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ガコォンッ
大きな音をたてて開く地下の扉。
試験的なものであり、まだその構築は途中である。加えて、その施設が必要かどうかはまだ民衆に合意はできていない。全体の7割は賛成しているが、……
「随分と物騒な施設を作ってくれたな?」
「お前が悪さをしたら、閉じ込められるくらいの施設にしている」
「ほー……って、俺が何かすると思ってるのか!?」
「この前、お前。年端もいかない子を襲ったろう。年齢制限考えろ?一度きりだぞ」
「バ、バードレイのことか!?」
この地下は収容施設。牢獄。世界の危険人物達を閉じ込めるための場所。
アレクとロイの2人が、協力して慎重に生き残った侵略者達をここへと運んでいた。
「お前だったら、即死刑と言いそうなんだが?」
「私情ならな。ただ、今のフォーワールドは移民の数が圧倒的に多い。そのような判断は住民に恐怖を与える。せっかく、良い雰囲気になってきているのにその宣告は難しい」
「戦った相手、マジで殺しにいっていたよな?」
「戦い中に死んだらしょうがないだろ?それは言葉を通せる」
大監獄。
元は技術開発局の地下道であり、そこを改造、改築しての拠点である。
正義の機関というよりルールに殉ずる機関。
「治安を維持するには"常識"というルールを作らざるおえない。そして、ルール外が適用された時の"罰則"も必要だ」
今のほとんどは、アレクが言うとおり良好な状態だ。クォルヴァやライラ、ヒュールなど、様々な人間が表でしっかりと活躍している事もある。
「お前、ホントに苦労人だよな?」
「世界を運営するというのは、全員の苦労が纏まってできたことだ。俺1人というわけじゃない」
咥えタバコをしながら、肝心の受刑者達を牢の中に放り込んだ。
ダーリヤ・レジリフト=アッガイマンや勇浪など、7名の最初の囚人。その傷は全員酷く、とても脱獄できるような力もない。監獄の精度を計るには丁度良い人材でもある。
今はまだ全員、大人しく捕まっている。(というか、ダーリヤはまだ意識を失っている)
「奴等の監視のことは任せるぞ、ロイ」
「へいへーい。代わりに俺の隣には可愛い子を要求するぜ。ここって無法地帯ってことでいいんだよな~」
「監視以外にもすることがあるからな。適当に見繕ってやる。まぁ、お前はいちお借りだ。そう長くは看守をしていないはずだ」
ダーリヤと勇浪。この2人の強さが囚人の中で抜きん出ていることは把握した。二人が万全ではないこと、万が一の戦闘になっても抑え込めて。
なおかつ、暇そうな人材。
「最後、余計だろう」
ロイ以外、ここの看守をこなせる人はいないだろう。まだ組閣の段階であり、あくまで罰則を実行する損な役回りの担当者をロイにしているだけだ。
アレクはこの監獄をロイに任せ、地上へと戻っていく。彼にはやるべきことがいくつかあり、戦いながらもその事項を忘れてなどいない。目的があるから強さもより……
「!」
「やぁ」
そんなアレクの前に現れたのは、朱里咲だった。階段付近で出くわした。
「何しにここに来た?」
「ロイがいると聞いてだ。下にいるんだろ?」
すれ違って通れる幅がある階段。その壁に寄りかかり、まるでアレクを試そうかとする表情で見ている朱里咲。
アレクは一瞬止まったが、それはタバコを吸うためだと伝えるようだった。
「だから。それは理由になるのか?お前、あいつの事好きなのか?さっき、あいつは好みは年下だって言っていたぞ」
「いかんなぁ。私はどっちかというと、君の方が好きだぞ?」
その言葉にどちらも好意的な言い方はされていなかった。
タバコを吸いながら堂々と朱里咲の横を通るアレクであったが、
「それと、タバコは止めたまえ。前も言ったろう、君の強さを崩してしまう」
朱里咲は殺意を込めながらも、アレクが咥えていたタバコを奪い取るだけにした。いやにアッサリでショックがある。
アレクは地上に出ても、朱里咲に興味など示さない。しいて、彼女に告げるとしたら
「お前は向いていないから外したぞ」
「なに?」
「だからそこの看守役だ。自らやりたいかったんだろうが、そもそも女がそんなところに行きたいだなんて願うもんじゃねぇ。泥臭い男に任せろ」
その言葉はまだギリギリ。朱里咲を女と見ての言葉である。それにショックを受けたのではなく、悩みが一つ消えたような軽くなる言葉。
それでもか。
戦う以外の答えを見つけて来いと、……
◇ ◇
恐ろしい子もいたもんだね。命知らずというか
「朱里咲さんに感謝するんだね。彼女の処置がなければ、あの世行きだったよ」
別の場所では、ダーリヤ達の襲来によって傷を負った者達の治療が行われていた。クォルヴァと春藍がその任務に当たっていた。
「むぐぐぐっ」
「動いちゃダメだから!もうちょっとジッとしていれば、構築(再生)ができる」
「お前に借りを作るなんて。謡歌のために、1回は許してやる」
勇浪に左目を潰された水羽であったが、春藍の"創意工夫"と"テラノス・リスダム"の併用によって、再生の兆しがあった。
義眼という案もあったが、それに納得できなかった水羽のため、左目再生のプランを打ち出す。核となる水羽の細胞を変化させて、眼を形成していく。
「千切られた視神経が繫がると、光でビックリするかもしれないね」
「大丈夫!眩まないわよ!」
形成できても、しっかりと空いた穴を埋めるまでには時間が掛かる。固定するためのアイパッチも同時に製造し、装着する。あとは時間経過と水羽の回復力で眼が完全に繫がるようになっている。
「うん、これでいいよ」
「あ、ありがと」
「多少の行動は良いけど、戦闘のような激しい運動は控えてね?とれるなら良いけど、変な風に接合されちゃったら台無しだからね」
当分、水羽が戦えなくなった。アレクの頭の中には、ロイの次に彼女が看守役を任せるに適任だとは思っていた。早期回復を春藍も願っている。
無事に治療を終えた水羽に思わぬプレゼントが届く。
「水羽ちゃん!」
「うわっ」
むぎゅーっと、謡歌に抱きしめられるサービス。
「あわわわわ……」
「お兄ちゃん、水羽ちゃんの目!戻るんだよね!」
「うん。僕を信じて」
こうされるととても嬉しくて、自分からもぎゅーってしたいが。今はこうしている方がとても、気分の良い水羽で。たまらなく固まっていた。
水羽があまり暴れないよう、謡歌には付きっ切りでいて欲しいと春藍はお願いをしてから、クォルヴァが担当しているバードレイの方に向かった。
「どうですか?」
「一命は当然とりとめているけど、完治には随分掛かるだろうね。なにせ、彼女は一般人だ。水羽ちゃんのような再生力はない」
敵の位置を探るため、銃弾を浴びるという行為。
不気味な精神力に反するような非力な肉体。バードレイは今、麻酔によって眠りに入っており、痛みは感じていない。
「安静が必要なのは事実ですよね」
「うーん。私も、春藍くんも、あまりに彼女に構って上げられないのが現状です。ここはどうです?謡歌ちゃんに2人をお願いしますか?」
「ヒュールさんの意見も必要だと思いますね。謡歌は大切な指導員でもありますから」
ダーリヤ達の襲撃はほぼ最小限に留まった。現在は怪我人の治療を終え、建物の修復、また進む世に合わせるように労働を重ねていく。
侵略者という未知の脅威を身近で知れた住民達も、春藍達も。それらに対する防衛強化を望んだのは至極当然。治安維持を訴え、守れる存在が必要だった。
そして、……
「やはり、”彼”をいち早く呼ばなければならない」
治安に必要なのは武力だけでなく、情報や証拠が必要となってくる。何かを裁くには、裁かれるべき理由がなければいけない。
そこにいるのは、仮であっても正義の独裁者が存在しなければならない。
クォルヴァの中ではその適任者が決まっていた。これまで、すぐに誰かを向かわせることが出来ない状態であったが、遅くなる前にやるべきだと判断した。問題は、”彼”をこちらに引っ張ってこれるかどうか。
「春藍くん、君にも協力して欲しい」