表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RELIS  作者: 孤独
男性編
504/634

とても素晴らしい日になるよ③


覚悟があって、それを埋め込んでおられるのですか?


『であるならば、素晴らしいです』


王は振り返る。藺兆紗との出会いを……

なぜ、こんな奴をスカウトすると我ながら思うが、認めてくれる人がいると嬉しくはあった。

選択のミスはいくつかあったろうが、それを取り消すというか、それを含めてでも人生と言い切れる死なら、満足だろ。


『俺は弱いからな』

『いえいえ、謙遜なさらず』


能力や限界の底がパッと見て、感じるくらいだ。ああ、こいつクズなんだ。

みたいな直感、印象。そんなので俺は量ることもできる。そーいう感じで良かったんだけどな、一生懸命やってもしゃあねぇの、決行前から知ってるのにな。


『命を真に賭ける男がいるのは嬉しい。私と共に来てくれるのなら、なおさらですよ。王くん』


彼の生き方の全てには、生死が賭けられてる。だから、誰よりも抗い、誰よりも生きるのでしょうね。誰も彼を殺せない。

強さじゃないんですが、これも強さと言うのでしょうか?



◇    ◇



「ぶはぁっ、あっ」

「しっかりしろ!」


王は薄れ行く意識の中でハッキリと、クォルヴァを蹴り飛ばしたダーリヤの姿を見た。どれだけ強い奴かもう分からなかったが、


「た、頼みが……ある」



声が出るとき、今は悲鳴を上げるのが正しいのに。王は先の事を考えていた。まだ、任務は終わっていない。ここで離脱することは計算の範囲内。

この男に託すことが正解かは分からなかったが、彼から感じるのは眩い光であった。


「藺は……藺兆紗は、世界を支配する男だ」


強い力はどこに向けられるだろうか?

その向きを決めるのは誰か。藺兆紗しかいないと、王はこの死に際まで思い、訴えた。


「あいつの事を頼む」

「!」


この男の心の強さを見たダーリヤは、王に二度と敵わないと一瞬で悟るほどだった。死や痛みを怖がることすら見せず、会ったばかりの人間に自分の後を頼み込む。切り替えすらなく、行動を絞り込めるから迷いもない。



「行け、……もう……助からねぇから」


両目から落ちる涙は、自分がいなくなることより。本当に藺に対する忠義を全面に出したもの。まだ、死ぬタイミングに到らないから。

言葉でダーリヤを追っ払った王。最後の最後で、藺に授けられる人材と出会えて、少しはこの死がムダにならない事に安堵した。



「藺………わりぃ」


もう少しだけ、お前の力になりたかったが。

やっぱり俺には無理だったようだ。お前が望む支配に、俺は支配すらさせてもらえなかった。力不足に尽きるな。



「…………」



この作戦は王達の逃走しかなかった。いくら、春藍達がいないとはいえ、戦力差と絶対的な数の差。ダーリヤと勇浪を解放しても、彼等が深手を負っているのは事実。この世界を滅ぼして生き残る事はできないだろうし、逃げ切ることも無理であろう。

ただし、



「やってくれたね」



明日になれば、藺がここにやってくるのだ。これから仮に24時間先の事であろうと、確実に逃げ切れる手段を王は持ち合わせていた。でなければ、やっていない。

自分に対する絶対の自信ではなかったが、自分の中にある、とある代物に自信を持っていた。


クォルヴァは再生を終え、ゆっくりとであったが、死に掛ける王の前に立ちはだかった。何度も死に掛けるこの男の前に、


「………」

「笑っている?」


死を受け入れる表情にしては、してやったりという。悪戯な寝顔が王の、……"王としての表情"であった。

クォルヴァはそれに疑問を抱き、彼のこれまでを振り返ると



フワアァッ


「ま」



そーいった捨て身は当然にやれる持ち主だと、理解できてしまった。そして、的中してしまった瞬間。王の身体から発せられる白と橙の光が、クォルヴァに突き刺さった。



ドオオオオォォォォーーーーンンッ



◇    ◇



「爆弾を」


管理人、ポセイドンは人間の愚かさを挙げるとしたら


「身体に巻きつけてどうする?それは壊したい物の近くに置き、離れて起爆するものだぞ」


人間は馬鹿だという事だ。


「自爆など、誰も助かる事じゃない」


死ねば助かる、天国に行けるなど。のたまう者は皆、誰一人天国に行っていない。信教という"科学"から反する、精神論や文化論には嫌気がする。それらは人間が苦労から逃げるために生まれた、口述や言い訳だというのに……。


「テロリストとはそーいう連中なんです」

「テロリストを人身売買として扱う貴様は中々、趣向が悪い。頭も悪いか?」

「馬鹿や無知も売れる人間になる証明さ」


管理人、ガイゲルガー・フェルはテロリストを"武器"という形で多くの異世界にばら撒いた。命を賭けて戦う者とは、彼等の事だ。


「彼等に泣くなり、笑うなりは他に任せるがな」

「ふんっ」


悪趣味も良い事だ。それを発言すれば、


「実験体を買いに来たのだろ、ポセイドン。あーゆう連中は使えるぞ」


お互い様だと、酒の肴になってしまうだろう。

人間という愚かしい生物の管理はどんなものより、大変なもの。人間を作ったかもしれない神様が、逃げ出しているのも納得と言ったところか。

ポセイドンは実験体だけ買ったことにした。闇の部分は強い闇で覆えば良いとでも、思うような奴とも言える。その命が、たとえ命掛けで扱おうとも、管理人には届かぬもの。

いかにテロリストとしての価値が高まる技術が生まれようとも、命を捨てるという行為は、ポセイドンからしたら負けよりも愚かと評するだろう。こいつは誰にも生きる事に抗ったのだから。



これは管理人の不始末だったかもしれない。誰もが知っていただろうに。

誰だって、誰かを奪うことができるということを。


人はまた、時代を重ね、追い求めてしまった。



◇    ◇




王の体内には超小型で、都市を一気に壊滅できるだけの破壊力を誇る、最悪の爆弾が備えられていた。"科学"の発展により、お互いに目では見えない爆弾として流行った。ポセイドンが、テロリスト達にその技術を提供し、生み出された体内に仕組まれた爆弾は、人から"兵器"としての価値を生み出した。

よってだが、極悪な管理人共の見かた次第であるが、


『クズになってしまう人間など、誰一人としてありえない』


それほど優れた爆弾技術によって、弱さや強さの概念を断ち切り。人が兵器へと変わったのには反論すらできない事であろう。

兵器は人を殺す物だから、なおさらだった。



死を条件に駆動する設定にした爆弾。"一輪の向日葵サン・ザ・サン"。

噴火の如き、大爆発。灼熱を生み出し、伝える風圧。

炸裂した王の身体は跡形も無く、飛散し、熱によってその細胞は一つ一つ、焼き消されていった。突き刺す光を浴びた者は全ての行動を止め、炎は舞い上がり、綺麗な向日葵を咲かせていく。

かつて、ポセイドンが使用した兵器のその一つであった。王のは数こそ一発だが、威力は高く作られており、命を賭けて戦う時だけに使うと決めた、彼の切り札だった。


死んでからとなるが、それだけの価値が戦いにあるのなら、そう動くようにと。



いなくなり、気付くことはなかったが、いなくなって、上手く行ったと自分は気付けた。思い残しは何もないと伝えるような爆弾は、彼を塵一つ残さなかった。



王震源。

その覚悟はどの誰よりも高くて強く、任務に命を賭け続けるに相応しい男の人生。

自らの爆弾によって、戦況を大きく揺るがし、最後の管理人であるクォルヴァを退ける。

強さとは別の何かを教えた男は、藺のため、藺のいないところで、華やかに散って逝く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ