LOVE SPRING④
キキィィッ
「きゃっ!」
勇浪は体を切り替えした。思うが侭、春藍達を襲い掛かる。銃を発砲した夜弧を、当面の標的と定めた。春藍達が滑らかに坂を降る一方で、勇浪は自分の体に刻まれるダメージを無視して、ガンガンと飛び降りて下で待ち構えようとする。
その勇浪よりも早く、ダーリヤが春藍達の前に立ち塞がる。
「!あいつは、確か」
「道を作っているのは、お前だな」
真っ先に春藍がこの移動の要であると見抜き、待ち構えている。向かってくる相手にその肉体のみで挑む。春藍が請け負う構えを見せたが、
「春藍!応戦しないで!坂を上り坂にして!飛びなさい!」
「!」
ライラの言葉で春藍は道を作らないルート作り出す。勢いを乗せて、坂を上って宙へと飛び出す3つの橇。ダーリヤの待ち構えている位置を外す。
「吸収雲!」
ボウウゥゥンッ
「わっ!雲の道!」
「重力で結構沈んでますけど!」
「向こうにも道を作るよ!」
めちゃくちゃ分厚く柔らかい雲を宙に浮かばせ、3つの橇に中継の道を作る。ライラもまた春藍のような器用さをみせた。
「ちっ」
ダーリヤは道を変えられ、対応に移した瞬間。
待ち構えていた目論見が崩れた、という誤算からの隙。ダーリヤの背後に現れてくる、
ドゴオオォッッ
「!!」
「あんたの相手は、あたしがする!」
ライラが別働隊として、ダーリヤを殴り飛ばし、崖から突き落としたような形を作る。しかし、"超人"のダーリヤに物理的なダメージはそこまで通じない。
「囮。いや、人を割いたわけか」
「好き勝手にやられちゃ困るからね!」
見下ろすライラと見上げるダーリヤ。しかし、精神的な立場は逆だったりする。
アレクが戦った奴ね。それにしても、こいつ。前に会った時より、圧倒的に強くなってる。マジで殴った、あたしの拳が痺れてる。体術じゃどうにもならない相手。分かっているから、承知しない。
人数が分かった以上、霧の発生を止めた。ライラは再び、雲へと変換をかけて、雷雲に変える。
「……ふん、俺はお前よりあの男の方に興味を持った」
ダーリヤは愚かにもライラから視線を切って、春藍と夜弧達の方へ向かった。ライラから離れるほど、ライラの戦闘領域になる。能力を甘く見ているととれるが、注意を寄り惹きつけるため。
「飛雷!」
雷雲が、ダーリヤと勇浪の2人に目掛けて放たれる刹那。雷は自らの意志を持って、ライラの近くに突き刺さった!
ドガアアァァッ
『また会ったな!!』
「あんたは……」
霧の中に元素状態の身を埋め込んで、ライラの雷と交わる形で超高速の移動を実現。メテオ・ホールも追いつく。さらに、ライラとの接近戦に持ち込んだ。
強敵を2人向き合い、かなりヤバイ戦力が来ていることを実感。メテオ・ホールとの相性の悪さをすぐに認め、ライラは宙へと飛んだ。
「面倒な奴がいるわね!」
『貴様には借りがあった。消してやりたいところだ』
ライラとメテオ・ホールが一番後ろへ。中間にダーリヤと勇浪。一番下を走る春藍と夜弧。
もうこれより上には奴等の仲間はいないはず。あたしの"ピサロ"なら、春藍達から離れても援護ができる。それに敵の位置を知りながら、応戦するべき状況。足止めも必要。
空中に雲の足場を作るも、重力によって沈み行く。それは相手も同じであった。
『我と空中戦かぁ?』
「あんたは厄介だからね。ま、あたしはそれ以上だけど」
分の悪さも分かっている。それでも、ライラはメテオ・ホールとの戦闘を選んだ。少しでも春藍達を進ませるために、
◇ ◇
「2人、追いかけて来てます!」
「ライラは、1人に足止めされているって事だよね」
「雲が見えます。たぶん、そこで戦っているかと、春藍様。ライラは負けませんよ」
「分かってるよ」
ライラは大丈夫。それにホッとした。もし、3人もライラが引き受けていたら、……って思う。凄い強そうなのがまだ2人もいる。
「僕達の相手は、あの2人だね」
「はい」
ダーリヤと勇浪が仕掛ける前に、春藍と夜弧は2人の分析を図った。
2人共、"超人"であること。飛び道具のような物がないこと。
「それよりも彼等の目的ですね」
「僕達の抹殺、にしては都合が良すぎるよね」
奇襲を喰らったことと、目的の真意が不明なこと。春藍達が迎え撃つことを中心に考えているのは、少しでも戦うという選択を避けたいからである。
もし同じであるならと、わずかな希望もある。
「話を聞いてくれるかな。もうほぼ戦っているけど」
「事情は知りたいとこです。私が、ダーリヤという者に話をして見ましょう。あの人達の間合いになったら、話どころでもないですし」
今、橇は1台となって、春藍と夜弧の2人が乗っている状態である。
夜弧は警戒をしつつ、声を挙げた。
「あなた達!目的はなんですか!?」
「!」
「もし、私達と同じであるならば、戦うことなどせず。共にこの地を周りませんか!?」
お願いのような言葉ではない。ダーリヤもすぐに理解している。勇浪は相変わらず、追いかけている。それを確認してから、ダーリヤは立ち止まった。
「お前達の目的はなんだ!?それを話せ!!」
あいつが一番やばい。
そして、来た3人の中でもっとも人間であった事が救いだ。
追いかける速度を緩めた。それは明らかに勇浪の奇襲をアシストするためのもの。夜弧も分かっている。
「私から言いましょうか?」
夜弧はその本心。丸ごと、伝える。
「この決められた、世界を変えるためです!!世界を守るためです!!」
自分達の目標をいの一番に伝えたのは、もっともダーリヤの心を揺さぶるに最適であり、ここから伝える全てが偽りのない真実であると、伝えるため。嘘など申さないが、信じて欲しいから。
「それにはここにある、特別な代物と管理人ポセイドンが作った施設に行く必要があるのです!」
嘘ではなく、隠しながらも、訴える夜弧。ダーリヤにはそれが正しいと理解できた。
「今、壊れる逝くこの世界中を!救えるのはここにいる春藍様達!その人達を失うわけにはいかないから!あなた達とは戦いを避けたい!」
具体的などうたらを語る状況ではない。
だが、夜弧は自分達の目的を吐露し、それに対して得られる。
「あなた達はなぜ、ここで戦う?私達と戦う意味はあるのか?」
相手の目的。
それに答える必要はない。分かっていること。
だが、ダーリヤは答えてくれた。
「頼まれたからだ。お前達の事情は知らんが、どうやら逆のようだな!」
「!」
「藺兆紗。と呼ばれる奴にだ。お前も知っているだろう」
頼まれたら何でもするわけでもあるめぇ。
「だが」
ダーリヤの一つの心。道徳。それらは少し春藍達とは違っている。藺兆紗とも違っている。だが、理想に近いのは……
「運命というのが、あるとしよう。お前等がどんなに世界を救おうが、俺が知ろうとしたところで。俺は世界を救うのではなく、人類そのものを救うべきであると」
藺兆紗の方。
「………………」
会話の間で相当、ダーリヤとの距離は離せた。だが、説得は無意味であるということを知り、死闘が避けられない事を重圧として、受け止める夜弧。
「壊れる世界などたかが知れている!!壊れ逝く世界の中、人類はどう立ち上がり、どう向き合うか!我々、人類は進歩し続けなければならない!!管理を失った今こそ、人類は自由に歩むのだ!」
「今はもう、そんな状況ではないんです!!」
夜弧の言葉。そして、その覚悟が形となって現れたのか。夜弧の左手と勇浪の右の拳が激突した。圧倒的な筋力差を真正面から受け止める。それは夜弧の力負けは目に見えて、結果も分かっていた。
ドゴオオォォォッ
「きゅ~~」
「夜弧!」
精神的な揺さぶりは勇浪には通じない。理解というものがないからだ。
地形操作という不利もある。夜弧の心配という、思考の遅れもある。
バギイイィィッ
瞬時に打撃を受ける回った春藍の行動は、恐るべきところ。訓練してもできぬ対応というのがある。死地をいくつも経験し、得た本能。宙へと放り出され、重力で落とされようとも、春藍の目はしっかりと敵を捉えていた。無論、勇浪もその目に挑戦という文字、食いたい欲求が溢れる。
「待て。そいつは俺がやる」
「きゃ」
「勇浪。悪いが、お前はあの女をやれ」
3人共、手練れであることを認識した上で。標的を春藍に定めたのは、心の中の何かか。あるいはダーリヤの強さとはまったく違うものを感じ取ったからか。
少なくとも、春藍が勇浪を倒せる実力を兼ね備えているのは、直感で判断でき。自分が戦うべきだと理由付けをした。
「………」
「なるほど、サイボーグか。あるいはロボットそのものか」
春藍の腕が兵器に変化しても、それを驚きもせず受け止め、冷静に、溜め息の一つを吐いたダーリヤ。
面と向かってこのような人間もいるのかと、少々。自分の考えている人と人の違いを持つ相手と、初めて出会えたこと。
「面白い。といった気持ちなのか?」
「僕は全然面白くないよ」
春藍もまた、こいつの発する憧れる強さに対して、思想と呼ばれるものが大幅に違っていること。
それに対する疑念、ぶつかる必要がある理由。
ばらけて戦うその瞬間だった。