管理人達の被害報告
ウェックルスの死亡。"金の城下街"ゴールゥンの大混乱。"黒リリスの一団"の二名を取り逃がす。多くの建物が崩壊、市民の12分の1が重傷者以上。世界の復帰には30年以上の期間を要すると見込まれる。また、新たに管理人を派遣するように。
『ほとんど桂の仕業ではないか?クロネアよ』
「返す言葉もありません」
『ここで黒リリスの一団の者を殺害、もしくは捕縛していれば処分はまだ温かっただろう』
クロネアはこの世界の出来事を、モニターを通してあの時と同じデフォルメ姿のポセイドンに報告していた。
ウェックルスの死亡を除けばぶっちぎり一位で桂と、凄かったが桂の足元には及ばなかったリア。この2人が作り出した世界への損害は大きいものだった。
「ゴールゥン、後任の管理人については私達の者の誰か。いっそ、今井とゼブラの2人を配置させたいと思います。二人の"科学"は復興や状況改善に向いている」
『ふむ。確かに適任ではあるが、フォーワールドは大丈夫なのか?フォーワールドにはアレクという優秀な者が未だに帰還していないそうだが?どうなんだ、クロネア』
「桂さんが引き取りたいと仰っておりまして。ライラ・ドロシー、アレク・サンドリュー、春藍慶介、伊達・ネセリア・ヒルマンの四名は"和の国"吉原に滞在しております」
『また桂か。ふっ……"管理人"の仕事を妨害するのが仕事だな』
異世界を一名の管理人だけで管理させる事は大昔から問題があった。
特に、ウェックルスのような独裁的で管理と呼ぶには相応しくないやり方をしている者や、万が一の事態が発生した場合。修復するにはとても困難であった事。
とばっちりのように、ウェックルスが犯した管理者としての不適任な業務の責任はクロネアが全て背負い込んだ。ライラ達を逃がしていなければこんな事にはならないだろう。そーゆう面もある。
『ウェックルス最大の罪は死だ。死は責任と不幸、痛みから解放される。捕まえられない逃げに等しい所為』
「はい」
『そして、ウェックルスを死に追いやった人物は黒リリスの一団でもない男の子と聴いている。この報告にもそう書いている。春藍慶介を』
今回の件の、最大の罪人として処分を行いたい。
「………………」
『ライラにも、アレクにも、その罪を被せられない事情があるのは分かっていよう。だが、罪は必ず誰かを犠牲に滅ぼさなければならんのだ』
「どのようなお考えで?ポセイドン様」
クロネアは、ポセイドンに対して問うのだった。
だが、そんなやり取りが行われている事など。春藍には知る由も無い。なぜなら彼は今まで、長く生死を彷徨うほどのダメージを負っているのだ。
チュンチュンッ
"和の国"、吉原。
ここが桂が"管理人"として、管理している世界でもあり、ライラの故郷でもある。
ホントに自然に囲まれている、山や谷、森、川、湖、雲、たくさんの動物、及び魔物達が集まっている。風情ある景色が広がる世界だ。また自然だけでなく、水車や不思議な形をしている木造住宅。暖簾なり、刀なり、扉なり、簾などを見ても。
ライラが住んでいたとは思えないほどの和式の世界観だ。
出歩いている人々も侍やら豆腐屋や、魚売りやら、フォーワールドから来た春藍達にとっては無駄や非効率、危険な物が多く感じられるところだろう。だが、どいつもこいつも今を楽しんでいるかのように生活を送っていた。
「拙者はこーゆう平穏に憧れている。アレク殿にはどう思う?」
「なんで俺に"殿"がつくんだ?」
「ライラが迷惑をかけた御仁だ。さぞ、迷惑だった事だろう」
「むしろ、最終的にまた一つ異世界にいけただけでラッキーだ」
アレクは桂と並んで座り、桂が淹れたお茶を飲んでいた。これがまた旨いと、アレクには分かった。
普段はコーヒーなどを好んでいた自分がはまるとは思わなかった。
「アレク殿は嫌いかな?管理人なりの、管理人のやり方に」
「嫌いだな。たとえ、子供が普通に遊んでいて、誰にでも働き口があるこんな平和そうに見える世界だとしても、お前等の作り出している遊び場でしかねぇーだろ」
アレクの反論に桂は真に受けて返答する。
「確かに遊び場だ。人間を使っている遊びに過ぎないだろうな」
「…………」
「"管理人"は人を護っていれば何をしても良いと思われるかもしれん。"管理人"が人に対してできる事は各々違う。拙者の"吉原"は拙者もまた、この世界の住人のような形だ。なるべく、人として行動し、生活しておるのだ」
生れ落ちた身体に埋め込まれた父ちゃんと母ちゃんの遺伝子が、自分の中に埋め込まれているのは紛れもない事実だ。そして、気付いた時に立っていて見上げているのか、見上げずとも見える家なのか。休息もない辛い辛い金銭トラブルを抱えているのか、あまりにも暇なのか。
生まれや育ちという環境は誰にも選べるとは思えない。だが、変化があるかもしれない。
確かに不平等だ。だが、誰もがその瞬間から不幸が決まっているとは思えない。
生まれちまったら、そこがもう世界であり常識という枠組みはできているのだ。
「遊び場はな。ちゃんと何をして遊ぶか考えなきゃならんのだよ。アレク殿が"科学"を使うのと同じように頭を回して、物事を考えなくては楽しめない。考えずに遊べば火傷を負うものだろ?」
「……確かにな」
「最低限のルールが書かれないのは頭で考えれば分かる事なんだ。理解ではなく、当然にな」
アレクと桂がこうして話している間。
ライラはネセリアにこの世界を少しだけ案内していた。
右足だけでなく、左足まで切断しなければいけない事態になってしまった春藍は、病院で手当てを受けていた。春藍の意識さえ戻れば、自分の"創意工夫"で両足を生成する事くらいできるとアレクは言った。チヨダで手に入れた素材も使えば作り出す事もできるだろう。
ただ、困った問題があるとすればその足は人間とは言えない足だということ。機能を持つが、人の足ではない。義足だ。
誰もその先を見ていない。