時代の支配者
春藍にはどんな服が合うだろうか?可愛い系の男だ。
「どんなの着させる?」
「うーん、やっぱり男らしい服はなしで!」
「兄に対して、そーゆうことを言うのね。謡歌。でも、私も同じ」
「僕はあいつに恥ずかしい服を着させてやりたい!」
自分達も着ているのだが、お前も着ろという。もっともらしい声である。
ライラと夜弧、謡歌、水羽の4人は集まって春藍のファッションについて考える。それを不安ながら眺める春藍。その肩を叩くアレク
「あいつ等のことを任せるぞ」
「えー!?アレクさーん!」
「俺達は自由行動ってことでブラブラしてくる。祭が終わる頃にまたここでな」
「君の格好は最後の最後に楽しむとするよー」
「たっしゃでなー、春藍!」
アレクやロイ、クォルヴァなどはそれぞれ散り散りとなって、祭の中へと行ってしまった。もう春藍を助けてくれる人はいない。むしろ、どんな格好になるか楽しんでいるようだ。
「す、少しは助けてくださーい!」
春藍は悲鳴染みたお願いを叫ぶも、アレク達は行ってしまう。
後ろからライラと夜弧に捕まって、引きずられる。
「よーし、大体決まったから!あとはお店に行きましょう!」
「そうですね。諦めてください、春藍様」
「えーっ!僕をどーするつもりー!」
◇ ◇
「で?何か用があって、さっきの攻撃をしたのだろう?」
散り散りになったかと思えば、アレクはすぐにクォルヴァと合流した。
「若を外せ」
「?私、個人と話したいのか」
クォルヴァは胸を叩いて、若と分離する。
「おわっ!……なんだなんだ?」
「若。祭を楽しんでろ」
「僕が聞いちゃいけないのか?」
「あんまり良い話じゃない。クォルヴァだけに確認したい」
「だってさ」
若は仕方なく、しぶしぶとブラブラする。春藍の用意した服のせいで、少しばかり歩き辛い。アレクとクォルヴァは祭の最中であるが、すぐに人の出入りが少ない方へと向かった。
そこまで何も喋らず、周囲の様子を探っているような2人。
ようやく、誰もいないところで立ち止まり、木に建物に寄りかかって話し合う。当然、アレクから声を出した。
「今後のことだが、俺はマリンブルーだけには用事がある。春藍、ライラ、ロイ、夜弧の4人は最低、来て欲しい」
「ポセイドンの館に用事があるわけだね。重要な資源もあるけど」
「……その時のフォーワールドの留守をお前に任したい」
「それは当然、承諾する」
しかし、それは最低限の内容。その留守中のことでアレクは気になっている事があった。最近、感じている奇妙な存在感。
「守り抜けるか?」
「……うーん」
「お前なら感知してるんじゃないか?なんか、奇妙な視線というか。存在というか。俺は感じているが、わかんねぇ」
「なるほど」
「あの日。"港未来"から来た"ザクロ水"が流れ込んだときから、何かがいる」
その時は2人共、気のせいだと思っていたが。その存在は時々、現れていた。
「春藍やライラ、ロイも気付いていない。俺の勘違いか、警戒の強さの誤りならホッとできるが、断言できる。そうじゃない。お前も感知している!」
「………凄いな」
人間でなら、一番にその存在に気付けたのはアレクだろう。
クォルヴァはその答えを知りながら、黙っていたのはいけないことだ。
「その正体は"時代の支配者"だろう」
「!」
「ポセイドンも、桂も、奴を消すことに躍起になったが、衝突し合ってしまった」
いるようでいないという感覚と現実。追いかけても実体のない存在。というか、現時点においても不明。
「管理社会が崩壊した、この機に何かをする。奴はこれまで長い時代の中で存在だけしている」
その姿も、その名前も、その目的も、不明。
だからこそ、確かめることも断定することもできない。こちらからでは戦えない存在。管理社会も"時代の支配者"から逃れるための、社会作りでもあった。
「ポセイドンが強く殺意を抱いていた奴か。だろうな」
「なんだい?知ってたの?」
「いちお、奴が俺の師だ」
影すら捉えることもできない存在について、知らされたアレクだったが。内心はそんなにビクついてはいない。確かに不気味ではあったが、どんな奴かを知りたかっただけだ。
そして、クォルヴァに確認をとりたかった、もう一つのこと。ポセイドンが"テラノス・リスダム"を用いて造り上げていたとある原石。
漆黒の石。謎の"黒い核"をクォルヴァに見せる。
「!それは……」
「中身が"なに"で出来ているかは、検証を終えた」
「ありゃりゃ、最近、忙しかったんじゃないの?」
「研究ごとは休みと同じもんだ」
"黒い核"にクォルヴァの表情はとても可哀想な目を向けていた。だろうな、と。アレクも心中を察する。そして、調べて分かることとして
「人類に選択しろって事だろ?」
「だね」
「"時代の支配者"と呼ばれる奴が、このまま操る時代のままでいいか。それとも、"時代の支配者"を倒し、何も縛られない時代でいるか」
研究心だけじゃなく、想像力も豊かなこと。クォルヴァはアレクの器には大変、驚いていた。
「とりあえず、"管理人"を造った過去の人間達は"時代の支配者"を倒したいようだな。お前等も含めてな」
「ああ、それは悲願だよ。桂やポセイドン、全ての管理人の代表として、私は伝えられる。君は?」
「当然、同じだ。姿すら見せずに全世界と全時代を操ろうなんざ、許してたまるか」
管理人代表がクォルヴァなら、人間代表がアレクだろう。
「人間はそういうぜ。なんで、お前のために生きたり、死ななきゃいけねぇ?」
まだ、その存在をしっかりと確認したわけではない人類。現段階でも、なんの手掛かりも掴めていない。そんな状況、あるいは宗教のような存在を信じられる奴がいるだろうか?科学的な証明もできない中。
「分かった」
「なんだ」
「そろそろ会わせるべきだと思っていた。まず、アレクくんは必ず会うべきだ」
管理人だって、いずれ人類がその存在に気付いてしまった時。拳を振り上げて戦うことは予測していた。
クォルヴァは唯一の、"生き残り"にアレク達を会わせなければいけないと使命に感じる。
「なんだ、事情通がいるのか?」
「そんなところだよ」
桂、ポセイドン、みんな……。いよいよ、なんだね。
人類が本当に、管理から解き放たれて、見えない支配と戦う時が来たこと。それでも、その強大さから言って我々の不利は否めない。いくつも不安事項がある。クォルヴァに分かる範囲、アレクに分かる範囲。
「会わせたい奴も分かるが、あっちが。あー……」
ちゃんと名前を出した方が良いか。クォルヴァも分かっているはずだ。なにせ、管理人なら"あの女"が
「夜弧の正体を知っているんだろ?俺の、元部下。伊達・ネセリア・ヒルマンのRELISという部分以外の正体も」
「アレク君、大分踏み込んでいるね?独自で調べたの?」
「それもあるが、ポセイドンの調査力をなめるなということだ」
今はとてもより良い関係を築いているし、春藍やライラも。夜弧のことは仲間という認識をしているだろう。しかしながら、アレクは仲間であっても警戒は怠ってはいなかった。いつでも表と裏を返しそうな、夜弧の正体。
「夜弧は……」
もし、アレクの仮説が正しければ、夜弧の正体は。