人間生きてたらどーなるの?
一生懸命に頑張る人々がいる。だけれど、失敗してしまったら誰も手を差し伸べない。声をかけることはない。
やってみると良いを、口にした者はいなくなっている。そして、みんないなくなっている。
上手くいかないなぁ。残念だなぁ。
そして、悔やんでもしょうがないんだ。機械のように動きたいよう。今、この時だけ感情を忘れられたらきっと、身体の震えは止まらないんだ。
怖いよ。見捨てられちゃう。されちゃったんだ。
そんなところまで、感じる必要がないくらい変わってしまえ。
世界に人間など要らない。世界が汚れる人など、要らない。
「謡歌は良い事をしているのに、どうして気付いてもらえないのですか?」
「え?」
水羽とは別の視点。戦うことができない人であるが、可能な限り尽くせる忠誠心に対して、不釣合いな世の中の疑問。バードレイには常々感じていた。
「人に優しくして。みんなに仕事を提供して、みんながきっと動いているから世界が成り立っている」
言葉は上手にできないけれど。
「謡歌は偉いとか、お金とか、友達とか、恋人とか……そーいうことだけじゃ、足りないよ。何かの報酬が必要だわ」
生きていることに頑張っている人がいる。そう思えた人だった。バードレイにとって、初めて出会った気がしたちゃんとした人間という存在。まぁ、そもそも。"ちゃんとした"ラインは誰が決めるのやら……。
「んー、いらないかな?」
「へ?」
謡歌は無欲に近い。
「あえて言うなら、お兄ちゃんに褒めてもらいたい。それだけでいいよ」
フォーワールドの環境が異質過ぎるから、どうにも仕事をしていないと落ち着かない。マゾ社蓄体質。休息は確かに頂くが、何をしていいのやら分からないこともある。
「だって、こんなに色んな人達と触れ合えて、お話ができるのは面白いかなって。仕事が楽しいと思えるの、みんなに良い事をしてたら」
「……いいかも」
「いいでしょ?」
「はい……」
謡歌自身の本心を。どうにも納得できないバードレイだった。それはやっぱり、人それぞれなのかな。良い事をできたら楽しい。悪い事や苦しい事をしたらつまらない、嫌だ。
不思議なことだ。
ポチャンッ
今日の3人は海で釣りをしに来ていた。ただの遊びではなく、漁業の楽しさと人材募集も兼ねてだ。
「あー、僕が満足に動けるなら海に潜って獲るんだけど」
「人魚みたいなことをしないで」
「それは迷惑だからね。決して、海には飛び込まないように……っと」
川釣り、海釣りとある。"ザクロ水"によって、広大な海が誕生し、漁師達は船を借りて海へと飛び出した。より魚を獲る事、万が一。海の魔物に出くわした時、護ってくれる凄腕の戦士の募集。
「暇~……」
水羽にはとても向いていないことだった。疲れているせいもあるか、すぐに眠ってしまった。
「もう、水羽ちゃんは……」
「人には向き、不向きがあるものよ。静かにしてあげましょ」
漁師は男の大仕事。大半が漁に参加できる男手であった。
「女性は危ないから。色々、船の上だし」
「1人の女性が大勢の男達によって……」
「い、いきなり何を言い出すの!?もぅ!」
「あっ、糸引いてる!」
女性の仕事についても考えている。漁業への関心が高まることも含め、1人海釣りを提案された。
「力がいりますね、えいっ!」
バードレイ。まず、1匹目。ゲット。
「ぬるぬるして、気持ち悪そう」
「でも、釣り上げたら嬉しいわ……っつ。この」
魚が食った針を抜こうとしたバードレイであったが、暴れる魚に手を妬いた。謡歌もこれは体験であったが、釣り上げると分かる魚の気持ち悪さを知った。あまり触ったことがなかったから、好意を抱き辛い。
「口から針を抜くの、大変ね。魚の鱗で手から血が……」
「でも、やっちゃうんだね」
改めて。
「漁師さんって凄いね。農業を営む人も、天気や土地、害虫と戦いながら、私達に新鮮な物を届けてくれる。働く人って偉いね」
「そうね。そーして、世界は動いている」
当たり前にやってるんだから。それだけでも凄いよね?そう思って欲しい?
「世界はこうなってれば良いね。みんなが何事もなく、何かができること」
有り難味を知る。
そっか。一生懸命にやっているんだ。それが
「一生懸命に生きて欲しいね。それが人の在り方。どんなことでも、美しくある」
最初に感じていたことがなくなった気がした。何もかも、失ってしまえばこうした普通を感じられない。苦労の中でみんなが生きている。しょげることはあっても、一生懸命にやればきっと、生きていることに意味があるんだ。
今まで空っぽでなんのために生きているか、不思議だったけど。
私が一生懸命に生きることが、私が生まれた理由なのか。
失ったら、また取り戻そう。いや、それ以上に得るんだ。一生懸命に、一生懸命に。
私は私の生き方をしていく。
「ありがとう、謡歌」
「え?」
「私、謡歌と出会えて生きていける。謡歌みたいに出来るか、分からないけど。一生懸命に、自分の生き方をしたい」
それが屈折ながらも、自ら宿した怪物を。いや、"時代の支配者"を呼び起こした覚悟であった。