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RELIS  作者: 孤独
現滅編
510/634

黄金人海(ゴールデン・カンパニー)

人が人を作る数は極めて少ない。それは優秀なる種族であるからか。

否。


獣、魚、植物、虫、菌、


彼等には、人間が追い求める究極の性能を携えた存在もいる。医療の最先端、技術の最先端、美味なる多大な食料。多くに人のため、役立てられている。

そう踏まえれば、人ほど。人に役立たない生物はいない。




「なに」



だが、人もまた他の生物にない手段を用いている。

感情を持ち、知識を持ち、秩序を生み、高度な争いを起こす。生産性の悪い生物であったが、長い時を経て世界に君臨する生物となったのも事実。人は、他の生物にとって有害なほど、強くなっていた。

踏み潰す事、食い荒らす事、利用する事。それが人であっても、気にすることなく我がために使えるほどだ。

罪の意識を抱きながら、感じさせずに過ごすことすらできる。



「光だ」



そんな人間達に光が射す。

強烈な至福を抱かせてくれる光は、人間の罪を忘れさせる。




人間は世界に君臨した生物であったが、仮初の群れでしかなかった。分かり合う事などありえない。友情なんて、愛情なんて、存在しない。

しかし、操ることは簡単なことであった。

感情さえ壊れてしまえば、思うがまま。その感情が尊敬を含めた服従であるなら、なおのことだ。主従関係となることに分かり合う必要はない。



「綺麗」



人が人を操る。それはシンプルな双方の理想であった。折れた片側がそう決意したのなら幸福しか生まない。捻じ曲げて正した理論だ。

それを可能としたのは一つの偏執へんしつな能力。



「行こう」



"黄金人海ゴールデン・カンパニー"



「藺様」



『人の数では頂点』、『戦争が最も求めた力』


かつての戦争においては多くの人類を支配した能力。

人の心や人格、人生を容易く壊し、我がための更正を強いる。精神操作においては最強能力であり、数においても無限であり、もっとも人を幸福に導く能力でもある。



カーーーーーッ



多くのフォーワールドの住民達は今、幸福な眩い光を当てられた。

何も考えない事が幸福である事を信じ込まされようとしていた。

王がもたらした自爆によって、人々は恐怖を感じ、その不安から逃れたいという現実逃避が欲しかった。その弱みに付け込んでのいざない。思考が麻痺してくる事による、一種のパニックが幸せを運ぶ。



「藺様……」

「藺様……」

「ど、どうしたんだ!謡歌!バードレイ!」



また、単なる能力だけに留まらない。

服従した者達の力を借りて、"黄金人海"はより強力かつ広範囲となっていく。一度、始まったら大勢の人間があっという間に藺の支配下に陥る。

戦争の状況を知り、戻ろうとしていた水羽達にもその光は届くのであった。



「な、なんだこりゃ……」

「頭がいてぇ……」

「この光は一体……?」



住民全員がその光を浴びていた。


「藺様、お導きを」


藺との契約に至る者は、光の中へと消えていった。周りがなれば、それに同調するように次々と人は光の中へ行く。


「待って!謡歌!」



水羽は強い精神で藺の誘いを振り切り、さらには謡歌の腕を力づくで掴み、止めた。


「謡歌!しっかり!」

「り……り…?」


懸命な水羽の引き止めが謡歌を救ったが、


「藺様」

「バードレイ!」


バードレイはその光の中に足を踏み入れ、消えてしまった。

そして、徐々に光が弱まってくる。



「ぶはぁっ、ふはははは」


恐るべき力であるが、これが藺兆紗が求めていた"人脈"の先にある能力、"黄金人海"だ。

心の失った部分を補おうとしたがため、リミッターの損壊。よって、できるようになった能力。


「だ、大丈夫か!?何をどうした!?」

「はぁっ、はぁっ」


藺自らが持つ、異空間が急激な改造を遂げる。同時に、自分にも発狂するほどの肉体と精神に降りかかった苦痛。


「うぎゃああああ、あががあぁぁぁっ、ぐぎゃららら」


白い眼をし、地面に転げ、ダーリヤが藺を守るよう力づくで止めているが、反撃もしてくる。藺という男の感情もまた、再編されていく。


「あああああああああああ、ああぁぁぁぁっ」


忘れたくない。君がここまでしてくれた事を……


「あああああああ、ああ!」


藺から奪われていく記憶は、王震源という男の者だけであった。"黄金人海"への昇華、王を超える逸材との出会い。王がいなければここまで来れなかったというのに、藺は彼の事を忘れなければいけなかった。



「わ、わわわわわ」



人類を支配するならば、人であってはならない。切り捨てた人間のことを一々覚えているようでは、この能力を扱う資格がない。失った物は元には戻らないことを証明するように、そもそも彼はどこにも居なかったと感情と記憶を破壊して、再構築。


「あああああああ」



電池切れを起こしたかのような、弱りきる悲鳴。セーブをせず、リセットされる。

瞳孔が戻ってきた時、


「あっ、すみません。どうやら、まだ能力を制御できていなかったようで」

「大丈夫か?」

「ええ、出会ったばかりですのにお気遣いありがとうございます、ダーリヤさん」


割と喋れている。

自分がどうして意識を失いかけていたのか、すぐに分かった。どうすればいいかも分かった。


「メテオ・ホールさんが待ってます。行きましょう」

「ああ」

「きゃきゃ」

「そうじゃな」


藺が王の事を覚えていない事をダーリヤ達が気付いたのは、逃げ切ってからだった。それどころじゃなかったのも仕方ないことだ。

それは、フォーワールドにも言える。まさかの、王の自爆を超える大災害級の神隠しの発生。



藺の"黄金人海"は、バードレイを含めて、20万人以上の人間を一瞬で連れ去ってしまった。



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