、」
人間から管理人へ。
「我が最強の科学を手にしておいて、何たるザマだ」
「ポセイドン、管理人」
様々な改造と、様々な実験、様々な人生。
しかし、その全ての一つが春藍慶介という人物に繫がる。
意識の底で見ている者は、春藍に宿っている他の者達。影のように一瞬で入れ替わり、自分より背の低い者に変わる。それは確かに初めてみるものであったが、初めてではないと感じるものがあった。
「何か君に迷いがあるのかな」
「…………」
「それとも、ダーリヤが強いからかな?この惨敗は?」
リアも、ハーネットも、ポセイドンも。春藍の姿からはかけ離れており、彼等はあくまで春藍の部品や協力者という立ち位置に近い。しかし、こいつは。自分自身にもっとも近い姿と記憶だった。
「ダーリヤって人が強いね」
「うん、だろうね。しかし、彼はこんなものじゃない。彼に最強なんてまだ早い。だから、」
【今生きている、彼を語る彼を、許す気になれない……】
憎しみより、悲しみに満ちた顔であろう。そんな気がした。春藍は彼に尋ねた。
「どうすれば、彼に勝てる?熱線レーザーを浴びせても、あの体を貫けない。戦う度に強くなっていく気がする」
暗い悲しい顔は、穏やかな晴れのように消えた。
「戦闘じゃ勝った事ないけど、訂正をしよう。彼は強くなっていくのではなく、思い出していくだけなんだ」
「思い出すだけ?」
「彼には、あのダーリヤの力を手にしても、君のように、強さを手に入れた"過程"がほぼ空っぽだ。ただの才能よりもタチが悪いものさ。だから、彼を貶している」
「早く教えてくれ!どうすれば良い!?」
その者は応えてくれた。
「彼がそれでも、人であること」
◇ ◇
奥で春藍が見て来たものは夜弧の"トレパネーション"によるものも、あったかもしれない。
しかし、それでは春藍は助からない。
ガシィッ
「できるのね?あなたなら……」
夜弧は自分自身に対しての"トレパネーション"は、肉体変化や敵の魔力の除去にしか使ったことがない。今、夜弧が己にしようとしているのは、人格の変化である。
ベースとなる人格がなければ、まず成立しない。
「お願いよ。どのみち、本当に変われても20分程度」
人格とは、記憶だけではなく、体験を含めたもの。実際ある成功した経験がなければ、春藍の修理などできるはずがない。自己暗示であればアレクに成りすませて、修理モドキはできるだろう。成功する保障などないが。
しかし、夜弧にはいた。そーいう人が
バヂイイィィッッ
自分の意識を、人に。かつての自分に渡すこと。
「私にできることです」
現れたのは、夜弧……の姿ではあるが。人格は彼女ではなかった。
「春藍に助けられた事は多くて、私だって助けたい事だった」
慣れぬ体であっても、その手はしっかりと春藍の体を覚えていた。機械に触れることを恐れていない。彼女は、
「ネセリアも少しだけ、春藍の力になりたいのです」
ガシャアァッ
分裂してしまった春藍の体をネセリアは繋げていく。"掃除媒体"から、かつて自分が使っていた道具も取り出して、春藍の接合をしていく。
「もし、春藍が起きたら、驚くかもしれませんね」
でも、これは繋げたところですぐに意識は戻ってくれませんね。残念な気がする。だけど、それでもいいです。春藍が夜弧達を護ってくれるのなら、それだけで嬉しいですから。
「ふふ………必ず、起きてくださいね。春藍」
とても短い時間であった。これが夜弧の中で止まった、伊達・ネセリア・ヒルマンだとしても、春藍達はちゃんと接してくれるだろうか?
全身の接合が完了した時、ネセリアの人格はまた夜弧の中へと戻っていく。
◇ ◇
「んん………夜弧の奴……まったく」
20分以上の睡眠に入っていたライラが目を覚ました。
意識を立っていた20分。状況の把握には困難かと思えたが、
「春藍達を追いかけなきゃね」
ライラはすぐに目的のため、行動を移すことができた。また、自分自身にある巨大な魔力も実感し、しっかりと制御できる。心の部分では問題はない。平常時ならまず問題なく行ける。
周囲に誰もいるはずもない。気掛かりがあるとすれば、
「重力が弱まった?」
気絶している間に何かがあったってこと?
春藍と夜弧は無事なんでしょうね!
世界の異変。
それに続き、仲間の状況。ライラが自分自身のことをすぐに後回しにしたのは、当然とも言える。警戒を怠った故か
「……危ない危ない。近づいていたら、殺されてましたね」
新たにこの世界にやってきた人物を、発見できなかった。彼はライラの姿をしっかりと把握していた。念入りに確実に事を成すのが彼だ。
「彼等と私の目的は被ってませんよー。ダーリヤ、せめて1人か2人は、葬ってくれたら嬉しいですね」
あなたのような方と出会えた事は、とってもハッピーですよぉ。
「ふふふふ。ゆっくり行きましょうか」
そいつは間違いなく、ハイエナ。おいしいところだけ持っていく、卑怯な奴。