傷付けた人には何を言えば良いだろうか?
ライラは猛烈に走ったがすぐに、呼吸が苦しくなって地面に跪いて泣いた。
何を言えば良いかが見つからない。人の。
両足が無くなった事に対して、何が言える?
奪った原因は別にあるとしても、きっかけは自分自身にある。異世界を旅するようにした事も、1人にさせた事も、自分が何もできなかった事も。含めて。
「ううぅぅっ」
今まで足があった人が、両足を失った人間になった時。"生きていて良かったね"って。
ホントに言える事だろうか?ホントに言えるかな?自分も同じ状況だったら違うかもしれないけれど、自分だってきっとそんな事を言えずに絶望したり、混乱したりするだろう。
今の春藍にはどう、何を受け入れればいいか分からないし。ライラにも分からない。
「ラ、ライラ!春藍が目覚めたんだよ!ねーねー!」
「ネセリア……」
「それだけでも良かったんだよ!元気を出して!」
「けど、私は」
「自分を責めても仕方がないよ!春藍に両足がないのは事実だよ!!」
ネセリアの方が幾分か強かった。というより、分かっていないというのが正解か。けど、理解できない事もたまには正解なのだ。
事実は事実と認める。
自分じゃないからそーゆう思考回路になったと思う。春藍はそりゃ、可哀想だという気持ちはあるけれど、ネセリアの可哀想と春藍の可哀想が次元が違う。少しの同情しか合っていない。
「生きているなら、きっと。まだ、楽しい世界に出会えるよ!」
「……っ…………ネセリアって」
「?」
「強いのか、弱いのか……おバカなのは確かだけど」
「バ、バカって言わないでください!」
◇ ◇
そして、ライラが泣いて逃げ出す光景を、春藍は水で絵の具を薄くするような視覚で捕らえ、何を言われるか。何をこちらから言えば良いか分からなかった。
どうして逃げ出したんだろうか?っとわずかに疑問を抱きながら、どうして僕は両足を失ってしまったのか、脳内をサルベージした。
そのサルベージの最中にアレクは色々と状況を伝えた。
「前にいた世界は"金の城下街"ゴールゥンだ。そこで、ライラとネセリアと行動していただろう」
「……ううっ…………」
「さらに、リアとインティという女性達にも接触したそうだ」
「うっ……」
「そして、お前は"管理人"のウェックルスという奴に、インティと一緒に捕まったはずだ」
アレク自身もライラやネセリアから聞いた限りの情報だった。だが、十分で正確に伝えている。春藍の記憶は速やかに掘り起こされていった。
「お前は"管理人"のウェックルスという奴に遭遇したはずだ」
「!…………す、少しずつ。思い出してきました……アレクさん…………」
「本当か?」
「は、はい。そうか……僕は…………生きたんだ」
生きたんだ、と言った後にもう見えなくなった自分の両足を見た。
そこにあったはずなんだ。形はアレクさんや、ネセリア、ライラと似た。ちゃんとした足が。
春藍の肩をポンッと叩く、アレク。
「アレクさん?」
「お前は製造員だろ?俺の部下だろう?もう、お前の足は生えないかもしれないが、お前には自分の両足くらい造れるだろうが」
「!…………」
「やっちまったし、もう取り返せない物なのは確かだ。だが、お前にはやれる事がある。生き残れたのも、何かがやれるからだ」
アレクの言葉に少しだけ。今の自分でも良い方向を考えようとする春藍。アレクさんがいなければ、こんな言葉をかけてもらえなかったら。ずーっと、どうしようと思っていた。
自分の両足を自分の腕で造りだす。普通じゃないかもしれないけど、僕なら。僕だからできる事だと思う。
不思議と両腕が熱くなる。落ち込んだ心が温かくなる。これにもう少しだけ。ほんの少しだけ、身体の調子が戻ればできそうな気がした。
「体調の事もほどほどにな」
「は、はい……」
「いちお、しばらくは俺が造った車椅子と、簡易義足を使え」
「え。も、もう造っちゃったんですか?」
「あくまで歩ける程度の代物だ。生活ができるレベルではない。造ってしまったら、お前の楽しみが減るだろう」
そういえば聞いていなかったと思い、春藍は尋ねた。
「ぼ、僕は何日眠っていたんです?」
「17日だ」
「じゅ、じゅうななにち!!?」
「5日ほど死に掛けていたんだ。そこから生き延びただけでもよくやったんだ、お前はな」
せいぜい3日とかと思っていたが。まさか、そのおよそ6倍の日数を眠りに捧げていたとは思わなかった。そんなに時間があったのなら、アレクさんなら義足やらなんやら、簡単に作っちゃいますね。
「どうだ。義足をつけて、車椅子に座ってこの世界を少し回るか?」
「!そ、そういえばライラが住んでいた世界でしたっけ?」
「椅子に座ってブラブラ見る程度しかできんだろうが。ついでに、俺の義足を少し試させろ。付け心地の良さ、安定性、歩きやすさは被験者がいなければ分からない」
「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いてください。自分で付けますから」
「いや、ここは俺に試させてくれ。今回のは素早く取り付けが可能、サイズ変更も可能だ。つまりだ、誰にでもすぐに足を与える事ができる」
「イダイイダイ!!キツく締めすぎです、アレクさん!」
義足を無理矢理つけられる春藍。その痛みはかなりのものだった。付けられてもまだ感覚が沸かない。簡単に取り付けられると銘打った代物であるが、痛みが半端ではない。
「イダイです、アレクさん!」
「我慢しろ。しっかりとはまるはずだ」
春藍が布団の上で転がりながら、アレクはあまり動かぬよう押さえつけて接続を試みている。
その最中にライラとネセリアは何を言うべきか、少し整理をして涙を拭いて、もう一度戻った。
「は、春藍さ」
「もう大丈夫」
「どうだ!?春藍!!ちゃんと填まったか!?固定されているか!?」
「あ、あぁぁっ……痛いですけど、何か感じます」
タイミングの悪さ。最高クラスである。
丁度、その。アレクのでかさと春藍の位置からライラとネセリアからは春藍に義足を取り付けられるところが確認できず、両者がとても如何わしい体勢でいる事、随分と汗を掻いている両者。とても至福そうな春藍とアレクの顔。
「お、お取り込み中だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、だ、のね。そ、そうよね……」
ライラは明らかに何か別のことを考え、とても春藍に言える事が言えなくなった。
テンパっている顔だけを春藍とアレクに見せただけで後ずさった。
「あー、そー、その。そーゆう関係じゃないかって、少し思っていましたよ」
ネセリアはライラと違い、それはそれでアリだと思える顔をして。ライラと同じく退場する。
「え、え、ええ、えっ!?な、なんだったんですか!?アレクさん!!ライラとネセリアが突然、下がっちゃいましたよ!」
「知らん。分からんな…………とりあえず、次は左足をいくぞ」
「こ、今度は優しく填めてくださいね!!痛かったんですから!!」
春藍だけ大きな声を出しているもんだから。
「あいつ等。やっぱりできてるんだね」
「春藍にとってアレクさんは命の恩人ですから。そこまで進展しても不思議じゃないかと」
「受け入れてどうするのよ、ネセリア!……もぅ、何を言えば良かったか、忘れそうじゃない。どっかの馬鹿のせいだわ」




