みつやま○あき
過去の話である。三矢は語ることなどない。心の中のこと。
「誰かの人生を歩めるゲーム?」
三矢はその中に呼ばれていた。それは彼女の"代役"として、やってきて知った。
そこにいた面々はどれも、犯罪者とされない犯罪者達。悪がなんなのかを決めているような連中だった。
「その通りです。三矢さん、弓長さん」
「私達の計画の中で、最重要とされる部分です」
そこにいたのは、藺兆紗とダーリヤ・レジリフト=アッガイマン。
三矢の隣にいるのは、同僚の弓長という男だった。
彼女が、"代役"を頼んだのは嘘だと、心の中で感じ取ったのは三矢ぐらいだった。むしろ、望んで欲しかったのか?
「人類の進歩を促すには単なる戦争だけでは不十分。人間は選択していく生き物であるのなら、間違いがあってはならない」
「お2人は人類全てを扇動して頂きたい。このような、腐りきる人々が暮らす地球など、いっそ壊れて良いのだ」
大勢がそれに適される暴言であっても、押し黙ってしまう。大国を支配する2人の男達であった。今、三矢と弓長が話すにはとても不適合。
「扇動という言い方は止めて欲しいですね。単なる営業です」
「弓長、いいのか?」
「構いません。商品はそのために造られてます」
NOと言えないわけじゃなかった。自分達が造っている物の良さを知っている弓長と、その悪さを知っている三矢に多少の差があった。
全国民どころか、世界全体で使ったとしたら。
人々はどこに行くだろうか?
「引き受けましょう」
すでに、止められないことだった。この時、この世界全ては、別の見えない神に囚われたと三矢は気付いた。深すぎる闇に、言葉を出せなかった。
「弓長。お前……」
「分かってますよ。あなたほどじゃないですが、もう私達だけですから。悲しくて」
呪われたゲームではなく、こいつは自分自身を大きく崩壊し、変えてしまうほどの鮮烈な影響力がある。
テストプレイ中。瀬戸くんは肉体が耐えられず、血まみれで死んだ。最初の犠牲者であった。
友ちゃんはゲームから離脱できたものの、知能と道徳を大きく失い、飛び降り自殺をした。自殺未遂を4度行なってから、ようやく死ねた。
林崎さんは2度目のテストプレイで大幅な結果を残し、肉体と知性、感覚においては人智を超えたが、意識だけが戻らず。植物状態となって24年間を座ったまま過ごす。死因は老衰ではなく、ゲームの電源がなんらかの影響で落ちたため。
ゲームの根幹を創り上げた1人、安西さんは仲間達の死に絶望し、精神を壊してしまった。雨の日の一般道路にて、赤信号を無視して渡り、車に撥ねられて死亡。
「なぜこれほどの物が生まれてしまったか」
「止められねぇからだ」
最大の功績者である宮野さんはゲームの完成と共に命を落とした。死因は過労死であった。彼の死によって、完全にゲームを消すことができなくなった。
酉さんはこのプランの総責任者として命を狙われており、乗った飛行機を何者かにジャックされて命を奪われた。
松代さんは酉さんの訃報を知ると、悲しみのあまり崩れ、会社と人生を辞めた。東北に向かうことしか教えてくれず、その後は完全な行方不明者となってしまった。
「だが、見てみたいな。俺達の爪跡がどれだけ未来を動かすか」
「悪にでもなりますよ」
弓長。商品の販売から3年後に全てを失うも、新たな企業を立ち上げて50まで生きる。急性心不全によって、この世を去る。ゲームプレイは1度行なっている。
三矢。唯一、実質の生存者。ゲームプレイは3度行なっている。世界を揺るがせた関係者の1人として、86年間人生を続ける。自らの肉体が廃れても、優れた"科学"技術によって記憶と記録、能力は代々続いていった。後に、"管理人"や"無限牢"の製造をする関係者にもなる。
彼等はこうして死という形で世界の秩序から逃げ出した。
誰にも、このゲームを、この人生を止めることはできない。電源が切れるまで待つとか、エンディングに辿り着くまでとかなく。
人は便利や憧れを求め、在り方を見失う。
人類は進歩したのだ。進歩した社会に身を置いたからこそ、管理社会を選んだ。彼女がいるのだ。
「"時代の支配者"」
彼女は、別に何事もなかった。死ぬことすら平然と受け入れて、朝の光で眼を覚ますように生きると感じているのだろう。
『"魔王"は好きね。ミステリアスが引き立って』
だから、その時平然と恐れることなく死んだのだ。死んで分かる有り難味か、否。困難だけが残った。
人は見えない力に縛られる。社会がそうであるか、
「あの人にとっては、自分の一生などどうも考えていない」
三矢は知っている。それを割らず、彼女の気持ちがハッキリと世界に出るまで動かず。止めるために自分はいると確信している。それが製作者達の意志と、人類の意志の尊重。
彼女が自らの一生を捨てても、平然としていられるのは、自らの意思を受け継ぐだけでなく、思い描かれた道を進んでいく。それだけで自分と重ねることができると確信しているからだ。何十億と命がいて、時代の進みと共に環境が変わっていくにしても、信じられる異様な狂信。
未来予知に近い。
何十億と続いた管理社会ですら、彼女の想定内。あるいは、無問題。
つまりはこれから起こる全ての現実は、紡がれていけば確実に彼女が"いる"時代に代わるのである。世界に彼女がいないければならない。まるで主人公のような、あるいはラスボスのような。そんなことになる存在。
そんな必然となる運命が、"時代の支配者"の正体。
努力や才能、非合法、時、……そーいった類とはまた別。そもそも分類不能?
人類全ての個性を同率という形で剥ぎ取り、管理社会を作り出す事によって、人々は徐々に危機を忘れていき、こうして未曾有な危機が生まれたのも。彼女が生まれるための儀式。何でもあり。影すら、闇すら見せない支配者。
見えない邪悪な代物。
そいつが……いた。まだ、少女としてフォーワールドにいた。
生まれてくる自分の名は
「バードレイ」
まだ何も持たない、ちょっと変わったくらいの少女こそが、人類の全てを巻き込んだ元凶。いや、たった一人で"時代"を狂わせ、巻き込んだ巨悪過ぎる存在。