王 VS クォルヴァ
決行の時は来た。王の覚悟はとうにできていて、1ミリも恐怖に動かない。
「……………」
土下座して、何か変わるものかね?人間としての否定か。
いいよ。俺の頭、プライドくらいで。藺が、先に行くのならそれで良い。
「始めるぜ」
ドシーーーーンッ
「襲撃です!」
「きょ、巨大な謎のロボットが街中に出現しました!!」
琥珀博士が放ったアンリマンユが街中に出現。彼にとっては小型だとはいえ、建物を軽く超えるロボット。情報伝達は迅速であった。
「戦える者はすぐに向かえ!」
「気をつけろ!意外と動きが俊敏だぞ!」
戦える者達は団結し、立ち向かった。いくら巨大とはいえ、数は4体。こちらは1000人以上もいる。
「しかし、どうやってあのロボットはここまで来たんだ!?」
「目撃者によれば、突然、巨大化したと言っていたぞ」
情報を受け取れば、違和感も抱く。
「侵略者がいるということだ」
「でしょうね。もしかすると、移民の中に紛れて……」
ダーリヤ達が先に侵略を開始したことで、その疑問はすぐに解消される。住民や防衛対策を任された人材達も、対応が以前と比べれて早くなっている。マニュアルなども作られたからだ。
「んあっ、騒ぎか?」
情報は牢屋の看守を務めるロイにも届く。だが、動かない。
「朱里咲と、クォルヴァが役目だろう。俺はここを離れるわけにいかねぇよ。敵の概要だけは聞いておくがな」
囚人達を出さないため、ここを守っている役柄だ。敵が現れただけでは、動くわけにはいかない。ロイの頭では、朱里咲かクォルヴァが対処に向かっていると考えていた。
事実、一つは当たっている。
「そうか。ともかく、迅速にあの巨大ロボットを止めないと被害は増える一方なんだよね」
報告を受けたクォルヴァは、若の"ディスカバリーM"で瞬時に現場へ急行した。
『うおっ!なんだ、このロボット!でけぇっ!』
「蒲生ほどではないけどね。でも、4体か」
即席のアンリマンユの攻撃手段は踏み潰し、押し潰しなど、単純な格闘戦のみがプログラミングされている。銃火器などは誤魔化しや威嚇程度でしか備えられていないが、この巨大なボディによる格闘戦だけで建物は容易く壊されてしまう。
『固定』
クォルヴァはアンリマンユを2体、自身の能力で動きを封じた。
巨体を1ミリたりとも動かさないが、状態が保持されるため、いかなる攻撃も通じない。クロネアの"クロツグ"との違いに、クォルヴァは動きを止めるだけであり、時間は干渉されている。
『と、止まった!2体の動きが止まったぞ!』
「私、破壊は得意じゃないんですよね。あとで"一刀必滅"を持ってきましょう」
自分の力だけではアンリマンユを破壊するには難しい。一見、無敵に近そうなクォルヴァが苦手とするタイプがアンリマンユだったりもした。
とはいえ、クォルヴァのサポートは数多くいる戦士達に与えた影響は大きい。
「おおっ!クォルヴァ管理人が、二体の動きを封じた!」
「よーし!俺達で残る2体を壊すぞ!」
数で押し通せる。この持ち場がいずれ鎮圧されるのは明白だ。
クォルヴァは自分がアンリマンユを破壊できない間、この事情の解明に努める。
「ふむ」
この巨大ロボット。報告によれば、突然現れたとされた。つまり、こいつ等だけじゃない。そして、侵略者がやってきた警報は鳴っていなかった。
移民の中にいた人か?それとも、
若のような、異世界を移動するという能力ならば、警報も出ないことは実証されていた。
「藺兆紗という男か?」
そこまでの読み。未知の相手かもしれなかったが、現状の中で考えれば。藺の名前が一番に挙がった。そこから解けない紐を解くように、侵略者の様子をイメージしていけばおのずと数は絞られる。
ま、大軍でないのは事実。
狙いはなんだ?アレクくん達がいない隙をついて?
絶対の強さを誇っても、クォルヴァに真相を掴める能力も思考力もない。第一、この場に藺がおらず、軽視されている王が指揮を預かっているのだから、予測は外れるだろう。
ロイには、囚人の看守を務めているはずだ。
「朱里咲ちゃんとは連絡がとれたかい?」
「いえ!通達はされているはずですが……」
「そっか。うーん、どーいう事だ?」
戦闘狂である彼女なら、一目散にこの現場へ向かうと思う。それがないということは、もしかしてやられた?
仲間という形である以上、裏切るという顛末を推測するのはあまりに信頼の欠片が感じられない証拠。アレクとクォルヴァの警戒心の差が出た、憶測であった。
しかし、仕方のない事。誰も、裏切るなんてことを断定する仲間などいない。
クォルヴァの次の行動は、その他の被害報告を調べる事。負傷者の手当てである。傷を癒せる力があるからこその役割。
「重傷者は何名かいます。あの巨大ロボットに潰されたことが原因のようで……」
「そうか」
奇襲に巻き込まれた負傷者の数は18人。死亡者は12人。
「ぐっ……」
「左腕がモロに潰されている。酷い」
「医療班も至急呼んでくれ!」
軽傷、重傷とある。救っていく順序から言えば、重傷からだ。外見もボロボロとなり、なんとか意識を保っている男にクォルヴァがついたのは当然だった。
「酷いな。よく、まだ生きているよ」
クォルヴァが彼に対する疑念は特別になかった。患者として扱う以外は抱かない。当然のこと。まだ見ぬ敵のことなど、治療が終わってから。
破壊された左腕の再生を行なった時だ。その信頼を買って、利用する。一つ間違えれば即死が決まる選択を迷わずとった。
「!」
治療とする、無防備な状況だけが唯一の隙。それが患者としてなら、なおの事。絶対的な戦力差を埋める、革命的な奇襲。彼は自ら、左腕を破壊していた。クォルヴァに疑われず接近するための擬態。
ドパアァッ
「わりぃな。治してくれたこの左腕で攻撃しちまった」
クォルヴァの首に一瞬で手をかけ、螺子切り落とした王!倒れるクォルヴァに、騒然とする観衆。
見事過ぎる奇襲は、確実に王の勝利を決めていたものだった。