パイスーVS英廉君、ルービックニュートンの死闘
ピリリリリリ
「大宇治か?」
『はい。手短にお伝えします。先ほど、ロンティスさんの"検察課"の能力でパイスーを補足しました。"□■□■□"、ルービックニュートンで存在を確認。ただちに集結して欲しいです』
「承知した。拙者もすぐに向かう」
"和の国"吉原に流れてきた情報だった。桂はライラを探し、伝える事を伝えてから向かうつもりであった。ただの人間や管理人の始末ならば手間取らないが。相手が相手だと理解している。
おそらく、魔術教室の方にいると考えて向かえば案の定、春藍とネセリアも揃ってそこにいた。
「!か、桂!どうしたのよ」
「ライラ。拙者は別の異世界に行かなければならない。拙者がいないからといって、勝手な行動はするんじゃない」
「な、なんであたしだけに言うのよ!?」
「お前が一番危ないからだ。とにかく、また戻った時。お前達から話を聞いた上で処分を検討する。大人しくしているんだぞ。拙者がお前のことを守ってやるからな」
そう言い残して、桂は立ち去った。インティとリアを追った時とは違い、普通に走ってライラ達の前から姿を消した。
「あの人が桂さんか、綺麗な人ですね」
「春藍。あいつは管理人だけど男よ」
「ええぇっ!!?全然私も気付かなかったです!」
「す、凄く綺麗な方だったよ。ライラよりも女性っぽくて」
「あたしはそんなに女に見えないの!?春藍!胸は普通より大きいでしょ!」
車椅子に座っている春藍の頭をはたく、ライラ。結構傷付いた。
「ったく、……いったいどんな用事なのよ。桂」
◇ ◇
異世界の一つ。
"□■□■□"、ルービックニュートン。ここは■と□で大地と建物でできていた。いたるところに立方体が置かれている世界。白と黒の立方体だけの世界。
生命の生存、他の存在、そして管理人ですら0という世界だ。
「どらぁどらぁ」
その異質過ぎる世界に足を運んだこの男。立方体に寄りかかって何かを待っているパイスーがそこにはいた。"管理人"を殺すのが彼の、黒リリスの一団の目的だ。分かっていてここに来ている。やりやすい世界だと、両者が思えるだろう。この世界は"もう使われない"だろう、実験のためにある世界なのだから。
「そろそろやって来るだろ、テメェ等。コソコソしなくていいんだぜ」
パイスーは1時間近く立方体に寄りかかっていただけ。ようやく、餌に獲物が掛かり始めたと核心して歩いて叫んだ。
「さっさと始めろやあああぁぁぁっ!!"管理人"共おおおぉぉっ!!」
ビリビリとルービックニュートン全体に伝わるパイスーの叫び。音波の流れがとても不可思議に動いていた。パイスーの叫びに姿を隠れていた"管理人"達、数名が会話を始めた。
「残りメンバーは?」
「桂さんとゼオンがやや遅れて到着との事です」
「仕方がないです。始めちゃいましょう」
「それよりもあいつが始める気だぜ。俺達は奴から1km以上は離れてるんだぞ」
ルービックニュートンにおける時刻は19:32を示していた。
この世界には今、パイスーという人間が1人。
管理人が6人、英廉君、D_メッシ、ノッポ狸、陶、大宇治、キサエル・ロンティスの6名。
6名は固まっているわけではない。散り散りとなって、パイスーを取り囲もうとしていた。管理人同士の会話が容易く、ありえない距離でも行われるのは大宇治の魔術"プロティミス・タクティス"のおかげである。また、パイスーの様子が手に取るように分かっているのはロンティスの"検察課"のおかげであった。
「ロンティス、大宇治よ。サポートを頼むぞ」
「了解です。陶さん」
桂とゼオンがいないわけだが、それでも戦闘向きの管理人が3名も揃っている。まずは先手に陶が仕掛けた。
「ふんぬぅっ!!」
超人、陶の"爆丸筋肉"は圧倒的にタフ、圧倒的にムキィ、圧倒的にパワー、圧倒的にウホォッ、圧倒的に…………
「アーーーーーーーーッッ!!!!」
である。そうなのである。筋肉という筋肉が凄い。
陶は周囲にあった立方体をその巨体に備わっている手で鷲づかみ放り投げた。パイスーとの間合いはおよそ1200mの間合いをものともしない。物体というか、建物というか、障害物というとしっくり来る。立方体をぶっ壊し、ぶっ飛ばしながら、陶が投げた立方体は一直線でパイスーに飛んでいった。目標に対して投げただけだが、その素晴らしき筋肉が伴ったパワーは一瞬にしてこの世界を荒らした。
ビギギギギギイィィィッ
「!」
立方体だらけのこの世界が堂々と崩れていく様。
「よーやく来たかよ」
軽々と陶が投げた立方体を避けるパイスーであったが、陶の起こした攻撃はパイスーが乗っていた立方体も、周囲の立方体も崩した。
「オホホホホホ!!さぁさぁさぁさぁ!!問題ですわよ!!木×木×木で何が現れると思います!?お答えなさい!!愚かな人間!!」
「!」
婆特有のウゼェェッて言葉を吐いてしまう発音が上から聞こえたパイスー。
「答えは森!!?ぶっぶぶぶーーー!!正解は、木の"惨状"ですわよ!!オホホホホ!!」
D_メッシだけはみんなとは違って空中に存在していた。自分を打ち上げてパイスーの周囲に落ちようとしていた。トウモロコシという異質な姿をしている婆。"粒々南蛮黍"の科学を発動させ、雨のようにパイスーの周囲に落ち始めるD_メッシ。
立方体の上に落ちるとすぐに埋まって、草木を咲かせる。すると立方体が徐々に小さくなっていき、逆に草木が成長していく。成長を奪い取ってしまうという力を持っていた。
「天に立つ恵み!!恵みにお枯れなさい!!」
陶とD_メッシの攻撃にパイスーは瞬時に獅子を作り出して、乗り込んでいた。
上空から降り注ぐD_メッシの攻撃。雨のような数だが、自分に接触する直前で斬ればなんの問題もない。だが、獅子を作り出すパイスーの"キング"は、D_メッシの攻撃を無防備に喰らえば魔力を吸収されてしまう。一時的に成長した草木はトウモロコシとなり、再び上空に打ち上げられる。さらに悪い事に陶やノッポ狸などがパイスーに近づいていた。
上位の管理人を複数相手にするのは分が明らかに悪い。
「だから面白ぇ。なぁ?」
サイコーに。これでもまだ。足りねぇが。
「戦いは辞められねぇな」
パイスーはこの状況でも平静。むしろ、余裕すら見せる。
始まった大バトルでどうすりゃ良いか勝つか考える。ここが重要だ。雑魚をどうやって甚振って鳴かして、残忍に始末するような事じゃない。幾多の強敵を相手にどうやって勝ちを結ぶか。頭が心地よいくらい、冴えに冴える。退屈ってのが消える。
誰だって100%じゃねぇが、誰もが100%じゃねぇから良い。最強を求めるパイスーにとって、最強という言葉を否定している理論が頭にある。
D_メッシの攻撃と崩れる足場を上手く獅子を乗り継いで回避しているパイスー。そのパイスーに理立方体を壊しながらやってきたのは陶。
「ふぬううぅっ!!」
ドゴオオォッッ
陶の拳は獅子に命中し、粉々にされるもパイスーは直前に跳んで回避。さらに空中で獅子を作り出していた。
「素早い!!」
「テメェとトウモロコシは違うな」
D_メッシの攻撃は同じ地点にいればいつかは喰らうだろうが、移動が遅く小雨に等しいレベルの雨雲と考えれば。大きく移動すれば攻撃を回避でき、なおかつ相手をしなくて済む。来いと言っておきながら、いきなり逃げを使うなんざダサ過ぎるがな。
ともかく、戦闘役のこいつ等を潰す事が最良ではない事は分かる。戦闘なんて代えがいくらでもいる。狙うべきは
『うあああぁぁぁっ!?』
『ぐおおぉっ!!?』
「!?」
「どうしたの!!ロンティス!大宇治!!」
位置の取得、癖のチェック、補給、情報交換。戦闘という行ないをチームで行う際、司令塔や補佐を担う連中から消す事だ。視野の広さなどがある奴を残すと長期戦や遠距離戦、集団戦などにおいては非常に厄介。早めに消えた方が良い。
パイスーは陶からの攻撃が始まった時、"キング"によって小さい獅子を管理人達の気配がする方向へ飛ばしていた。とても複雑な自動操作で動き、標的と出会ったら即座に戦闘体勢となって全力で敵を食い殺す。
司令塔をしていた奴等が死ねば、場が慌しくなるのは当然。
陶がわざとらしく異常に暴れてグジャグジャに割れた沢山の立方体は、パイスーの危機感知能力をわずかでも目暗ましにする物であったのに。逆にロンティスと大宇治が討たれた事で陶達も、パイスーと同じく視覚と気配を察していかなければならない。
「どうしたぁ?冷たい汗と声を出して」
「!」
「まだまだこれからだろ!」
パイスーは見切る。まずはD_メッシだ。ロンティスと大宇治を討った後で、パイスー自身は立方体の影に隠れつつ移動していた。D_メッシの空から落ちてきて、成長を吸い取って草木を作って自分自身を作り出す科学。自分の獅子にも当たってしまえば、魔力を吸われて草木が生えるだろう。
「なら、草木になるために犠牲になる獅子と」
D_メッシの攻撃を喰らう、少し小さいが何百頭もいる獅子。
「その草木になった獅子を食う、獅子を作れば完結だ」
D_メッシの能力の弱点を瞬時に見抜き、実行する力。戦いに対する自信が半端じゃないパイスー。
草や木になりかけているD_メッシは移動する事ができない。自分も造れずに襲われたらD_メッシは殺される。さらにパイスーの恐ろしいところは、作り出している獅子のほとんどが自動操作。ちゃんとパイスーの意志を理解し、期待に応える働きをする。
「お、お止めなさい!!私が減ってしまうではないか!!」
陶もノッポ狸も、……パイスーが隠れた事によって戦闘ができない。牽制がてら襲い掛かる獅子の対応で手一杯であった。四方からしっかりと連携し、なにより
「ぐうぅっ!なんだこの獅子は!!強い!!」
たかが一頭でも、戦闘に特化して生み出されている獅子は普通の管理人よりも強い。なんて強い獅子を作り出せるのか、パイスー。陶の固い筋肉を突き刺す牙はないが、皮膚はしっかりと抉ってくる。
数で劣りながらもパイスーの圧倒的な戦闘力の前に、管理人が窮地に立たされたところで。
奴の魔術が発動した。
『現在の時刻。19:32を示します』
その電子音はたった一人にしか聞こえないが。誰もがその"魔術"に触れた。
「はあぁっ!!?」
「うおおぉっ!」
「こ、これは!!?」
「うひゃあっ!」
パイスー、D_メッシ達を含め巻き込んで驚かせた。この中でもっとも強力な能力を持っている奴。
「桂さんは間に合わなかったか。ゼオンハート、加勢を頼む」
「遅れた分は取り返そう」
ゼオンハートの到着を確認してから発動した。本当ならば桂も待ちたかったが、仕方がない。間に合わなかったらこっちが先に全滅する。
英廉君の決断。元々7人でパイスーを討つ計画のはずだった。
『"ニノ"が起動しました。これから19:32を維持します』
英廉君の魔術、"ニノ"
指定した時間を維持する魔術。彼はこの世界を今、パイスーと戦った時の時刻、19:32という状態で維持した。それ以降で起こった、ロンティスと大宇治の死亡、D_メッシが攻撃された事、陶が立方体を破壊しまくった事、パイスーが獅子を作り出した事も全て。
未来で起きる事を運命として確定させ、19:32という時刻を維持させる。
これから起こる出来事は19:32の出来事となる。




