クォルヴァ VS ダーリヤ
戦うということ。襲うとは違って、お互いが間合いに入ったこと。
超越した者と、すでに人間から外れた存在。
バギイイィッ
「?」
ダーリヤは拳を空気に叩きこんだ。音、風、光、その3つが弾けるように散っていく。必然的に空間の歪みが起きる。
「なんだろね」
戦闘において、つまらぬことと言えば。相手の特徴の一つである、能力の答えが分かっていること。
大した時間は掛かっていない。
クォルヴァは関心かつ、楽しみに興じる。それだけ両者に差があることが示されている。
この空間のヒビは魔力じゃない。武器も持っていないから、科学の使い手ではない。
桂やロイと同じ、"超人"
考察、駆け引き。戦闘はそこまで好きじゃないが、楽しいと思えるところは縦に頷ける。こうして強いだけしか理解できない状態で戦うなんて久々だろう。
そして、わけも分からず攻撃をもらうことも……
「!」
体が触れている空気がいきなり爆発したように、推進力でクォルヴァをぶっ飛ばす。彼だけじゃなく、周囲の物という物も空へと弾き飛ばされる。
「おっ」
体が浮いてから、内側に染みてくる殴られたダメージ。風のような攻撃にしては見えず、速く、感触も違っている。後方に飛ばされながら、思考を回す。能力を把握することは勝算を高める。なんて、今のやり取りですでに遊んでいる。
思考によって、現実を背けるクォルヴァ。真正面にいたはずのダーリヤの姿を取り逃がした、一瞬に等しい隙と慢心。
すでにダーリヤはクォルヴァの死角に回りこんでいた。
左の手刀でクォルヴァは文字通り、体を一刀両断。さらにはその余波で地面に大きな刃の傷を生み出し、空気を切り裂いて周囲の物体を大きく揺らした。
「君、速いなー」
「!」
言葉を生み出し、声を発する。
並の人間ならばこの2つの攻撃で絶命している。ダーリヤの身体能力の異常性を的確に表し、強さと影響力を生み出しているのにクォルヴァの余裕は消えず。
まだ生きていると讃えるようで、早くクタバレと言いたげに繰り出した3連続目のダーリヤの攻撃。
右足で地面を静かに擦る。それは目にも止まらぬほど。
そのほんのわずかに生まれる摩擦熱、静電気に際限を持たせず出力させる。右足に炎と雷が生みだされる身体の扱い方。
「わぉ」
クォルヴァはダーリヤに焼かれ、雷を浴び、蹴られるという三段攻撃をもらう。
髪の毛はぐじゃぐじゃ、服は燃える。
それでもクォルヴァは平然と立ち上がった。
「ビックリだ」
ダーリヤの攻撃は止んだ。それはクォルヴァの"能力"を探るための様子見。消極的とも思えるが、ようやくやった最善手であろう。
あの素早い連続攻撃に、強力な攻撃を浴びても平然としていられる身体。燃える炎も鎮火され、身体を作り上げている細胞から服の繊維まで戻り始める。
その回復速度はダーリヤの連続攻撃よりも速い。
お喋りという、戦闘の不要な代物
「人間ってのは強くなるんだね。君との出会いはハーネットくらいの衝撃かな?」
「超高速再生の能力か?それも極めている部類に入る」
"超人"ではなく、"魔術"による再生だからこそ。服の再生も行なわれているとダーリヤの目は見抜いた。そして、その再生力が魔力にも繫がっているとしたら、相当な長期戦を強いられることになる。
今のところ、クォルヴァからの攻撃はない。再生力だけが取り得ならば抑え込める手段、勝つ手段は浮かべられる。ただし、
「ふっ」
「?」
この者と戦うことに得策はないと見た。
ダーリヤは地面を強く蹴って、跳んでいった。それも空まで
「逃げるとは考えたね。というか、普通に空中を飛んでるなんて……」
こちらの手の内がバレ、相手がそう簡単にくたばらないと分かれば十分な取引だった。
「名を訊いておきたい、最後の管理人。なんと申す」
「クォルヴァ。君に今勝った管理人さ」
降りて来いと、分かるだけの挑発を試みるクォルヴァであったが。軽く流したダーリヤ。確かに脅威であると互いに感じたが、
「俺はダーリヤ。ダーリヤ・レジリフト=アッガイマン」
「名前が長いからダーリヤって呼んで良い?」
「いいぞ」
ちょっと軽いノリが入ってから
「また会おう。クォルヴァ!次は無事じゃ済まんぞ」
ダーリヤは空中を使ってでも、クォルヴァから逃げていった。
標的を取り逃がしたという表情を作るも、無理をして追う事はなかったクォルヴァだった。
「やるなぁ。私が"超人"ではないことを見抜いて、距離を離すなんて」
身体能力では君に勝つ事はできない。戦闘なら私が勝てたけどね。
戦いを避けられたら、私の任務も6割は失敗に終わる。お互いの情報で取引かい。
「若、一旦戻ろうか。情報を精査しよう」
『その方が良い!その方が絶対良い!ライラやアレクが来ないと、あんな化け物に勝てねぇよ』
「私、攻撃してないだけだよ。信じてくれないのね」
『いや、そんなことは……』
「なら信じますと、言わせるよ」
ちょっと溜め息をついたクォルヴァ。
随分と物騒な侵略者が来たもんだ。
◇ ◇
「クォルヴァか。随分と厄介な能力を持っている」
ダーリヤは空でも行動が可能の身体能力を持っていた。空中を自在に飛び回りながら、この異世界の情報を探ろうと思っていた。
とはいえ、頭の中の大半はクォルヴァを倒す算段。
「奴の攻撃を見るべきだったか。しかし、破壊ができる能力があるとは思えん」
いかに再生能力に優れていても、閉じ込めるといった類から脱出ができるだろうか?行動さえ封じれば勝ちは繫がる。
「まぁ、奴は最後に回す」
ダーリヤの思考は概ね間違いではない。しかし、捕縛は閉じ込めるといった類を切り抜けることができる力を若が持っている。"ディスカバリーM"の空間移動を用いれば、多少の捕縛では抑えられない。
意外なことに、クォルヴァと若のタッグが敵として回すと厄介なのである。
「むっ」
そして、この中で敵として回ったら。強さという点ではこの男がいる。
お互い、出会った。
タバコの煙と匂い。部下に買って貰った新品の白衣。
男が行く道を塞ぐように、バズーカを握り締めダーリヤを睨みつけた。
「よぉー。テメェ、スーパーマンか?」
「また、面白い奴がいるな。人類の未来は思ったより明るいか?」
空中移動を止めて、その立ち位置を同じにする。障害物が少ないこの場所。人が通るシンプルな道に降り立ったダーリヤ。
「お前が侵略者共の親玉か?」
「そーいう貴殿は、この異世界の親玉か?」
アレク・サンドリューが、ダーリヤの前に立ち塞がった。