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RELIS  作者: 孤独
”和の国”吉原編
50/634

僕は君と一緒にこの景色を見ている



ギイィッ


「こ、こうですか?どうです?」

「悪くないんじゃないか?」


無くなった両足に義足がつけられ、車椅子に座って簡単に操作してみる春藍。付けるのは大変だったが、慣れてくると足として動きそうだった。車椅子も中々に乗り心地がよく、右側にあるレバーで動く操作性を持つ車椅子は扱いやすかった。



「段差には気をつけろよ」

「はい」



段差には注意して、春藍はゆっくりと車椅子を動かす。家の中には坂がない。ガタンッと小さな段差を降りたり、昇ったりした。時にアレクが先回りして坂になる小道具を置いてもらってようやく春藍は病院から外へと降りる事ができた。


「うわー……」


いつもならば立ってみる景色だろうが、今回は座ってみている景色。ただでさえ高い山がさらに高く見えて、雲も遠くにあるように思えた空だ。

アレクと一緒に街中に入ると、春藍のその面白いカラクリに住民達は目を丸くしてみていた。ライラがそうであるように、この世界には"科学"があまり進歩していないようだ。そして、春藍が少し驚いているのはライラのような動きやすくて、露出がちょっと多い恰好をしている人物がまるでおらず、着物と呼ばれる厚い衣服を皆纏っていた。逆にライラが不自然な存在だと思える光景だった。

街並みも、街ではなく、町という小規模なたとえがしっくり来る。自分達のいたフォーワールドや、ゴールゥンとは違う建造物ばかり。沢山の一軒家と並んでいるだけでなく、草木の緑や釣り客もいる川が流れている。川を越えるアーチ橋ですら木材を軸にしているところは、耐久性などに欠ける。だが、綺麗な形と橋の色から橋としての機能より、もっと違うところを意識して造られている。



「ちょっと、そーゆう役目はあたしでしょ!」

「!」


少し頬を膨らませ、ズカズカと春藍とアレクの後ろからやってきたライラ。と、少し微笑んでいるネセリアがいた。アレクをどけるようにライラが右側、ネセリアが左側の車椅子の握りを奪った。先ほどは何を言えば良かったか、覚悟ができなかった。



「ごめんなさい、春藍」

「?」

「あなたの両足が無くなっちゃったのは、その。やっぱり、あたしが責任を持って見守ってあげれば良かった。ネセリアもアレクも、春藍もね。あたしの守りたい仲間よ」



1人で行動させなければ良かった、とは言えなかった。

春藍を責めているんじゃない。自分だ。自分がもっと速く、もっと強ければ守れたはず。



「大丈夫だよ、ライラ。確かに僕は両足を無くしたけれど。今、ライラがいて、ネセリアがいて、アレクさんがいる。僕は今、みんなに出会えてホントに良かったって言えるよ」

「!」

「全然。ライラが謝る事なんてないよ。誰にも、僕の怪我に対して謝る必要なんてないんだ」



とても強い事を言えるようになったんだ。とても悲しむべき事だと思うのに。前を向けているのはそれほど、楽天家なのか。なんとかなると思えるのか。すでにアレクが足が無くなった春藍のために車椅子と義足を用意している辺り、平気だと頭が思えるのか。


「な、何をその」

「何?」

「春藍が少しでも、あたしを責めてると思ってたらさ。なんでもないけど。その、桂にも言われたし、あたしの世界で少しゆっくりしない?ネセリアやアレクには先に紹介しちゃったけど、春藍にはまだだし。ここまで、その。春藍には助けられた事も多いから。こんなのが礼になるとは思えないけど」

「い、いいの!!?自由にライラの世界にいて!!」

「ええ、桂から許可はとっているから。っていうか、あたし達はずっとここにいなさいって言われたからここにいるしかないんだけど……」



ライラが諦めるほどの管理人、桂。春藍は思い出す。インティと一緒に出会った、とても綺麗で刀を使っていた人物だ。

その思い出しをしている間にライラはネセリア達と行き場所を話していた。



「で?どこに行くんです?」

「車椅子が入れるとこにしろよ」

「わかってるわよ!と、とりあえず。ネセリアは一度体験済みだけど、"魔術教室"にしようと思うの!春藍やアレクは魔術を使えないんだから、楽しめると思うのよね」

「"魔術教室"?」

「そ。魔術を使って遊べるところ。お遊戯施設よ」



ライラとネセリアで春藍を押しながら、魔術教室へと向かう。”魔術”、”科学”、”超人”。三つのスタイルには当然適正がある。春藍、アレク、ネセリアはフォーワールドで育った事も含めれば、科学の適正がずば抜けている。そして、ライラも魔術の訓練を積んでいるため、魔術の適正がずば抜けている。これにより、四人共もうすでに別のスタイルに傾く事はまずありえない。だが、使えないということはまずないのである。

とても簡単な事であればどんなスタイルの動きでもできるものだ。



「言っておくけど、遊びだからね!少しできるからってもっと魔術を学びたい!って言っても、基本は無理だから!(調子に乗らない事)」

「ま、まぁ。やってみないと分からないなー。でも、ライラの"ピサロ"みたいなカッコイイ事ができれば嬉しいな」

「私、一回頑張ってみましたけど。凄く形にするのは難しかったです」

「俺はパスだ。科学以外は興味ねぇーんだ。見学させてもらうだけだ」

「そういえばアレク。あんた、タバコ欲しいって言ってたでしょ?タバコがいっぱい売っているところを教えようか?」

「それを先に言え、タバコをどんだけ節約していたと思っている!!春藍、俺はそっちに行っているから、ライラとネセリアで仲良くするんだな」

「は、はい」



アレクはタバコ屋に行ってしまった。

また、別行動になってしまったと春藍は少しだけしょんぼりした顔になる。そういえば、アレクはゴールゥンで何をしていたのか少し気になった。

車椅子に乗って押してもらわれると、自由に見たい方向が見えない事にちょっと不便を感じた春藍。けれども、これから案内される魔術教室というのも気になる。どんどん進むほどその期待感が高まっていた。



「あー!見えたよ、見えたよ!ここだよー!」



ネセリアが指差し、大きな胸を縦に揺らすほど飛び跳ねた。その先には先ほどから見てきた家がやや大きく、特に出入り口に掛かる暖簾には"魔術教室やってます"と白色の達筆で描かれていた。

特別な建物とは感じないが子供達の声が聞こえてくる。

ライラが言うように娯楽施設という色が強さが分かる。中に入ればライラがすぐに3人分の入場料を払い、ネセリアが会計の女性に手を振っていて、春藍も釣られて手を振った。そして、案内係の男性に連れられ案内されたのは"体験実習教室"と書かれた場所。

中はいろいろな薬剤のような物が置かれた棚が部屋の四方に置かれ、宙ぶらりんになっている黒板があった。ライラが椅子を二つかき集めて、黒板の近くに設置してライラとネセリアが椅子に座った。チョークを握るライラがどうやら講師を務めてくれる。



「じゃーあ、特別にあたしが魔術講座を開きまーす。生徒の春藍くんは、ちゃんと先生と呼んでね」

「は、はい!」

「じゃ。教えるよりもまずは適正検査をしましょうね」

「て、適性検査……って、僕はたぶん才能がないよ」

「魔術適正がないのは知っているわよ、これから春藍くんの調べたい事はどんな魔術に適正があるかって事。好きな色を探すような事」



ライラは薬が置かれている棚から一つを選んで春藍に手渡した。紙のように薄っぺらい白いこれは薬とは思えない形だ。


「舌を出して。この紙状の薬を当てるだけだから」

「ん、………これでいい」

「おっし」


ライラが春藍の舌に薬(正式名は"魔法確認用紙")を当てる。すると紙は白から徐々に灰色に変わっていった。完璧に変わる前にライラが薬をとって、


「ふーん。まー、そんな感じがしたけど」

「い、色が変わっちゃったけど。大丈夫なの?健康診断みたいな感じでしょ?」

「そんな大袈裟じゃないわよ。灰色なら"地"の薬が良い事が分かるだけよ」



ライラは再び棚の方に行って、"地"と書かれた薬の瓶と"闇"と書かれた瓶を取り出し、コップまで持ちながら



「別に才能がないわけじゃないから。極めて悪いわけでもないし。これから春藍くんに試すのは赤ちゃんが頑張って歩くような、寝ている本能をちょーっと起こす程度の事。んー……これが面白いかな?」

「僕にもちゃんと"魔術"が使えるんだね」

「薬で補助するけどね。よっし、これでいいね」



ライラが重そうにして瓶を持ってきて、床に置いた。割れるととても大変なのとライラは言って、ネセリアは"闇"と書かれた瓶を自分の方へ引き寄せた。とても禍々しそうな言葉の瓶がネセリアに似合っているとはとても思えなかった春藍。



「ちなみに春藍くん」

「なに?」



ペロッとライラも春藍が舐めた薬を舐めて、灰色の薬が一気に淡い蒼色になった。



「あたしの適正は"水"なんだけど。あたしみたいに完璧に魔術を使える人間は自在に薬で起きる現象を変えられるの」


もう一回舐めて今度は黄色に変化させる。これはあくまで遊び程度でしかないと、アピールしているライラ。それをネセリアに渡して


「じゃー私も確認しますね」


舐めて。黄色になっている物からどんどん紫色に変化する。

この薬の補足説明であるが、あくまで参考になる程度でしかない。だが、誰にでも可能性が見える。



"魔法確認用紙"による色の判定。

白色 → 氷。魔力によって温度を変化させる事が向いている

灰色 → 地。魔力を造形物にする事が向いている

黒色 → 暗。魔力によって感覚を変化させる事が向いている

赤色 → 炎。魔力によって熱、焼く事などが向いている

青色 → 水。魔力を液体や気体に変える事が向いている

緑色 → 生。魔力を生き物や植物にする事が向いている

黄色 → 雷。魔力を雷にする事が向いている

シアン色 → 風。魔力を風にする事が向いている

紫色 → 闇。魔力によって暗示などを行う事が向いている

桃色 → 精。魔力によって感情や精神を操作する事に向いている

茶色 → 変。魔力によって外見を変化させる事に向いている

藍色 → 条。魔力がある一定の条件でしか使用できない事に向いている

マリーゴールド → 賭。極端な事に魔力が働く事に向いている

虹色 → 空。魔力によって別空間を作り出す事に向いている

言葉では表現できない色 → 謎。魔力が何かを起こす事に向いている

薬が消滅する場合 → どれにも働かない魔力を持っている

薬が固くなる場合 → "魔術"を使用する事ができない



「よーし。今日の私、ネセリアは春藍が実は女の子だったという暗示をかけてみせる」

「な、何か恐ろしい事を言うね。ネセリア」

「だって前回はなかなかできなかったんだよ!今度はリベンジ!」



ネセリアはそう言って、闇の瓶の蓋を開けてコップに注いでから飲んだ。


「この液体はその適正にあった魔力なのよ。今、ネセリアが飲んだ魔力はそのまま力になる。ただ飲みすぎちゃうと、頭がおかしくなるから少なくしなきゃダメよ」

「うん」


春藍もネセリアと同じぐらいの量をコップに注いで、"地"と書かれた瓶の中身を飲んでみる春藍。

身体が少しずつ熱くなる。お酒に近い味。まだ未成年で実は飲んだ事がないけど、アレクさんから聞いた味と同じだ。



「な、なんか。力が溢れてくる感じだね」

「なんかこー。あれだよね!頭の中で浮かぶ映像が、手で再現できる興奮と同じだよね!」



少し興奮しているネセリアに、力を感じてもやや平静でいる春藍。両者共に魔力が体に馴染んだところでライラがお手本を見せる。



「じゃあ、2人共。得た魔力をまず、自在に体から放出してみようかしら。両手を広げて」


ライラのポーズを春藍とネセリアは真似て、身体の溜まった魔力を出すイメージでって言われてもピンっとこないけどさ。

生き物が身体にいる感覚だと春藍は認識し、ただ出てくれと願うだけではなく、どこらへんに魔力が集中しているか探りながらやると



ポウゥゥッ



「あ、……手から小さな煙みたいなのが」

「お遊戯用だから魔力が見えやすいのよ。普通は透明だから」

「あー!ずるい、春藍!!私より速いなんて!」


先にやられて頬を膨らませるネセリア。彼女の中で何かしらの対抗心が見える。


「じゃあこの魔力に自分の想像を送り込む。さっきやった薬の結果から、それらしい事をイメージすると魔力が反応しやすいわ。例えば春藍だったら、そうね……ミニチュアの棚とかどう?形が簡単じゃん」

「た、棚を簡単だななんて!あれにだって美学があるんだよ!」

「いや、そんなこと良いから。ほら、魔力がそうなるように想像するのよ」


春藍はライラの言うとおり、棚をイメージしてみた。どんな棚が良いか。大きさは縦15cm横25cm、奥行き20cm。持ち運べないけどコンパクトなサイズに。重さは400g以内。収納する用途は折り紙やシール、鉛筆、お財布、判子といった小道具を容れる物にしよう。色はピンク色にして、小さくても大きく見せつけてくれる。引き出しの数は4つ。紙やシールといった物は薄いから、そこの引き出しは大きくせず、鉛筆などを入れる引き出しは大きくしよう。

色だけじゃなく、模様も



ズシイィッ


「?」



想像をしているだけで、両手から出ていた魔力が徐々に変化していく。想像した形、重さ、色つき、徐々にそれが現れていくが、微妙にイメージとは違ってくる。


「でも、棚だ……」

「そうね。棚ね」



ボロボロッ



「あ、崩れた!崩れちゃったよ」

「集中力と想像力が薄れたから起きるのよ。魔力で造られる物質は出し入れが自由だけど、そこまで耐久性はないわ。けど、これも春藍の言う物作りと似ているんじゃないかしら?」

「でも、壊れちゃ失格なんだよね。けど、これが"魔術"なりの創造なんだということが理解できたよ。もっと複雑な物に」

「……………」



春藍が魔力を棚の形にし、壊れたすぐ後にネセリアは春藍の肩に手をかけて目を瞑り、右手を開いて春藍に何か暗示をかけようとしていた。その姿に春藍は戸惑いながらネセリアを見て、ライラは少し複雑そうな顔をしていた。


「春藍は女の子になる、春藍は女の子になる、春藍は女の子になる、春藍は女の子になる、春藍は女の子になる、春藍は女の子になる」

「そ、そうやって連呼してもならないよ。というか、怖いよ。ネセリア」


苦笑いを見せる春藍。必死でネセリアは春藍に魔法をかけようとしているが


「春藍は女の子、春藍は女の子、春藍は女の子、春藍は女の子。春藍は女の子ーーー」

「うわわわ」


ネセリアは春藍に掛ける魔術を自分にかけてしまい、春藍に飛びついてしまった。本気で春藍が男ではなく女のようにネセリアには見えて感じるのだろう。


「ま、まぁ、こーゆう失敗もあるものよ」

「そ、そうなんだ。っていうか、ネセリア離してよ」

「春藍の顔をぷにぷに~」


魔術を身を持って体験した春藍。60分は持つと言っていたが、二人共使用の仕方がとても荒いことから一気に薬で補っていた魔力が潰えてしまった。それを合図に簡単な魔術教室は一旦終わり。


「魔力は体力と同じようなものだから、繰り返しを行なわないとできるようにはならないわ。まぁ、春藍やネセリアはスタイルが"科学"だから使う必要はどこにもないだろうけど」

「でも良い経験ができたよ。魔術ってこんな感じなんだというのが分かった、僕ももう少し魔術について知りたいと思うなー」

「"ダブルスタンダード"を目指すつもりなの?それは辞めなさいよー、"管理人"ですらそーゆう奴がいないんだから。一つを極める方が楽よ」



"ダブルスタンダード"

3つのスタイル、"科学"、"魔術"、"超人"の素質をたった一人で2つのスタイルを同時に使う事ができる存在。通常、人間や魔物、管理人など問わず一つのスタイルに特化している。

異世界の環境もあるが、複数の素質を器用貧乏に鍛錬してもやはり生まれ持っての才能という壁が大きく、大抵はパワーが弱い。エセの"ダブルスタンダード"である者になる。

正真正銘の"ダブルスタンダード"という逸材はおそらく、色んな世界を見てもいないだろう。



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