ある時代より①
シンシン……シンシン……
白い雪が降り注ぐ。誰にも壊せず、誰をも壊す雪だった。
『あぁ…………ダメだったか』
世界の最果てまで行ったのであろう。必死に捨てていく者を選び、やってきたが。結局は彼もまた、人類を滅ぼす災害から逃れることなどできなかった。
『夜弧』
倒れる七三分けにスーツ姿の男は、自分の意志を彼女に託していた。
『頼む。私を、殺してくれ』
一つ時代ではそーゆう未来が存在した。それが正しい歴史だと答えられても良い。
人類は一度、敗れ去る。"時代の支配者"の手によって、その未来は終焉へと向かった。
"SDQ"。アーライアから始まったこの災害は、かつての人類ですら対応できず、長い管理の時代があってもまた、それは解けることがなかった。これは前の神の残した生命達への裁きである。そう、時間だけではどうこうできるものではない。
シンシン……シンシン……
全員、死んでいった。
管理人は内紛によって一部の存在が生き残りはしたが、まもなく、"黒リリスの一団"などの自由を求めた人類の一部を敵に回し、殺され、あるいは自害に追い込まれていった。また、"黒リリスの一団"も、管理人との死闘の影響によりすぐに死んでいった。どうやら、彼等も人類の一部によって抹殺された。
死闘の数々から生き残ることができた春藍とアレク、ライラ、ロイは最後の試練となる、"SDQ"への挑戦を行なうも、敵わず、命を散らした。
様々な人類は戦いから、研究へと変わっていったが、時はすでに遅かった。というより、もう何もかも終わっていたのだろう。
これがある限り、全員。死ぬしかなかった。それが、この時代の結論だ。
『ふふふ、あははははは』
笑うのはただの一人の貴婦人。唯一、この中で生きられた存在。
『あっけないものね、藺兆紗』
彼女こそが"時代の支配者"、バードレイ。
『戦う?ふふ、少しはできたのかしら?生まれて来なかった私と戦うなんてことを……不可能だったから、この結末ってわけよ』
"時代の支配者"は生まれて来なかったからこそ、春藍達も、藺兆紗の"占有"も、黒リリスの一団も、ブライアント・アークスも、管理人すらも、そして……かつての人類達をも滅ぼすことができた。
"ここに存在しなかった"というこの無敵の状態は、あらゆる能力の中で最も世界に"干渉"しないという能力。
彼女は神をも超えたかったのか?
◇ ◇
パァァンッ
『はぁっ……はぁっ』
拳銃を初めて握り、発砲した時の反動が強烈だったのはよく覚えている。新たな人生の始まり、
『夜弧。いつまで銃声に驚いている』
『藺様。すみません、反動も凄くて……』
そう夜弧としての始まり、当時6歳の頃だ。
伊達・ネセリア・ヒルマンという"RELIS"を背負う事ができた私は今、藺兆紗の元で修行を積む。
この時間軸にはもう、春藍様も、アレクさんも、ライラも、ロイも……死んでいた。
『ほら、続きだ!』
生き残った人類の数は1万人にも満たず、人類が活動できる範囲は1つの異世界分しかない。周りがすでに"SDQ"に飲まれ、"無限牢"は全壊に等しいものであった。
生き延びた人類はそれでも諦めず、生活をしながら、問題に当たった。しかし、ほとんどの者は気付いている。
死ぬんだ。
それは間違いじゃない。私も、藺様も分かっていた事である。
ただし、希望が一つだけあった。
『期待する子がいるだけでテンションが上がるんだな』
『!これは珍しい。三矢さんじゃないですか』
『わわっ』
『夜弧、そんなに怖がるな。まー、俺の面がお前の中にいるネセリアが嫌がっている証拠なんだけどよ』
三矢正明もまだ、現存していた。だが、すでにその顔は病に冒されたような辛そうな顔の方が目立った。
『上手く造れているのですか?』
『ああ、すこぶる順調。怖いくらいにな』
『それは良い事ですね。では、14年後には完成するというわけですか?』
『"SDQ"がこの世界を取り込む年数は早くても20年と計算が出てる。全滅するまでに間に合うさ。たぶん』
しかし、そのたぶんにはどこか自信があったのだろう。
『足りないパーツがあるとはいえ、ポセイドンとクォルヴァ、アレク、ハーネットが生み出した"理論"は受け継がれていた。不完全でも飛べるさ』
『そーですか。そうでなくちゃ、いけませんけどね』
この時代の人類はミスを犯した。
”時代の支配者”が誕生しない時のまま、止めようもない災害が残り、滅亡を必然としたのだ。しかし、人は代々に渡って抜け道を作り続けた。
『私や三矢さんが行くだけでは、春藍さん達に協力することは難しいです。そこで”RELIS”を用いた記憶の通信が必要でした。特に、春藍さん達と知り会っている者がね』
『”別の時代”から上手く伝わった事が判明できた以上、クォルヴァとハーネットは成功したんだろうな。残るは、ポセイドンとアレクが”これ”を強化し、”時代の支配者”に太刀打ちできる戦力である、桂、パイスー、ライラ、春藍の準備が整う事』
その時代の終わりは、新たな時代の始まりでもある。それを成さず、命も文明も、存在までも消し去り続ける”時代の支配者”の悪を、かつての人類より、管理社会より、今滅び行く人類より、全史上から許すことなどあり得なかった。
それでも、この悪がこの時代を飲み込み。滅ぼしたのは、悲しい事実である。