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RELIS  作者: 孤独
劣等編
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水羽 VS 勇浪


水羽と勇浪が交戦するその少し前。



春藍はその戦地への到着がやや遅れていた。怪我人の治療もそうだが、何よりここまでやってきた侵略者の迎撃を行なっていたからだ。


「謡歌を水羽ちゃんに任せて大丈夫だったかな?」


クォルヴァをして、"強さ"だけならばアレクに引けをとらないと言われるほどにも達した春藍だ。苦戦という苦戦もなく、むしろこれほど強い奴がいるのかと、敵も味方も驚くべきものだった。


"創意工夫"+"テラノス・リスダム"という、想像と創造が完全に融合された造形能力、リアの身体を埋め込んで、半サイボーグと化した身体はそう容易くはダメージを通さず、高火力の兵器で敵を圧倒する。



「あ、あんなに強い人がなんで後方支援なんだろうか?」

「す、すげぇ。顔は女みたいなのに、めちゃくちゃ強い」



侵略者を無事に倒したという安堵感はそれほど大きくなかった。それは春藍も同じだった。

上空にいるライラへ現状の報告をする。


「ライラ、聴こえる?」

『ええ。春藍、聴こえるわよ』

「今、僕が侵略者の1人を倒したよ。それと、水羽ちゃんと謡歌が騒ぎのあるところへ向かっている。たぶん、侵略者の1人だと思うけど」


ライラは今、侵略者の数をチェック中。


『ふーん、分かったわよ。じゃ、残りはアレクと水羽が交戦中ってことね』

「!アレクさん、まだ戦ってるの!?」

『ちょっと他の奴より強いみたい。心配しないで、ロイが近くにいるし、アレクが負けるわけないのは春藍が一番知ってるでしょ?』

「うん、それは当然」

『私と夜弧、クォルヴァは戻るし、朱里咲に至ってはもうすぐ、そっちに着くみたい。早く、持ち場に戻りなさい。水羽と謡歌は私と朱里咲で当たるから』



春藍。ライラの指示を受けて、本来行くべきであったところへと向かう。

怪我人の救護が彼の役目であることは確かである。


一方で、


「だ、誰かこちらに来る!」

「あれは……」


情報を発信している拠点にいたラフツー達は春藍と水羽の到着を待ちながら、違う人がやって来たことに気付いた。そのスピード、無茶苦茶なところを駆け足で突っ走る。1人の女性を抱えながら突撃する。



「いかんなぁ。春藍くんか、クォルヴァは来ていないのか?」

「しゅ、朱里咲!その子はどうしたんだ!?」



撃たれて気を失っているバードレイを抱えた朱里咲がもう到着した。



「春藍くんはまだ来ていない。というか、侵略者と交戦していると彼から連絡があった。クォルヴァ殿も同じくかと」

「そうか。ならせめて、看護できるところに彼女を」

「ああ」


全力で走ったことでわずかにあった邪を振り払おうとしたものの、その念は一向に晴れなかった。


「水羽もいないのか?」

「彼女も、ここまで入って来た侵略者と交戦しているようだ。なにやら大きな騒ぎが起きてるようだ」


ラフツーから戦況を聞いていくにつれ、朱里咲が抱える不満は徐々に大きくなっていく。理性で、正気を保とうと必死だった。

用意されたベットの上にバードレイを運び、応急処置を施す。左胸を貫通し、その命は一瞬で終わりかねないと思われたが、


「彼女は奇跡的に生きている」

「その傷で本当に大丈夫なのか」



あくまで補助にしかならない。


「!うっ……」


次の瞬間、ラフツーは朱里咲とバードレイから目を背けた。朱里咲のこれは応急処置ではないが、そのやりとりは大手術。麻酔の無い中、やってのける人体の解剖。今、バードレイの身体は胸の上下で2つに割れていた。

大真面目にやってしまう朱里咲の行動力。それでもなお、


「男が今を背けるな」

「しかしだな……」


普通に見れば、不安や心配が立ち込めてそっぽを向ける。

銃弾の貫通によって、失われた細胞をバードレイを武器化することで修繕していく。あらゆる物を武器にし、その武器を直す特性の応用を人体に施す。

指先がメスのようにも、糸のついた針のようにも、人体を止めるホッチキスにも多彩に変化していく。


「傷口の縫合をしかとしていく」


除菌や、その精密ぶりな縫合は改めて春藍やクォルヴァに頼まなければならないが。これでバードレイがいた生死の分かれ目から、数歩後退して安全圏。


「侵略者の方はどうなっている?」

「夜弧ちゃんからの報告によれば、侵略者の数は14人。その内、10人は倒していると聞く」

「14人か、少ないなぁ」


朱里咲はとても残念そうに溜め息をもらす。そこから後、ラフツーからの被害報告なんて耳には届いてこなかった。

戦える敵は残り4人。しかし、ここに春藍達が戻って来ないことを察すれば交戦中の可能性が高い。被害縮小、敵の所在。その2つを天秤にかけたらすぐに秤は動いた。



「ここから一番近い敵はどこだ?」

「むっ、ああ。おそらく、水羽ちゃんのところだろう」

「地図を出せ」


朱里咲はイライラを出した声でラフツーに指示を出していた。

自分の弟子を助けるためではないことは、聞いたラフツーにも分かっていた。

強き、抑えられない、戦乱の女神。


「ここだ」


すぐに位置を教えてもらったら、飛んでいった。窓を丁寧に空けて飛び出せたのは、朱里咲にわずかに残る人間性があったからだろう。



「死ぬなよ、水羽」



それは水羽自身に言っているつもりはなかった。



◇   ◇



残った戦場は2つ。


アレク VS ダーリヤ。水羽 VS 勇浪。


この時点でダーリヤ側の敗北は、決定的であった。あとはどうやってこの戦いを締めくくるか。生き延びるか、それとも全員死ぬか?



「やろっか」



先に踏み込んだのは水羽だった。

まだ、自分の理性、意識を吹っ飛ばさずに勇浪との間合いを縮めていく。

周辺には水羽が護るべき住民がいる。受けに回れば、被害は広まってしまう。できるだけ、意識が残っている内はベタ足の接近戦。むしろ、掴み合いが理想。


「くきゅるるきゅきゅり」



独特な言葉をかけながら、水羽の踏み込みを受けて立つ勇浪。

一歩、二歩、三歩。詰めていく足の幅は平均的な、一歩と同じでも緊張感を発していく。周囲にいる人々が逃げず、見守るという物見遊山をさせてしまう。


「水羽ちゃん」


それは謡歌も同じ。

いちゃいけない。心配なのは分かっている。見ても何も変わらないことも知っているのに。

それが最後なのかも、そう不安になったら嫌でしょ?



思考をさせてくれるだけの時間。お互いが、何も手を出さなかったからこそ。

ギャラリーが息を呑める。そして、ギャラリーという存在を作れるだけの戦闘範囲の凝縮。とっても小さなリングが見えるような、”超人”に相応しい接近戦。


「き」


『奇遇だね』。そう、頭の中で言葉をイメージをした水羽であったが、


「ぎゃばらららぁ!」


勇浪の拳は水羽の言語を声にする前に、上から下へと打ち抜いていた。

2人の戦闘が始まった。


「らららぁあぁぁ~~」


額をぶん殴り、水羽の頭から血が流れる。両足が潰れるかのような勢いも、地面の凹み具合で伝わる。勇浪はさらに右から転がすような蹴りを水羽に叩き込む。彼女を狩るという、生命本能が沸き立った。

一方で水羽は無言。唐突な一発に怯みはしたが、冷静。



パァァンッ


「へぁっ?」



蹴りも喰らったが、さらに地面に倒そうとする掴む左手は防いだ。


本当に、奇遇にも。考えている1対1を勇浪がしてくれた。


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