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RELIS  作者: 孤独
劣等編
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野生から、知恵へ


狩り。

標的を喰らうこと。


勇浪の本能が、住民という草にしか見えない生き物を好まず。あえて自分を食おうとしてもおかしくない。そんな獣をあえて食いたいのは、満腹感と達成感を深く求めているからかもしれない。


そして、自分と同じ獣の匂いを感じ取るから。こいつを遠くには行かせたくない。ただ殴るという快感ではなく、生き物が壁と認識などしていない地面へ押し付けていくという理詰めをこなせるようになった。

逃げられたら困る。喰らうのは自分だと言いたげな、狩人を喰らう獣。



ピィッ


口から血がゆっくりと出てきた。しかし、すぐに血飛沫となるほどに水羽は素早く身体の上体を起こした。


水羽も同じだ。こいつを逃すわけにはいかない。自分と同じ"超人"。戦う能力も、自分から逃げ切れるだけの力もある。


奇しくも、単調とした蹴りや拳の出し合いをしない戦闘になる。

振り上げ、振り下ろしをベースとした打撃技で互いにダメージを与えていく。逃がさない、逃げない戦闘ぶりに周囲は声を上げる。


「はええぇっ!!」

「押すんだー!水羽ちゃん!!」

「頑張れーー!!」


当の2人、周囲の声など耳にも入らない。真剣な拳闘。

殴ったら殴り返す。受けられたら、こっちもしっかりと受ける。周囲の声にも負けない打撃の応酬は徐々に高等なモノに高めていく。

そこへ一歩、先に踏み込んで来たのは水羽だった。先手必勝が戦闘の要であることを良く知っている。



「ぎいっ!!」


手の形は綺麗な平手。

勇浪が防御していた左腕に突き刺さった貫手であった。確実で、手応えのあるダメージであったが、すかさずの返し技が早かった。

水羽の重心を触れ合い、繫がった瞬間に知ったにしてはその判断と行動までが早い。身体に力が入らないよう柔らかく受け止め、水羽の貫手を基点にして宙へ浮かす、相手を掴まない投げ技。


「っ!?」


ダーリヤとの出会い、それからの特訓によって勇浪は計り知れないほどの技を身につけていた。外見や言動からは感じ取れないテクニックに、水羽も驚く。受けをとらせない無防備なところ。



首を狙われる!



水羽は一撃の急所を護るように、顎を下げる。それは紙のように薄い防御。顔だって急所だ。死なないと繋げるための刹那の防御。

この戦闘でもっとも激しく、鮮烈な音。周囲に水羽の血が飛び散るほどの強力な勇浪の蹴りが炸裂した。水羽の貫手も力なく解けて、さらに高く宙へと上がる。


「やられたぁぁっ!?」


その一撃だけで平凡である住民達は声を上げ、悲鳴に変えて、水羽に叫んでいた。謡歌も宙へ浮く水羽に、口を怖くなって手で抑えていた。

しかし、勇浪には分かる。こいつ、まだまだやれると。獣は手負いでも噛み付く牙を持っていると知っている。吹っ飛んだ水羽よりも速く、高く跳んだ。

水羽の両足を掴み、彼女を縦にも横にも、斜めにも、激しく回転させながら



「きゃぎゃぎゃぎゃあぁっ!」



水羽を地面へと勢いよく埋め込んだ!


「ひゃひゃひゃ」


その瞬間。同時の衝動。

掴んでいた勇浪の両手も一気に地面に引きずり込まれる。掴んでいたからこそ起こる意識不能のこと。



「ぎゃぅっ!?」

「あびゃひゃひゃひゃ」


行動不能に陥れる攻撃へのカウンター。それをカウンターという類に縛って良いか、甚だ疑問なのだが。

ともかく、刹那に勇浪の両腕は水羽と共に地面に埋まった。手を離せば良いと理解した時、離した。水羽は待ってましたと地面の中で起き上がって、地上へ戻るように飛び上がる。


「!!」

「ぶっ」


迅い!!


すでに、拳を叩き込む体勢を地面から這い出た時に作り出している。

水羽の拳は勇浪の顔面を捉えていた。


「殺す!!」


その一撃は先ほど、戦っていた相手とはまるで違う重さも兼ね備えていた。


勇浪の顔は偏屈に曲がりながら、拳から逃れることができずに巻き込まれるような軌道を辿って、地面に堕つ!


「ッッ!」


勇浪は無論、理解している。どれだけ理解しているか、



今、どれだけ戦局が動いたか覚えているか?

どっちが凄かったのか?


歓声、雄叫び。周囲の様子、驚嘆などは無為。

逃れなければいけない。戦わなきゃいけない。水羽の拳はまだ、勇浪の顔を押し潰そうとある。自分が喰らったように、相手が離れた瞬間で逃げと攻めを兼ね備える手段をとらなければ。



「!」

「いひゃひゃ」


しかし、水羽は意外にも。それはもう別の意識があったんじゃないかと疑うくらい、勇浪の顔に。自らの顔を近づけていた。その目、その流血度合い。自分が獣とするならば、彼女は死体に近い。死なないゾンビ。

口付けを施すような声色じゃない。むしろ、目が覚めるような。感覚が強く刺激されるような。


「いびゃああぁぁぁっ!!」


水羽の、奇声が勇浪の体内を激しく揺さぶる。耳を塞ごうという動作すら震えと吐き気を促し、抵抗と防御への反応及び、手段を断つ。戦いを見守るギャラリー達も耳を塞ぎ、音を敏感に聞いてしまった者はその場で地面に崩れるほどの奇声。


「ぎぃっ……ぁっ……」


直撃の勇浪はふらつく。身体も意識もふらついたところで。


水羽の雷の雨と言うべき、豪打がいくつも勇浪の身体に叩きこまれていった。地面に深く、お互いが穴を造り出し、埋もれていくように。

住民が水羽の奇声から抜け出し、2人の戦況を再び確認した時、地面の下に消えていたところだった。地面に穴を空けるほどの連打を浴びながら、生きていられる者がいるか?



「おるな」

「朱里咲さん!」


謡歌の隣に、声を聞いて朱里咲がやってきていた。まだ、交戦中であることは分かる。しかし、その戦闘に割って入るようなスペースと時間は一切無かった。

穴に近づかず、ほんの10数秒の間で決まる時だ。



「いかんなぁ、遅刻してしまったか」

「え?」



できるなら、



朱里咲が予想している時間を過ぎるのならば、戦う機会はあった。



「ひゃっ?」


勇浪のダメージが痺れ、麻痺を上回る負担。苦境に陥り、それをいち早く逃れようと感じ、動いていたのなら水羽の勝ちで決着はついていた。

小さな空間、動ける選択肢の少なさ。水羽の暴威と猛攻は一部の隙を見せなかっただろう。



「っ、……あっぅ……」


弱る声、動けぬ身体。しかし、勇浪の右手はギリギリで必殺の一撃を放てる力を残していた。技術とは単純なことではない。演技力。戦意も、生きる気力もない、死体となるように、弱ることを見せ付ける。

殺される一撃を撃たれた直後に。



水羽の攻撃が鈍ったのは勇浪の死体への偽装にひっかかったからだろう。殴り続けるテンポも遅れていく。戦う相手がいなくなれば、その拳の意味もなくなる。

終わったと自分で決め込ませる。勇浪の見事な擬態はズバリ




ドバアアァァッ



瞬間の出来事だった。


勇浪は水羽の左目に、自分の右手を突っ込み、抉り、進めた。




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