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RELIS  作者: 孤独
一流編
496/634

とても素晴らしい日になるよ①


痛快。圧倒的な実力差がありながら、任務をこなすことができるのは。

してやったりだった。

強さという標準的な比較を、工夫と覚悟、時の運、それらで崩せる。持ち寄る食材で調理をするものだ。



「ははははっ!ははは!」



時間を稼ぎ。これからクォルヴァとロイが巻き返すことは……



「俺の役目は次だ」


あり得るのである。王達からしたらようやく、五分にしたところか。あるいはまだ戦況の不利があるのか。



「笑っていられるのかい?」


足止め、攪乱用のアンリマンユは全て壊された。追いかけるクォルヴァに、王の現在位置を教え続ける住民達。人込みに紛れても、敵と認識されてしまえばあっという間。


逃走時間、11分43秒。ついに王は、クォルヴァの間合いに入ってしまった。



「もう逃がさない」



先回りだった。目撃情報からの逃走経路を読みが上手く決まった。住民達の避難も進んで行く。

ここまで引っ掻き回された事は腹が立ったクォルヴァ。


「朱里咲はどーした?」

「しらねぇよ。ま、あんたの考え通りじゃねぇか?」

「あの子は少々、自分の心をよく制御できなかった。可能性がなかったわけではないのも知ってる。しかし、君に動かされたのは意外だよ」



話す余裕も、逃げる隙すら、与えてくれる事はないだろう。

戦う事も手段の一つ。王も、戦闘体勢をとった。負ける戦いだと分かりながら、徹底的な時間稼ぎを費やす。

踏み込まず、受けて立つ。


「ふっ、覚悟だけは良いようだね」


クォルヴァはゆっくりと近づく。一度、首を吹っ飛ばされた事で"超人"という事は理解できている。それならば相性が良い。王が自分の体に触れたら、融合してダメージを返す。

自分のパターンに持ち込めば勝てる。クォルヴァのイメージは間違っていない。

回復力に物を言わせてしまえば、どう考えても負けはない。



ゆっくりと、優しい手付きで王の身体を取り込もうと伸ばす右手を、王は避ける。


「どうしたの?」


反撃や抵抗を堪え、回避を試みた。それでも逃げない。

嫌な予感を悟り、警戒を強くしている。後ずさり、左右に動きながら、徹底的に避ける。


「いやいや、罠だろう。こえーよ」


動きは鈍いな。どのような能力が考えられる?

俺は倒されることが前提。



王は戦う決心を持つが、特攻するという判断はとらなかった。時間稼ぎが彼の仕事であり、回復力に絶対の自信を持つクォルヴァを殺せる手段を持っていないから。

クォルヴァの攻撃手段をイメージしていく。直感も込みで、様子見を計った。



そういえば、こいつはアンリマンユの動きを止めたが、攻撃できなかったな。

回復やサポートに適した能力だから、1対1に自信のない能力?いや、もしかすると……。


想像力を膨らませる。敵の強さに怯えることなく、観察から導いた行動。



ズポォッ



『おし!敵と融合したぞ!これでクォルヴァの必勝パターンだ!』


王はクォルヴァの右手に触れた。それも無抵抗に触れた。冷静に敵の攻撃を受けた判断。


「!……」

「……へへ、どーした?」


王は挑発する。左腕が繫がった状態になっても、落ち着いていた。この気色悪い感じを振り払って


「攻撃しねぇのか?間合いだぞ」

「それは君じゃないか?」


いかに強力な能力を備えていても、弱点はあるはずだ。敵と融合し、ダメージを跳ね返せるクォルヴァのカウンターは早々崩せる物ではないが、


「カウンター系の能力しか、敵にダメージを与えられねぇな?」


桂やポセイドン、蒲生、龍、朴などの管理人とは違い、重点は回復とサポートだ。直接的な攻撃手段はあまり持ち合わせていなかった。とはいえ、十分強いが……



「なら、攻撃しねぇ。一緒に繫がっててもいいぜ」



攻撃の仕組みを理解されたら、対応できないこと。


「へー、やるじゃないか」

「お互い様だ」


ノーヒントで、ただの行動を見ただけで察知する王の柔軟な思考力を讃えるクォルヴァ。確かに、タダものではないが……。こっからどう凌ぐ?

クォルヴァは懐から刃物を取り出した。脅しをかけるかのように尋ねる。


「君以外に、あと何人いる?」

「さぁな?朱里咲はこっちだとしてもな」

「ふーん。君は我慢強い方かい?」

「あ?」


クォルヴァの握る刃物は、クォルヴァ自身に向けられて左腕を刺した。ダメージは跳ね返る。



「!ぐぉっ……!?んだぁ!?」



王の左腕に走る痛み。刃物を刺された箇所から出る。


「いい気になるな。尋問するのは」


地道なことになるが、王から調べる事はいくつもある。朱里咲の裏切りを悟ったが、王以外にも誰がやってきたのか、能力はどんなものか、目的はなんなのか。

痛みから逃げられない事を悟れば、判断力から直感力へと切り替わる。



「おおぉっ!」



刃物を抜いたクォルヴァの左手に注視し、一気に王は右手をそこへ突っ込んだ。貫通しながら融合された。お互い、両手が封じられた状況。地面に落ちる刃物。


「それならこれで!お前が俺を殺せる手段はねぇだろ!?」


この王という男の恐ろしさを見たクォルヴァ。

珍しいタイプの人間。能力や強さに現れぬ、覚悟だけで人を畏怖させる器。確かに自分も両腕を塞がれ、殺すのが難しい。

その目は相手を必死に観察していた。



「思いのほか、ってところだ」



血眼だ。



「はぁっ、はぁっ」



クォルヴァの行動を先読みしろ。いい気になるな。俺は死ぬさ。死ぬが、こんなところで死んでたまるか!チャンスはある!必ず、ある。


『どーするんだ!?クォルヴァ!』

「!若くん!そうか、君もいたか」

『いたよ!』


一心同体となっている若の声に気付き、ナイフで刺すことよりえげつない拷問を閃いたクォルヴァ。心が強き者、どこまでやれる?



ドギュンンッ



「あ?」



空間移動によって飛ばされた先。感じる心地よい風、重力というパワー。

2人揃って、1000mほどの高さから落下中だ。


「!」

「受け身をとれないまま、固い地面に落ちる衝撃はどれほどのものかな」


この捨て身の手段に対処法を思案するも、ほとんどがNOを選択していた。自分の体を地上に向けるも、受け身をとったところでノーダメージでは済まない。ダメージの軽減もそう見込めない。


「っ!」


ただ、1回や2回……いや!5回はやられても生き延びてやる!

自分の体を信じて!俺のやることは、時間稼ぎだ!


王の考える事は自分が助かることにあらず。自分を傷つけることで、クォルヴァの必勝パターンを崩すことだった。



ドガアアァァッ



地上へ落ち。背骨が吹き飛んだかのような痛み、筋肉と骨が皮膚を突き破る痛覚の刺激は、刺された痛みとは比べれば明らかな差があった。

視界が赤と黒ばかりに染まる。


内臓の崩れる感覚も伝わる。死が近づいている。



「おっ……あ」



意識を失ったら、二度と戻ってこれない。ほら、まただ。

自分の体の再生が終わったクォルヴァはこの落下攻撃が王に対して、とても有効だと悟ったからだ。次の一手が出るか、あるいは王が死ぬか。


時間の問題、回数の問題。



それでも良いと諦めるクォルヴァと



「ま、………だ、だ」


ボロ雑巾のように成り果てた王の、表情と肉体が激痛を受けながらも、諦めずに任務を全うする志か。


勝敗は喫しても、成否はまだ決まらない。

捨て試合の中の奮闘だった。


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