管理社会の真相
時代の捻じ曲げ。概念の崩落。人間問題や、巨大な災害といったものは人類のわずかでも感じ取れる。体験せずとも、その恐怖は伝承なり警鐘となり、全てが滅亡するまで語り継がれる。
だから、人々は知る。
正体のつかめぬ事に、誰もが恐怖し、滅ぶことを。
「人類は管理された事で続いた。それは保護。"SDQ"という災害があっても、まだ滅ばなかった。なら、敵がいた可能性がある」
管理社会は、人類を安定させて存続させた貢献が大きい。人間は感情という不要要素や進化と劣化を併せ持つため、生きるためのサイクルが不安定であるのは当然であった。移民達の、衣食住や職業の不安などを見れば分かることだろう。
保護されることで人類は忘れたり、緩やかにできたのだ。
しかし、
「あなた達はその敵を倒せなかった。管理社会はその意志の継続とも思えるの」
「…………」
三矢は少し黙った。何かを考えながら、一言を選ぶ。
「"倒せなかった"とは違うんだよな」
「?」
一言を吐き出し、さらに頭を回す。言葉も勢いに乗る。
「正確に言えば、"現れなかった"とか"いなかった"とか、そんな感じか」
「???」
「??」
三矢のこの回答には、ライラ達も理解し難いこと。当然の疑問マークを浮かべる。彼女について語るにも苦労がある。
「敵についてまず語るより、管理社会の基礎は確かにそこにあった」
説明をしやすくするには、やはりその時の状況を語ることからしなければいけない。
確かにいたというのはこの場で話した。
「"SDQ"もその頃に存在していた。しかし、多くが悩まされたのは"指針"にあった」
「全ての人類が個性を同じくできたからか」
「ああ、対等な人間となり、秀でた人間もまたいなくなった。それは人間という生物が消えたとも言えるし、この時、人間を超える生命体がいたらどうなると思う?」
「え」
人間が強くなったとしても、素体は人間。自然災害に敵う生命体ではない。いや、
「決して超えられない壁となる」
「その通り。当時、世界を指揮する存在はおらず、能力や性格をほぼ同じくしながら手を取り合っていたとも言い辛い。争いに争いを重ねた。終着を管理社会にしたことだけ」
勝者に、敗者。両方が納得した選びとなった。
「戦争が続いたのは、誰が今の人類を支配するか。成ろうとする者も多くいた。しかし、誰もその頂点にいけず。散っていった。死んでいった」
「戦いを続け、人類はその数を減らしたんですね」
「生まれる子もすぐに、自分達と同等の運動能力と知識を埋め込まれ、兵士にもなった。ハッキリ言って、子供が一番操りやすかった。強さをあげれば、何を注意する事無く戦うんだ」
「最低よ」
戦時は続き、未来の子供達も早々に散り始めていく。これが絶滅に近づけた要因でもあった。司令塔のない戦争は長く、深い意味も生まずに続いた。
具体的な敵が現れなかった。それは曖昧で、三矢自身も言葉を作れない。
"いた"のは確かで、そこには"いなかった"。なんとも、表現し辛い"時代の支配者"。
「ちっと、ズレた事になったが。確かにこの時、抜きん出た力の持ち主が確かに1人いた。全員、そいつを血眼になって捜した。しかし、見つけられなかった」
「多くの戦争の仕掛け人か?」
「1人のわけ?」
「1人だ。そいつの力は、管理人の桂やポセイドン、クォルヴァよりも強い。世界を滅ぼすどころの騒ぎじゃねぇ。かつての人類が"永遠の頂点に君臨する"とも、恐れ多い能力」
能力だけ考えれば、世に生まれた能力の中で危険度と強さ、有能さ、利便性は1・2を争うことだろう。想像だけでは決して生まれない能力。
「管理人もまた、ポセイドンを中心に捜索したが、見つけられなかった。なにせ、奴は誕生や存在することなく、"時代に干渉できる"能力を持っているからだ(要約だけどな)」
「はぁっ?」
「な、な、なんですか。その無茶苦茶な能力。人間1人で成立できる力なんですか?」
大まかな概要を聞いた瞬間に、能力にしてはあまりに突出していると、春藍とライラは驚いた。
「その存在の証明なんて、できてるお前等がどうかしてるんじゃないのか?」
だが、アレクは誰にも捉えられなかった存在について指摘する。
「そうだろうな。だが、できちまったから今のお前達がいるわけだ」
三矢も今ができた以上、それを否定することなどできない。アレクもまたその回答は読んでいた。
「ともかく、過去も今も。多くの出来事に奴がいた事を証明する。奴は今も、未来に自分を生み出すために時代を操作している」
「!」
「じゃないと、能力が生まれないわけだからな」
「じゃあ……」
管理社会より以前から、それは続いていたら……。
「その時から何十億と、時間は続いているはずよ!じゃあ、今日という日まで何もかもそいつがいたってこと!?冗談でしょ!気味が悪い!」
ライラの言葉通りだ。"時代の支配者"という存在がいて、奴が自分の能力を完成させるため、時代を操っているとしたら、その他の人類の価値はなんなのだろうか?
あまりに巨大過ぎる存在が明かされても、納得するには相当な時間と確かな証明が欲しいところだった。
「そー結論を急くな。悪い癖だ」
「なによ」
三矢はライラを少し宥めてからにした。
「確かにいる。いるが、そう完璧な奴じゃねぇ」
無敵や最強という類であっても、それが完璧に成されていないのは三矢がいる証明であろう。
「干渉できる範囲と手段には限りがある。何十億年と使っても、未だに誕生の兆しができていない領域の能力だ」
だからこそ、完成されれば神を超えると言っても過言ではない。
努力の無制限化と、多くの時代を犠牲にしてでも辿り着けていないもの。その持ち主は極めて、平凡と言ってもいい存在なのだろう。どれも一律で。
「誕生してないから気長にやってるんだろう。奴からしたら、人間の一生分の時間など、コーヒーブレイクに等しい時間くらいさ」
やはり自分が誕生していない時代への、干渉は極めて弱い。しかし、近づけばより強力な干渉が可能になるだろう。
「みんなはみんな。人間、全員。そいつのために生きているわけじゃねぇ。ただ、奴を倒すことは管理人達も、かつての人類である俺達からも使命であり、願いだ。ライラ達の決断は自分達で決めればいい。忘れて生きるのも、選択さ」
ただ、"時代の支配者"が誕生するにあたって、どれだけの被害が生み出すかは想像できないが、良いものとは思えないのも事実か。
「管理人が不老であったのはもしかして、」
「万が一、あり得ない確率であったが、"時代の支配者"に対抗する戦力であった。しかし、それもご破算。人類だけとなったな」
いつ、どこで、誕生するか分からない生物であり、人類の管理を徹底したのもそのためだった。
「だが、管理人もお前も。管理社会の崩壊を計算していた。だから、まだ計画通りなんだろ?人類に対抗できる力と手段を生むための時間だったはずだ」
深いショックを受けていないアレク。元々、感じてはいた事も手伝っている。"時代の支配者"の存在は敵としてしか抱かない。ポセイドンの意志を継ぐ気はないが、奴の思い通りに行く事も気に食わない。
「誕生していない以上、こちらからの攻撃は一切できないが、誕生さえすれば戦うことができる。管理人がいなくなっても、"時代の支配者"の一強にはなりえない」
「察しが良い」
良すぎて、不安になるけどな。
「夜弧はどうなんだ?」
「え?」
「……明かすのは任せるが、お前の意見も聞きたい」
夜弧にも事情がある。彼女がこうして、ライラ達と協力しているのも……同じだったのはアレクも察している。
「私も同意です。そんな人が生きていないのに、時代をメチャクチャにしている事実が"あるから"……戦います」
そのために、夜弧はこの時代にやってきたのだ。人類の期待を背負ってだ。
「まったく、あたしも気に食わない。人類をなんだと思ってるの?」
「ライラ」
「あのね!いかにも努力をしてるっぽいけど、せこいのよ!やってることが!」
"時代の支配者"の存在は、ライラもまた薄っすらでしかない形で知りえていた。それが人類の脅威としてあるのなら、
「戦うに決まってるでしょ!管理社会よりも、性質の悪い!時代って、そいつだけにあるものじゃない!みんなにあるものよ!」
どうやって戦うのか、それすら分からぬままだが。ライラもまた、意を決した。
桂が死んでいった理由を突き詰めれば、”時代の支配者”のせいであろう。全ての根本に、そいつがいることも……
「僕も」
そして、春藍。
「最初に旅をしたのは管理社会への嫌気もあった。だけど、それまでも決められていた事だとしたら、」
闘志は静かに
「人類が倒すべきこと。時代が繋がっても、忌み嫌われた支配者なら打ち倒します!僕の力の限り!」
覚悟は熱く。ライラ達と共に、いくつの時代から味わってきた人類の願いを背に感じて、決意を表した。