ある時代より④
かつての人類は、”時代の支配者”の呪縛から解かれるため、時代を飛び越える基礎理論を編み出し、これからの人類を保護する管理社会の基礎と、干渉を断つ”無限牢”を生み出した。
管理人は”時代の支配者”の調査と対策を講じ、かつての人類の理論をさらに研究し、人類を管理するという教育によって、戦力を整え始めた。
未来の人類は滅んで消え、存在すらなくなっても、過去に希望の舟を届けることにした。
過去、今、未来。多くの時代の人類達が力を合わせ、ようやく来た。それほどの出来事である。時代が違えど、繫がって来れた人達。
『酷いのね』
しかし、それでもなお人類が五分になったとは良い難い。彼等が努力してきたように、彼女にもそれだけの時間があったということ。頂点に変わらずの、決まりにいる人をどう止めようか。
自分が生まれる時代や場所、境遇を選び、変えることすらどうとでもなる。彼女がその超越された力”だけ”でないのは当然であろう。
「む」
誰が生まれ、どう終わっていくか。
”他人”が生まれる時代や場所、境遇すら変えて、続くはずだった歴史を狂わせる。影すら見せず、捉えようのない姿に時代は翻弄され続けた。
この時、夜弧以外にも大勢の逸材が、この時代に誕生する事となった。
管理人がいなくなるというタイミングを計り、過去に存在していた逸材達のデータを備えた人間達を誕生させた。
「……………」
その中で”時代”の変化が決まるほどの、凶悪な能力が再現されることとなる。
『私を起こすのは、あなたなのです』
彼には”時代の支配者”の声は当然ながら届かない。見えもしていない。いかに自分のために、今完成された能力を使うかということ。多くの人材を操作し、実験し、見つけて来たこと、そして、
「王くんが亡くなった?」
多くあった大切なもの、大きく固い一つだけの大切なもの。
「王くんが亡くなった?」
生きている理由にもなる大切なナニカを犠牲して、さらなる覚悟と覚醒へと繫がる。今、心が許せる貴重な友を失った。友は死を選んだ代わりに、求めていた人材を届けることができた。
必要な物は分かっている。けど、大切な物は失くして気付いてしまう。
フルフルと両腕を震わせ、二度も知り合ったばかりの相手に確認の声を出し、……友が確かに書いた手紙を嘘であれと、強く願って読み上げる。
『
藺。
お前が求めているだろう人材を何人か見つけた。
人類を支配するお前なら、きっと扱える。
だから、絶対に彼等に会わせてやりたい。
勝手かもしれないが、やり方は俺がやる。
俺なんかをここまで使ってくれただけで嬉しいんだぜ。
最後に、俺を見捨てていいから、俺の気持ちを見捨てないでな。
未来は分かっているからな、”時代の支配者”、藺兆紗。
王震源より。
』
藺は、このことに言葉を出せなかった。すぐに、
「脱出しましょうか」
「分かったのか?」
「ここは敵地。ここまでの準備をしてもらったのに、できないとなれば。私は一体なんなのですかね?」
状況を踏まえて、自分がやるべき事をしっかりと理解した。
ダーリヤ、琥珀博士、勇浪、意識を失っている朱里咲。この4名を見ただけで、王が死ぬだけで手に入る人材とあれば、こちらが礼を尽くしたいほどだ。
ありがとうと、労いたいのに。それもできない。骨も拾うことすらできない。
おかしいなぁ。
普通の人間だったら、別になんとも思わなかったんだけどな。
「王くん、やはりあなたは私が認めた最高のパートナーです」
その言葉を面と向かって言いたいくらいです。
ゴオオォォッ……
フォーワールドは、王の自爆によって燃え上がっていた。
「海から水を持って来るんだ!」
「ち、畜生!どーしてまたこうなるんだよ!」
移民より、フォーワールドに原住していた人々にとってはまた悪夢をみせられた光景であった。
炎はそこら中に広がり、焼死体はいくつも上がり、懸命に造った物も一瞬で壊されてしまった。ヒュールは救助されるも、怪我によって満足な働きができず、クォルヴァは爆発の直撃を浴び、再生をしようにもすぐに身体が燃やされてしまい、ゆっくりと離脱しながらの再生をしているところ。復帰はまだできていない。
ロイは勇浪にやられるも、かろうじで命を繋ぐ事ができた。
現状、この世界の指揮官はいなくなり、対策が後手後手。
敵の状況など、もう判らず。完全に自分達を守ることしかできなかった。
本当に命を使った時間稼ぎは成功していた。
その作戦を実行する王の、覚悟をムダにしないよう藺は本当に誓えた。
なってみせるから、ならなければいけない事。
後悔と無念が生み出すのは強き野望と信念。
それが足りてなかったものか。どうやって埋められるのか?現実を突きつけるしかないんだろうな。
「やらねば」
いつの時も数というのは脅威となり、世界を決めてきた事だ。
兵器を造れるのも、扱えるのも、人がそこにおり、1人では為し得なかったのは証明されているだろう。
世界のあるべき姿の一つに、強者が生き残るのではなく、数という括りが生き残ってくる。仲間、恋人、家族、部下、上司、奴隷、その他。1人じゃ生きられない。群れができるから人間は、”人間達”として生きている。
数による優位性は証明済み。