きゃっきゃっきゃっ(いただきます)
王の自爆はクォルヴァの身体(ってゆーか、若のだけど)を完全に焼き、吹っ飛ばした。さらに、その勢いは止まることなく。せっかく造り上げた多くの建物を吹き飛ばし、避難が遅れた人々にも当然、届くものだった。
この世界が戦地となる事が最近多い。しかも、今の攻撃はとても見覚えがあるものであった。
「な、何が起こったのであるか!?」
拳銃を突きつけられているという事を忘れ、その異常過ぎる爆発の光景を見れば、誰だって飛び出した。ヒュールだって、その1人であった。
「王、だな」
その爆発がなんなのか、知る琥珀は。切なく思い、これまでの苦労を全て消した。
人質として使っていたヒュールの背を撃ったのであった。
「ごはっ……で、ある」
「道案内はもういいわい。それどころではないしな」
ヒュールの命を奪わなかったのは、琥珀の気まぐれかそれともこの世界をどこか気に入ったからか。
「お主の声からここにある事は理解した。お互い、やりたい事をしようじゃないか」
動けない程度の傷であったが、それが逆に苦しかった。意識を必死に保ち、誰かが助ける事を願った。そして、琥珀博士は行く。
「電子カードに使われたらしいが、在庫はあるじゃろうな」
琥珀博士の読みは概ね当たっていた。
王が自爆を起こしたことにより、周囲に広がる崩壊と炎は敵の事などすぐに置いていく事になった、
大勢で力を合わせ、怪我人の治療や炎の鎮火に当たる。しかし、命を賭けた爆発はそれを嘲笑うように早々止めるものではなかった。
「死ぬところだった」
「!」
そして、琥珀の真上から降りてくるダーリヤ。
「派手な動きをするんじゃない」
「琥珀博士には言われたくないな」
2人は無事に合流を果たし、この大爆発に乗じて、隠密に残り時間をやり過ごすことになった。
「"アルテマ鉱石"は必ず持ち帰るわい!アンリマンユに"クローム・エクストス"をかなり使ってしまったからのぅ!」
「貴重な代物を手に入れるため、また貴重な代物を使うとは……。もうそっちは"例の雪"のせいで採取できなくなったのだぞ」
「アホ抜かせ!ワシが本気になれば、意地でも2つとも量産する方法を見つけてやるわい」
◇ ◇
「な、なんだよ。今の爆発」
「…………!」
凄まじい爆発はロイと朱里咲にも映った。
しかし、お互い。激しい戦闘を終えたばかりであり、身体などロクに動ける状態ではなかった。
何が起こっているのか、その情報がとにかく欠けていたロイが動揺していたのは当然であり、意識が強くそちらに向いていたのは仕方のないこと。
「ロイ!!」
朱里咲の呼びかけが、なければ反応が遅れて即死していただろう。
「きゃうきゃうきゃう!」
琥珀とダーリヤのおかげで、牢から出られた勇浪がこの死闘を終えた場に姿を現したのだった。ロイを強襲するライダーキックが見事に決まった。
「うおっ!?テメェはっ……」
積み重なっているダメージはロイの方が上であり、襲撃を得意としている勇浪にとっては今のロイなどまるで敵ではなかった。
スピード、パワー、テクニック、どれもMAXですぐに仕掛ける。
「ぎゃっぎゃっぎゃ~!」
正拳突き、跳び膝蹴り、かかとおとし、背負い投げ、ジャイアントスイング。様々な攻撃が一挙に、抵抗する間もまったく与えずに仕掛けた。
「ぐおぉっ!?」
奇襲から生き延びても、真正面から歯が立たず、ロイは完膚なきまでに倒された。
「きゃっきゃっきゃっ(いただきます)」
「貴様。私の、楽しみを奪いおって……」
そう言うも、朱里咲の右脇腹には穴が空いている。とても勇浪を相手にする体力はない。水羽のような耐久力など持ち合わせていない朱里咲にとって、全力で戦えないこの時に、全力で戦わねばいけない相手が現れることはまったく持って
「いかんなぁ!」
強さは!
己が敗北と認めぬ、心から生まれる!
「きゃっ?」
朱里咲の怒りを、戸惑いという表情で受ける勇浪は、巧みな身体捌きで軽やかに攻撃を避けていく。深手はお互い様だが、物を良い始めるのがその時の身体能力。
目に見える身体に空いた穴、右脇腹を蹴り飛ばす勇浪の本能。
「くっ……」
「きゃきゃきゃ!」
防御しようにも、勇浪の動きが変幻自在で素早く、防ぐのには慣れが必要であった。傷口を叩かれ、激痛に従うまま膝をつく朱里咲。こんな終わりが近づくことに、敗北した以上の屈辱に怒りが込み上げ。それが、多くの人間が感じる無意味過ぎる怒りだと気付かされる。
ああ、私も人間だったか。
ムカつく。
朱里咲の不満な顔を、その不満そのものまで含めてと言っていいものまで、勇浪が正確に蹴り飛ばした。
苛立ちも沸かない、無明な世界へ。
自分が終わる入り口を通過してしまった。通過されてしまった。
「っ…………」
意識が飛んだ朱里咲も、ロイと同じく崩れ落ちる。
この場で立っていたのは勇浪だけであった。その彼が興味を抱いたという事ではなく、指示されたようなことをする。
「きゃーーーー(この女を、ダーリヤさんに差し出せば喜んでくれるのかな?)」
そう、朱里咲の生け捕りであった。
後にこれが、再び歴史上に生み出される事となる、最悪最強の戦士が復活するキッカケだとは誰も知らなかったのである。