LOVE SPRING②
重量。
パワーを語るならば、手っ取り早く、これほど分かりやすい基準はない。
体積、質量、そのいずれも桁外れであった海。それを支えた大地。さらに真の姿が現れ、海以上の重量を抱えてもなお、負ける事なく大地はあった。
ガラッ
不思議な苔が生えた変わった大地には、ヒビすら入らない。
やや滑りというか、柔らかさというか。単純な硬度だけでは打ち勝てないからこその、物体の変貌。
"深海泥"と呼ばれる代物が、その重さを支えて世界の鉄板を壊さずにいた。
単純なパワーと真正面から受け止めることができる、厳しい自然が生んだ素材。
最硬度というより最頑丈度。
その形を留めることに関して言えば、もっとも適した物質。
ポセイドンがこの異世界で研究を続けた理由でもある。
ガゴオオォッッ
しかし、全て防ぎきれているわけでもない。それほどに重力場が暴走を起こし、空間を捻じ曲げている事実がある。
「これはマズイね。どこまで落ちるんだろ」
「もー何回も人生振り返られるわよ!」
「まったくです!」
深海の深さは上空の高さよりもあった。春藍の造ったボールの中、3人は人生を振り返りながら、落下先での対処を考える。
「でも、泳いで潜って行くよりも早いよ」
「いや死ぬわよ!まったくねぇー」
加速度MAX。
地上に辿り着く前に全て分解されそうなものだ。火球でも生まれる空気抵抗。
再度の死に予感させられたが、春藍の"テラノス・リスダム"が場を改善する。
ボチャァンッ
「あ」
創造したのは海。自分達を中心に包み込んだ海は、重力などの抵抗を大きく和らげた。しかし、それでも墜落の死がある。
「僕に捕まって」
「えっ?」
「何すんの?……分かるけど」
両手に填めた"創意工夫"が、ライラと夜弧の体を変化させていく。生み出した海と似たように、二人の体を液体に変化させる。そして、春藍の体もだ。
「ちゃんと戻しなさいよ」
「当然だよ」
体が散るものの、衝突を受け流せ、その後肉体の構築。春藍が思い浮かべた生存手段は悪くない。
バヂャアアァァァッッ
包んだ者の全てが吹き飛んだが、いくつものの無言の協力があった。
地上にぶつかる、刹那ほどのタイミングで。ライラは"ピサロ"を発動させ、自分達の周囲に包みこむ雲を生み出す。雲に重量を持たせ、液状になった自分達が飛び散る範囲が自分の中に留めるためだ。
バシャアアァァッ
3人の肉体は散り。春藍の意志で動けるものがどれくらいあっただろう。
痛みや肉体の四散は生半可では行動がとれない。そこで夜弧の"トレパネーション"で、春藍を操作し、自分達を助ける動作を強制的に与えた。意識がなかろうが、体がどうなっていようが、込められた魔力によって春藍は動き出した。
◇ ◇
同時刻。
ドバアアァァァッ
「むっ」
「きゃっ」
『なんだ』
藺兆紗の指示により、ダーリヤ、勇浪、メテオ・ホールの3名もこの"無縁地底"、ニュー・クローズにやってきた。当たり前であるが、
「…………」
「きゃーーーーっ」
『重っ!!重力か!?』
ここに来た瞬間に、春藍達が味わった重力のパワーを味わった。
3者それぞれ違う気持ち。落下を受けての対応はまたそれぞれだろう。
「なんだこの異世界は?」
『貴様、冷静だな!?』
「俺の異世界は雲の上で生活をしていた。空から落ちるのは珍しい事じゃなかった」
『それはそーいう問題でいいのか!?』
「きゃーーーー、きゅ~~~~」
落下に乗じて、勇浪はダーリヤに抱きついて、落下も含んで楽しんでいた。
「メテオ・ホール。お前はこの程度なら死なぬか?俺と勇浪では庇うことはできんぞ」
『我は神なるぞ。落下程度では朽ちぬわ!』
「ならばいい」
物理攻撃のほとんどを受け流せるメテオ・ホールが、重力で押し潰される程度ではくたばらない。効く攻撃と効かない攻撃の差がある奴だ。
一方、"超人"である2人が、この強力な自由落下から生き延びる術はあるんだろうか。メテオ・ホールはわずかであるが、気にかけていた。
「!メテオ・ホール、あっちに行くぞ」
『あ?』
「岩にぶつかる。行き先はもっと下のはずだ」
一気に止まる事無く、落ちていくことを選ぶ。春藍達と違い、まったくのガードなく。視界良好な空中を見通すダーリヤ。
「!」
落下速度に違いがある。ゆっくりと差が出てきており、ダーリヤ、勇浪、メテオ・ホールの順になって、落下していく。彼の行く道に後の2人についていく形になってしまった。
落下中に障害物があれば避けたり、
「ふんっ」
ドゴオオォォォッッ
ダーリヤの身体能力を持ってして、殴り壊す。空中でもその肉体を自在にコントロールして、落下を止めることなく落ちまくる。それに続く勇浪とメテオ・ホール。
『しかし、どこまで落ちるんだ?』
「さぁな」
「きゃ~~~、ふぁ~~」
「欠伸もするか、勇浪」
10分以上も落下しているとあって、あんまり変わらない景色と状況に飽きた勇浪。緊張感のない奴だ。だが、見えてくる。
「地上だ。もうすぐ、着くぞ」
『長いスカイダイビングだった』
そのあまり変わらない景色であったが、ようやく。避けようのない巨大な地上が見えて来た。足をつけて立っていたのが懐かしいくらいだ。
しかし、……
ドガアアアァァァッッ
ダーリヤと勇浪は、文字通り何もしなかった。そのまま……
『何をしているんだ、貴様等ーーーーー!?』
体を分散して衝撃を和らげたメテオ・ホールとは、まったく違う対応。衝突の直前まで何もしていない。というか、さっき。庇えないとか言っていたのは、ダーリヤであっただろう?
『なるほど。庇えないと言ったのは、何もできないということか』
勢いそのまま、ダーリヤと勇浪がその形の穴を作って地上に降りた。強力な重力は地上に降りても感じるもの。
「むっ……むーー、少々効いた」
「きゃーきゃー」
"超人"が、この自由落下から耐え切るには、強固な肉体を宿す他ないと。理解していただきたいと思える行動で、穴から這い上がって来たダーリヤと勇浪。
『馬鹿共が、人間とはこうも馬鹿なのか?』
「何も変わらないことであったよ。死なぬこともな」
「きゃっ!」
同じく、生き残った3名。
「さて、どこに行くか。まだまだ下に落ちられるのか?目標とする施設の破壊なわけだが」
『この重力で潰れている可能性もある』
「きゃーーーーっ」