両足を作り出す僕は、世界を歩き出す
ザーーーーーッ
雨が強く降っていたな……………。
この良く描かれている城があり、街があり、村があり、草原があり、馬が走り、鳥が飛び。そして、雨に負けない凶悪な炎に囲まれていた。
今日はあの日と似た感じだったかもしれない。命が尽きるその一瞬。身体の冷たさを雨のせいだと。
まだ。
まだだ。
最後まで戦おうじゃないか。君と僕は一緒に。まだだよ。
死ぬまでにね。共に。僕達は。そして、君は。
『!!!!』
「ふあっ!?」
誰かの叫び声が聴こえて、弾けるように見えていた景色と音、記憶が逝った。それが両目と意識を抉じ開けるための代償なのだ。
「ううぅっ……ううっ」
それが夢。夢というのだ。
春藍やアレク、ネセリアが知っている科学とは違う。ライラの魔術のような感覚の現象が、夢というものだ。
目覚めた春藍に映った景色はただの白い天井だった。それ以外何もなかった。布団に入れられて、袋に入った氷を額に乗せられていた。
「ここは……」
どこだろうか?夢を経由してやってきた、春藍にとっては今の状況を整理できない。
だが、それが一番の問題ではない事を知ったのは早かった。頭がボーっとしていても、姿勢を変えようと動いた時に、腰から下の重心や感覚が変に途切れていた事。妙にだが、確実にそうなっていると気付き。
春藍は自分の体を隠している布団を腕の力で取っ払った瞬間。
「え」
こっちが夢だろう。そう叫ぶべきであり、言うべき現実なのだ。
いくら動かしても、ないものはない。
「あ、あ」
残酷に包帯を巻かれ、麻酔を撃たれているので痛みの感覚はない。だけれど、春藍にはそれが。あったと理解でき、科学的にも常識的にも感覚が麻痺している状態であっても、起こるほどの絶望。
「あ、足がああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!?!?」
病院を揺らしたと思えるほどの絶叫。最高のボリュームで発した。
「うあああぁぁっ!!?ああああああああ!!」
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、
両足がない、痛いよ。怖いよ。死ぬよ。
「ああああぁっ!!?なんで!!?なんでだよ!?僕が!!僕に!!僕は!!何をしたんだっていうんだ!?」
少し前にいた春藍慶介と、今。両足を失った春藍慶介はまったくの別人と思える。
だが、それは当然だと思う。
ウェックルスと対峙していた春藍は自分の命を護るため、足を失っても良い覚悟があった。足は命よりかは本当に、本当にギリギリのラインであるが安かった。
死ぬ現場にいた事と、生きていける現場での価値は違う。
「め、目覚めましたか!?」
「至急!桂様達を及び致しましょう!!」
担当医がやってきた事に春藍は気付かないまま、絶叫し、上半身をクネクネと動きもがいていた。見ての通り、混乱しているのだ。自分に何が起こったか理解できていない。落ち着かせようとしている医者達の行動を無意味にするほど暴れる。
「返せぇぇ!!僕の両足を返せええぇっ!!!」
「お、落ち着いて」
悲痛の叫び。
そして、その叫びに吸い寄せられるように
「春藍!!」
「春藍!!」
「春藍!!」
3人の仲間。ライラ、アレク、ネセリアが大急ぎで入ってきた。
医者でも抑えられないほど、両腕が暴れている春藍を無理矢理、圧倒的な力で抑えつけるアレク。両足がない、鼻息、声、暴れている春藍を見て、ライラとネセリアはとても複雑かつ受け入れができないような顔をして見つめていた。
「俺だ!春藍!!」
「ふーっふーっ」
「俺だ!アレク・サンドリューだ!!」
「ふっふっ……………ふっ……………アレク……さん?」
抵抗ができなくなると、これまでの疲れと暴れた疲労に落胆するような顔になっていく春藍。冷え始めて、ここに仲間がいる事を認識できた春藍。
「ここは…………どこなんです」
「あ、あたしの世界よ。"和の国"吉原。……あたしの……ところだから、春藍」
アレクの代わりにライラはとても泣きそうな。どころじゃなく、ホントに両目から涙を流していて。
「うっ…………」
喉を詰まらせるような顔をし、涙を拭きながら、冷静になった春藍に背を向けて走り出したライラ。
「ラ、ライラ!!どこに行くの!!」
逃げ出したライラを追う形に、ネセリアも走り出した。
その光景を自然と落ち着いて見ていた春藍。まだ全然整理できていないけれど。
確かに理解できるのは。異世界に流れ着いたことでも、ライラの世界にやってきた事でもなく、自分の両足を失った事だった。




