○○○ま○○○
バヂバヂ……
ある部屋で電流が走ったかのような衝撃が、春藍の身体を襲っていた。
その隣の部屋には、若から説明を受けているアレク、ライラ、夜弧の3人の姿があった。
「アレクも来るわけ?離れて大丈夫なの?」
内政、防衛、いずれにも要と言えるアレクが離れる事態はあまり好ましくないとライラは思って、若に尋ねたが。
「と、とりあえず!クォルヴァとヒュールに任せろって!!」
「身体、震えてるけど?」
「ライラ、心配するな。敵が出ても、ここにはロイと朱里咲がいる。内政的な問題が起きても、広東やラフツーもいる。だが、長い事離れられないのは事実だ」
アレクが向かうというのは、こちら側の覚悟がいかにあるかと。出会う相手への交渉材料になることをアレクは理解している。癪ではあるが……。
「アレクさんが来るのなら、確かに心強いですよ。ライラ」
「そーだけど」
あたしや春藍、夜弧じゃ頼りないってこと?
ライラの疑問ももっともであるが、彼女達がまだ知らない人だからこそ。無理矢理な力技をするしかないのだ。
交渉に赴くメンバーは、春藍、アレク、ライラ、夜弧の4名である。
「で、どんな異世界に行ってどんな奴に会うんだ?」
「そもそも、こんな状況で連れてくるべき奴って、ちゃんとした理由があるんでしょ?」
「ですね。私達は一体、どんな人を説得し、ここに連れ込むのです?」
その質問をするとは思っていたが、若は……
「僕も知らない」
「はぁ!?あんた、クォルヴァと同化しておいて、その返しはないでしょ!」
「しょ、しょうがないだろ!とにかく、行くよう説得しろって!クォルヴァが言うには、"知らない方が良い"奴らしいからだ」
情報の不透明さ。今から、会う奴の情報を開示できないむず痒さ。
ライラは怒り顔で若の頭を殴ろうとしたが、それを止めたのは隣の部屋から出てきた春藍だった。
「ライラ!説明できないけど、私がする!」
「!春藍……じゃなくて、クォルヴァね!」
春藍は胸を2回叩いて、クォルヴァと分離する。その勢いで春藍は床にお尻をつける有様。
「ビックリしたー。終わったんですね」
「うん。とりあえず、その事はまた後で話すけど。今を話そう」
急ピッチで春藍に施したかった改造も終えたクォルヴァ。なにせ、相手が相手。情報を漏らしたくない理由も、後々分かる。
「名前もその姿も伏せさせてもらうが、君達は会えば分かる。っていうか、外見なら間違いなく知ってるはずだ」
「どーいうことよ、それ……?」
「今まで会ったことがある奴ってところか?前々から思っていたが」
それは微妙に違う。しかし、答えを出すには。出しすぎたら、まず来てはくれないだろう。奴はそーいう、捻くれたところがある。
管理人から絶大な信頼を持っているわけではない。疑いをかけられるべき人。表舞台に、クォルヴァと同じく立つべく義務がある。
「警戒は十分にしてくれ」
「誰かも分からないのに、警戒しろってのは無理なんじゃない?」
「ライラの言うとおりですよ」
「会えば分かる。それは事実だ。彼に辿り着く方法も教えておく。長い旅かもしれないが、気をつけて欲しい」
そんなこんなで、春藍達4人はまた新たな冒険に出るのである。人を連れて来るという、一言で言えば
『いざとなったら、誘拐でもいい』
そんな感じの指令。むしろ、実行。
◇ ◇
"砂地獄"ディン・ザ・バルハン。
この異世界は周囲一面が砂漠と化している。春藍、ライラ、アレク、夜弧の四人はこの異世界に足を踏み入れた。
「じゃ、僕は一旦帰るよ」
「俺達もできるだけ早く、その奴を連れて帰る」
送ってもらった若はフォーワールドへ帰還する。
照らす日差しはギラギラと刃のように身体に突き刺さり、空気は鍋の中と同じような暑さ。流れ出る汗は想像以上に吹き出る。
「やっぱり暑いわね」
「ですね」
とはいえ、日差しで肌が焼けないように薄くて、長い服を着る一同。水を大切にするように、4人共水筒を持参。
春藍はこの地について、気付いたことを口にした、
「今まで、砂漠の世界ってなかったような気がする。海中はあったけど」
この異世界に足を踏み入れた春藍は疑問に思い、みんなに尋ねる。様々な異世界を管理していた"無限牢"ならば、あってもおかしくはないのに……
「管理に不適合だからだろうな」
「管理社会は人類の保護が大きな目的だったわよ。砂漠なんてまず、人が住みつかないし。生産性も悪いじゃない」
砂漠では植物が育たないし、水も少ない。最低限の自給自足も困難、"無限牢"が構築される時点でそのような異世界はないように設計しているのが、妥当なところである。
「じゃあ、どうしてあるんだろうね?」
春藍の疑問は1つめよりも、2つの目の方が気になっている。
それには夜弧が答えたのだった。
「例えば、誰もこの地に踏み入れても生き残れないとしたら?」
過酷だからよりも。人の目、あるいは、管理人の目からも離れるべきものがあるから。
「隠すも、護るも、適応しているわけです」




