みつやまさあき
曰く。
「私達、今の生命体には母なる存在がいるそうです」
藺兆紗は知っていた。
「人間の種族には雄と雌が別れ、子を作っていく。そんな遺伝子の継承もあるそうですが、それは生物的な枠内のことで」
その言葉を聞いたメテオ・ホールは知らんと反応した。
『我に関係なし』
「いや、ありますよ」
しかし、藺には自分もメテオ・ホールも、王も、レモンも、山羊波も、……敵として出会ったライラ、春藍、夜弧などにも、感じ取れるものがあった。
面影というものよりも、ハッキリとする直感が訴えている。能力の一部と、認識するには確か過ぎるため。
「この世に同じ性格を持つ人が2人いたとしても、肉体の強度や能力の違いがあれば行動するパターンは違っていきます。その時点で同じだった性格は崩壊します。何かが違えば、同一は発生しません」
今までどう生きていたか、それによって考えが変わる。性格というのが生まれた瞬間に形作られるのか、はては過程によってその性格が形成されるか。
考えるほど出られないループになるため、中断としますが、ここは一つ。
「にもかかわらず、似通う人々がうろつくのは史実を通しても不可思議なこと。憧れや模範ではなく、それを自分の意志として認めているのならなおさらです」
機械のプログラミングとは違います。
複製技術を用いても、それは時間と共に変化が生じる。本体の記憶と癖、偽の記憶と癖に違和感が生まれるのは当然です。実際に体験したこと、記憶のみを心と身体に染み込ませたものとでは結果が違ってきます。
「今の我々は。管理人達と同義で。基盤となる人物がいた。から、こうして異質染みた能力と、完成された基礎。それに反して、イマイチの過去と思いません?」
少なくとも、覚悟や信念は境遇と比例しなければ得られない力を持つ者がいるのは不思議でしょう?
◇ ◇
同刻。
「死線の潜り方じゃねぇな」
牢獄の外から、ロイはダーリヤの強さの違法性を疑問に思い、尋ねた。
「強すぎる肉体に対して、精神的な遅れが感じられる」
不満、怒り、敗北。
負けたことがない天才が身近にいる気がする、アレクはそれに該当するだろうとロイは思っているが、アレクは敗北を糧にするところもある。真に強い人間というのは、"負けない"という部分ではなく、"勝敗"を気にせずに信念を貫き通すことではないだろうか?
強い人間には、言われるべき強さを持つのが普通だ。もし、強さに対してソグワナイ意志を持っていたり、意志に反して強さを持ち合わせていないとしたら。
「なんでそんな奴がアレクと戦える?いや、俺と戦えるわけもねぇ」
敗北を知らなかったのはダーリヤも同義であったが、それは彼が出会ってきた人間の全てが弱いに過ぎず、自らの強さで勝ち得たものではないとロイの経験から出る。
基礎的な能力があって成立しているダーリヤに、基礎が存在する理由が見当たらない。血統や、それなりのトレーニングでは作られない肉体。
「なぜだぁ!?なぜ、俺がここにいる!?」
「それはテメェがアレクに喧嘩売って、負けたからだろ?」
ダーリヤという名前に、ダーリヤという力。
それにまったく不適合な性格。むしろ、本体が晒された本音。
「俺はこんなところで終われない!終わらない!!」
なら黙れ。喚くことで何か変わると思っているのなら、とんだ馬鹿だ。
俺と同じ"超人"なら、死ぬ覚悟ぐらいは出来るもんだ。脱出を試みる足掻きの方がいい、無駄だが納得はできる。
声を張り上げるという行動は買うが、やるべきことがあるのなら、それに向かって行動するのが普通。これだけの強さを持つ奴の、あるべき行動のはず。
「なんつーか、嫌な予感がするな」
不吉すぎる影の気配を察するロイであった。
そして、ほぼ同じぐらいの時。
バードレイは水羽と謡歌の2人と行動しており、クォルヴァやヒュールなどは雑務におわれていた。ダーリヤ達が侵略した際は、隔てていた空間が割れ、繋がれることによって侵略であったため、感知するのは早かった。一方で、若のように似たようなルートで移動ができる藺。これについては感知するのに時間は掛かった。
「ったく、人のおうちに土足で踏み込むのは気がのらねぇ」
溜め息をつく、王震源
しかも、お荷物を抱えての
「うおおおぉっ!なんじゃこの異世界は!技術!技術!技術の宝庫ではないかのぅ!」
「おう、爺。はしゃぎ過ぎるな。俺達、いちおこいつ等と敵対してるんだ」
琥珀博士は顔すら知られていないだろうが、王には面識がある。バレたら一瞬で捕まってしまう。
「"アルテマ鉱石"って代物。さすがに一般の方には回ってねぇみたいだな」
「当然じゃい。あれを扱える技術者などそうはおらんて」
山羊波を殺さなきゃ、面倒なことにはならんかったのにな。
「時間かけて調査するしかねぇな」
活気溢れるフォーワールドの情景を羨ましく感じながら、調査を始めようとする王であったが、
「おや、丁度良い。敵と遠慮なく戦いたいところであった」
「!」
鉢合わせてしまう。避けようのない偶然。
静かに視界を彼女一托に絞る王であった。
「確か、慈朱里咲って言ったか?」
この出会いが再び、話をこじらせていくのであった。
◇ ◇
「それでだな」
三矢は時間を稼ぐという意志を見せず、なんでもかんでも喋っていた。時間が長く感じると、不快感を表せないトーク術。それに内容まで込みしていけば、あっという間に時間の進みは速く感じる。
戦うことができない存在による、懸命な足止め。
情報という価値を最大限に使っての、三矢の話術は大きな戦争に繫がっていく。
この男が人類の味方か。それとも、"時代の支配者"の味方か。
後に繫がらなければ分からない。